第2部 記憶
結末は思い描けてきてるんですが、どうも経験が足りずそこまでの流れが上手には書けませんでした…。暖かい目でご覧下さいませ…
この小屋に住まわせてもらう形で生活を始めて、しばらくが経った。最初に感じた印象とは違い、ここでの暮らしは非常に快適である。オズキが願えば手に入るというのは本当に何でもなようで、私がここを訪れた翌日には小屋に私用の新しい部屋が出現していた。また、生きるための物だけに留まらず、トランプやらゲームやらなんかの娯楽物まで手に入ると言うんだから文句のつけようがない。
それにオズキ自身も非常に良い奴だ。ただのお調子者かとも思っていたが、記憶のない私を気遣ったり、ここでの楽しい生活の仕方を教えてくれたりと、こちらも文句のつけようのない優男である。まぁちょっと調子に乗ることもあるのだが。
「いやー死んだ後だっていうのに、こんなに満たされていて良いもんなのかねぇ…」
思い返してみて、あまりの充実さに思わず独り言が漏れる。ただ相変わらず記憶が戻るような気配は無い。まぁ正直死ぬ間際の記憶なんか思い出したくないもんなんだが…。どうも何か引っかかるものがある。なにか思い出さなければならないような気がしてならない。何か…大事な…
「アイビー、晩御飯出来たよー!!」
あ、もう晩飯か。まぁ思い出せないってことは大した事じゃないんだろう。というかいつも思うがお母さんかよ、オズキ。巡らせていた考えのことは忘れ晩飯を食べるべく、私は寝転んでいたベッドから立ち上がりドアの方を目指した。
「今日の晩御飯はカレーライスでーす!!」
「いつも思うんだけど、それわざわざ手間暇かけて作らなくても、カレーライス欲しいって願えば完成品で出るんじゃないの?」
「分かってないなーアイビー、前も言ったようにここはどう楽しむか、なんだよ。料理も自分で色々凝って作った方が楽しいよ?」
オズキとの会話ももう大分慣れ親しんだものになってきた。まるで何年もの間友人であったかのように心を許して話すことができる。本当にこの家に居たのがこんな良い奴で良かったものだ。良い奴過ぎてむしろ不気味なくらいだ、あ、相変わらずカレー美味い。
「食べ終わったらデザートにリンゴ剥いてあげるからねー、リンゴ好きだったでしょ?」
「おう、それは楽し…」
その瞬間ザザっと音を立てるようにして、全く知らない場所の光景が白黒画像のように脳裏をよぎった。
(リンゴ、剥いてあげるね)
そう言った男の顔の上半分はモヤがかかったように黒くなっており、口元だけがハッキリと見える。悲しげな笑顔をこちらに向けている。どこだ、ここは。誰だ、こいつは。
「……ビ…?」
これは、記憶、だろうか。
「ア…ビー?」
それにしても、いったい、何の…?
「アイビー!!」
ハッと意識が現実へと戻る。オズキが肩を掴んで、心配そうにこちらを覗き込んでいる。
「急にボーッとしてどうしたの?何回か呼んだのも聞こえてなかったみたいだし…」
「あ、あぁ…すまん、なんか…変な場所が見えた気がして…あれ、記憶だったのかな…」
その言葉にオズキはピクっと身体を動かした。その表情が何かに怯えているようにこわばった。
「それで…何が見えたの…?」
その声は少し震えているような気がした。私は俯いて頭を抑えながら答えた。
「あぁ、なんかどこかとか場所も分かんなかったけど…男が『リンゴ剥いてあげる』って笑ってたな…悲しそうな感じだったよ。」
「…リンゴを…か。」
そしてもう一度顔を上げてオズキの方を見た。予想に反して彼はさっきの表情がまるで嘘かのように、いつもと同じ笑顔に戻り、言葉を続けていた。さっきのは何だったんだ?
「うぅん…何だろな、それ。記憶端くれっぽいけど、何なのか想像もつかないね。」
言葉の調子も声の感じもすっかりいつも通りに戻っている。勘違いか?いやしかし…。
「まぁでも、また何かきっかけがあれば見れるかもしれないし、考えても仕方が無いよ。」
うんうんと頷きながらオズキが食事に戻る。いや戻るのかよ。その様子を見る限り、やはりさっきのは勘違いだったのだろう。それにしても、もう少し考えてくれてもいいんじゃないか。そう思いはしたものの、考えても仕方のないことと言うのはその通りであったので、私も食べかけのカレーへとスプーンを伸ばすことにした。
あれから記憶のようなものが見えることが少しずつ増えていった。見えるのはいつも最初に見えたのと同じ光景だ。何度も見ているうちに徐々に映像が鮮明になってきているようで、分かることも増えてきた。仕切用のカーテンに金属の棒で立てられた点滴、どうもあの場所は病院であるように思われる。そして私はその一室のベッドに横たわっているのだ。何とも表現し難い、悲しみを抱えながら。しかしその悲しみの原因やあの男の顔は未だにはっきりとは分からない。
「病死かねぇ…」
そう考えると何故か妙に違和感を覚える。これは僅かに残った記憶が「違う」とでも呼びかけているのだろうか。それにしても違うならいったいこの記憶は何なんだ、どうやって死んだんだ。
「アイビー?」
突然響いた声にビクッと肩を揺らす。ドアから現れたオズキは呑気そうにこちらを見ている。急に声を出すな、心臓に悪い…。
「なんの用だ?」
そう聞くとオズキは聞きづらそうに、声のトーンを落として、
「記憶のこと…何か進展あったのかなって…」
何だかその聞き方には、進展が無ければ良いのに、という思いが見て取れた。
「あぁ、あれから更に鮮明に見えるようになってきたよ。これなら意外とすぐに思い出せるのかもしれないな。」
「…案外思い出さない方がいいのかもよ。」
そう呟いたオズキの笑顔はどこかで見たような哀愁を帯びていた。
「まぁ今日はもう遅いし、眠った方がいいよ。」
「そうか?まだ少し早い気もするが…」
「いいからいいから、アイビー最近ボーッとしてること多いし疲れてるんだよ。」
そして勧められるがまま私はベッドへと入り、眠りに落ちた。
「……あれ?」
真夜中、目が覚めた私は用を足そうと部屋から出てきた、のだが…
「あんな所に部屋なんてあったっけな。」
いや、なかった。明らかについ寝る直前まで何も無かった壁に扉が出来ている。私の寝たあとにオズキが増設したのだろうか。なんの部屋だろうか。気になった私は少し見ていこうと、そのドアを開けた。
「…えっ」
他の部屋とは全く様子が違った、白い壁、独特の消毒液の香り、窓から見える景色も家の周りの風景とは違った。いや問題は他との違いではない、ここはどう見ても、
「記憶で、見た部屋…」
間違いない、と、何故かそう確信することができた。そして、私が寝ていた位置のベッドはカーテンによって仕切られていた。
「ここに、何か、ある。」
そう思わずには居られなかった。
ゆっくりと近寄り、覚悟を決めて、恐る恐るカーテンを開けた。
ベッドには誰も居なかった。ただその様子は明らかにおかしかった。シーツの真ん中の辺りが真っ赤に染まっている。この赤さは、血?そしてさらにその真ん中には1本のナイフが落ちていた。あまり大きくないそのナイフの刀身は周りの赤に染まることなく、ギラギラと不気味に輝いていた。
「病院、血、ナイフ、」
汗を大量にかいているのがわかる。呼吸が乱れ、身体が震える。
そうだ、ここだ。ここで、私は、
「アイビー?」
聞こえた声に恐怖の念がさらに湧き上がる。
何もかもじゃないけど、思い出した。
私の死因は出血多量。刺されて死んだ。
振り返って見たオズキの顔は真っ青だった。
彼に刺されて死んだ。




