第13話 誘い
今回はかなり短くて、すみません!
次回更新3月5日には、大目に乗せられるようにしておきます!
「花見?」
いつもの時間にアルバイトが終わった私はカウンターに座り、目の前でまだ皿洗いをしているベルにそう話しかけた。
「そうそう、花見。今度の日曜日にみんなでいこうと思うんだけど、ベルも来ない?」
「別に暇だからかまわないけど。そもそも花見って何だ?」
ベルの何気ないその言葉に、私は目を瞬かせる。
「え、ベルの世界にはこの習慣がないの? えっとね、花見っていうのは美味しい食べ物を用意して、この世界だと桜って言う木の花を見ながら食事をしたり、雑談したりする行事……みたいなものかな」
「最後が何かあやふやだな」
「だって行事っといっても、みんなが花見をするわけじゃないからね」
花見に出なければ何かしらの資格に受からないわけでもないし、ましてや死ぬわけでもない。ただ大勢の人が集まってワイワイガヤガヤするだけなのだから。
それでも私はこういう行事には基本的に参加するようにしている。
その理由は実に簡単である。
趣味である写真を撮るためだ。
普段は風景しか撮らない私だけれど、風流あふれる場で生き生きしている人たちの笑い顔を撮るのは好きだったりする。
もちろん、花見自体も好きだ。
花見をやるのもやらないのも自由だけど、風流を肌で感じるのは日本人らしい感性である。それに最近色々とあったので、息抜きにはちょうどいい。
「ふー……花見ってそんなもんなんだな。まあ、美味いご馳走にありつけるってのは、俺としても魅力的な話だしな、参加するよ」
「ベルってホント素直だね――まあ、でも、参加してくれて嬉しいかな」
「あ?」
言葉の意味が分からずベルは首を傾げる。
私は微笑を浮かべ答える。
「だって、ベルってここで働いている時以外は、私が借りている部屋にいるだけだもん。だから、外に出てくれて嬉しいよ」
「けっ、別に外に出たくて出てるわけじゃねえよ。美味いものが食べられるから外に出るだけだ。別にお前のためじゃねえ」
「分かってるよ。けれど、それでも嬉しいんだよ」
「かっ」
素直じゃないベルは、口をへの字に曲げ視線を逸らす。そして、そそくさと食器を洗い終えると、頭を掻きながらコーヒーを淹れ、私から離れた場所に座り込んで飲み始めた。
頬が少しだけ朱に染まっているような気がしたけれど、ここは追及をしないでおこう。
本音とは違うにしても、素直に嬉しいといわれたことに対して照れてしまったことは、勇者でも恥ずかしいはずだ。そんな可愛い反応もできるベルを知れただけ出も私にとっては、嬉しい収穫である。
「……………なんだよ」
「別に~」
半眼で睨みつけてくるベルを簡単にいなし、私は性格の良い笑みを浮かべる。
視界にぶすっとした表情を浮かべるベルが見えたが、彼がコーヒーを飲み終えるまで私は笑みを崩すことはなかった。