第3部 絶望
2部よりは上手く書けました(恐らく)。怒涛の展開ですが、ゆっくり見ていってくださいな。
「…お前も、覚えてるんだよな。」
オズキは俯いたまま何も答えない。
「どういうことだ…どうして私はお前に殺された?なんでお前はそれを隠して私に接してきた?…答えろッ!!」
理由がどうだかは知らないが、私はコイツに殺された。湧き上がる敵意と恐怖に震えが止まらない。これまでの優しい態度を知っているだけに、コイツの目的が全く読めない。
「…思い出したのは、僕に殺された、ということだけかい?」
「…?ああ、そうだ!!お前もやっぱり覚えているんだろ!?どうしてだ…答えろッ!!」
そう言うとオズキの身体か小刻みに震え始めた。なんだ?泣いているのか?動きからその感情を読むことはできなかった。
「そうか…残念だ…この部屋の出現が予感できたからこそ、早めに寝るのを勧めたってのに…また失敗だ…。」
失敗?また?何のことだ、コイツは何を言っている。その表情は今だに分からない。
ゆっくりとオズキが顔を上げる。酷く悲しそうな顔だ。
「何も思い出さなければ、思い出させなければ、今度こそ幸せになれると思ってたのに…。」
分からない。コイツの言っていることも、その胸の内も全くもって理解ができない。それが一層恐怖を掻き立てた。
「何を言ってるんだよ…。いいから理由を話せよ!!私はどうしてかって聞いてるんだ!!」
不意にオズキの震えが止まった。どうしたのか、その一瞬であろう時が永遠のように感じられた。
「クックック…」
静寂を切り裂くようにオズキが小さく笑い始めた。なんだ、どうしたってんだ?
「アッハッハ……アァッハッハッハッハ!!」
わざとらしい程に邪悪で大きな笑い声は、病室の壁に反射して四方八方から聞こえてくるようだった。なんだ、なんなんだコイツは。今までにないほどの大量の汗を書いた身体が、まるで自分のものでないかのように震える。
「アハハ…その通りだよアイビー。僕が君を殺した。君の言う通りだ。…でその理由が聞きたいんだっけ?」
いつもと変わらないはずの笑顔が酷く恐ろしく見える。
「ぁ…あぁ…そう、だ…」
声も上手く出せなくなってきた。
「そうだねぇ……君が僕を愛してくれなかったから…かな。」
ゆっくりとその場を歩きながら、彼は話を始めた。
「僕はね、産まれた時にに母が亡くなって、それを理由に父親から恨まれて生きてきた…ま、要するに愛されない子供だったわけさ。」
大げさな身振り手振りをしながら話を進める。
「父から激しい暴力を受けながら、死にたいと思いながら生きていく暗い暗い日々だったよ。でもそんな日々の中に君が現れたんだ。」
何となく聞いたことがあると思うところのは、この話がが真実であるという証拠だろうか。
「君は僕に優しさを向けてくれた。僕は君を好きになった。そして、その気持ちを君に伝えた。君は僕の気持ちに答えてくれた、僕を愛してくれた。天にも昇るような気持ちだったよ。君は僕を愛してくれる唯一の人だ。そう信じていたよ。」
ここで一瞬間を置いて、彼は口調を荒らげた。
「ところがだ…!!君が僕に向けた愛は所詮遊びでしか無かったのさ。ある日君は僕に唐突に別れを告げた!!『君のことはもう好きじゃない』ってさ!!」
先程と違い、あまり覚えのない話だが彼の感情のこもった話し方を見るに、これは事実であるのだろう。
「君に愛されなければ意味が無かったんだよ!!僕以外の人を愛する君を許せなかった。」
なんて現実味のない話だろうか、ここまで一人の人間に固執するような人が居るなんて。
「そこで僕は思った。君これ以上が他の人を好きにならないように、君を殺せばいいと。そして君が居なくなった世界に耐えられなくなった僕はその後に死ねばいいと!!」
正気の沙汰ではない。信じられない。
「だから君を殺した。僕は、君と永遠に二人で居られる世界があれば良かったのに、そう強く思いながら。自分の喉をナイフで切り裂いた。」
私と二人で永遠に居られる世界…?それはまさか。
「それから後は…お察しの通りだ。正直この世界に来た時は僕もここが何かなんて分からなかったけどね。最初に君とあった時、この世界が自分のものだと言う自覚が何故かあったと言ったね。それは記憶を無くした君が現れた瞬間に確信したことなのさ。どうして出来たのか、そんなことは分からないが、ここは僕の願いを形にした場所だと。」
一旦間を置いて、彼はまだ話を続けた。
「…が、だ。残念ながら君は記憶を取り戻してしまった。そんな君が今から僕と幸せに暮らす、そんなことが可能か?…いや、不可能だ。」
そういう彼の手にはいつの間にか、先程ベッドの上に転がっていたナイフが握られていた。まさか、そんな馬鹿な。少し収まっていた震えがまた戻り始める。
「さっき僕がまた失敗と言ったよね。実はね、今そこにいる君は、『4人目』の君なのさ。」
彼がゆっくりと近づいてくる。逃げようにも、足が全く言うことを聞かず、上手く走れない。
「知っての通りここは僕の望んだものが手に入る世界だ。今回の君が失敗なら、またやり直せばいい。」
よたよたとなんとか辿り着いたドアが目の前で消失した。ダメだ、逃げられない。
振り返ると、彼は既にすぐ側まで近づいてきていた。いつもよりもいっそうの笑顔を浮かべた彼はナイフを振り上げ、口を動かした。
「バイバイ、アイビー。また会おうね。」
振り下ろされたナイフが首筋に刺さる。激しい痛みに耐えられず、床へと倒れ込む。
徐々に薄れゆく意識の中見えた彼の顔からは笑顔が消え、一筋の涙が伝っていたような気がした。
まだ未回収のフラグが多いぞ!!とか矛盾点があるぞォ?と思ったお方、安心してください。もうちっとだけ続くんです。