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第15話 花見

前話、閑話は誤字脱字があり、すみません

近いうちに改稿します

「ベル、朝だよー!」


 花見当日。

 とある事情でいつもより早く起きた私は、これはいつも通り私の隣の部屋で寝ているベルを起こしていた。部屋の戸を軽くノックするけれど、これも予想通りでいつものことだ。

 ドアノブを捻り、戸を引いて部屋に足を入れる。


「やっぱり、寝てる」


 半分は呆れ、もう半分はうれしさのこもった吐息と共に呟く。

 もう、私にとってこの光景は見慣れたことであり、いつも傍にある日常になっていた。そして、異世界の建物の部屋の一角で寝ているこの少年の寝顔も。


「――さてと」


 私は息を大きく吸いこんで呟くと、ベルを起こす愛用の道具となっている辞書を取りに部屋に戻った。


                    ♪♪♪


「ごめんごめん」


 いつも通り辞書をお腹の上に落とすという荒業でベルを起こした私は、まだ痛むらしいお腹をさすっている彼に謝った。

 口をへの字に曲げ、半眼で睨みつけてくるシャルルの視線を受け流しつつ、私は目玉焼きとベーコンをのせたトーストを齧る。


「本当に悪いと思っているように見えないんだが」

「そんなことないって」

「どうだかな」


 私がやっていることと同じように目玉焼きとベーコンをトーストに乗せて齧るシャルルは、私を疑わしそうに睨んでくる。


「まあまあ、機嫌を直してよ。ベルのために多めにお弁当作るからさ」

「……弁当? 今日何かあったか?」

「花見があるっていってたよね、ベル?」

「花見……あ、あーそういえば言ってたな。いや、でも、正確な日程までは聞いてないぞ」

「そうだっけ?」

「そうだ」


 目を閉じて人差し指でこめかみをほぐしながら、私は記憶の糸を引っ張る。そして、はっきりと思いだす。

 確かに、私はベルにいつ花見をしに行くのか伝えていなかった。よっぽど彼が参加してくれることが嬉しかったから伝え忘れていた。


「ごめんごめん」

「別にいいさ。それよか、美味いもん食べたい、美味いもん」

「はいはい。それにしても……ほんっとシャルルって食い意地張ってるね」


 呆れ交じりに呟いた言葉に、ベルは特段怯む様子を見せずに言う。


「上手いものが食べられるんだったら食べられる時に食べないとな」

「そんな言葉を良い顔していわない」


 でも妙に威厳というか説得力があるように感じるのはなぜだろう。

 ドレッシングをかけたサラダを口にしながら、私はそんなことを思った。


「仕方がないだろ。元の世界で旅をしていた時は、食べられるか食べられないのかよくわからないものを食べて、飢えを凌いでいたんだからな」

「勇者様ならいいものを食べてそうだけど?」

「そんなわけねえよ」


 シャルル呆れたような表情で、私の言葉を一蹴し、私の顔をあの鋭い目つきをさらに鋭くさせて睨んできた。もう見慣れてきてしまった私は特に怯むことなく、真正面から受け止めた。


「いや、本当に僻地の場所とかを旅してまわっている時なんか、かなり色の怪しいキノコとか薬草とかを食べてたんだよ」

「で、食べてどうなったのかな?」

「言葉に形容しがたい状況になった」

「あははは……大体理解したよ」


 短い言葉にどれだけの意味が集約されているのか容易に想像が付く。腹痛、嘔吐などの類に見舞われたんだと。


「で、そういうのって魔法でどうとでもなるんじゃない?」

「ああ、まあ、体調を整える魔法もあるといえばあるんだよ……そう、あるといえばある」

「?」


 何故か言葉を濁らせるベルの様子に、私は眉を顰める。

 こんな様子のベルは初めてだったからだ。


「でもさすがに、飢えを凌ぐために何度も魔法を使うと効果が薄れるんだよ。ほら、体が慣れて。ある程度間隔を開けないと意味ないんだ」

「じゃあ、つまり」


 ベルは私の言葉に頷く。


「ろくに食べ物がない僻地の場所に何日もいたら、魔王軍と戦う前に倒れちまうんだ」

「あははは……大変だねぇ」


 魔王と戦う前に行き倒れる。何というか本末転倒だ。

 ろくに食べられるようなものがない僻地で、魔王軍が支配する場所でありながらも、何とか生き抜きここにいるベルの生命力に対して素直に尊敬した。

 さすがは世界を救う勇者様だ。


「でも、まあ、行き倒れかけて――いや行き倒れているのは今も同じなんだよな」

「え? あ―……なるほどね」


 私が住む世界に来た当初、ベルは公園で行き倒れかけていた。そんな彼を偶々居合わせた私が助けた。


「生命力ていうよりは、運がいいんだね、ベルは」

「……本当にな。何で俺はこんなに運がいいんだろうな。もっと別の奴が持ってればいいのに」

「……え?」


 どこか陰のある言葉に私はきょとんと首を傾げた。

 一体、誰に運を持っていてほしいのだろう?


「すまん。何でもない。さてと、さっさと朝ご飯を食べて、花見の準備をしようぜ」


 誤魔化された気がした。

 でも、私に追及するだけの気がその時は起こらなかった。

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