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カナ  作者: みなみ
第二章 文鳥
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友達

 文太君は勤勉で、時間を合わせるのが難しい。私は私で、学校にレポートにバイトで暇ではないので、べったりともいかない。どうしようと考えた結果、昼休みはどうかと提案された。昼食を済ませた後、文太君の都合がいい日等はゆっくりとしたり、一緒に勉強しようという事になった。

(といっても、分野が違うので自習だが)


 文太君の学校の食堂は広く、昼のピークが過ぎれば勉強できるスペースの代わりになっている。家に帰れば幼い弟、犬、猫、鳥まで飼っており勉強どころではない。昔から勉強はもっぱら外で、が習慣付いていた。親交を深めるついでに勉強もできる。一石二鳥だ。


 人もまばらになった食堂で、赤いカーディガンを羽織った文太君を見つけた。


「文太君、おまたせー!」

「わざわざコッチまで来てくれて、お疲れ。」

「席取りありがとー!あ、遅刻してない?私、大丈夫?!」

 そう冗談ぽく言うと、文太君は目をほそめた。

「ちょっと。前の事、根に持ちすぎ。」 

「あはは。」


「荷物見てるから、飯、買ってきたら?」

「ううん!お弁当!持ってきてるの!」

「へー……。」

「文太君は?」


「あー……。今日は、いいかな。」


「ちゃんと食べなきゃ駄目だよ。」

「大丈夫。ご心配なく。食ってる食ってる。」

「いつもは学食?」

「まーね。弁当の方が安上がりだろうけど、用意する時間が勿体無い。」

「そっかー。面倒かー。結構面白いんだけどな。彩り綺麗に入れられた時とか気持ちいいし。」

「得意なの?」

「得意というよりは、楽しいってだけだよ。」

「ふーん。いいんじゃない。料理は必要最低限の条件だと思うよ。」

 何が、と尋ねる私に彼は言った。

「うーん、合コン?」

「ごっ……!そんなつもりで料理してないよ!!」

「あ、違うの。」

「ちがう……!どんな偏見持ってんの!」


 全力で否定する私を見て、文太君は楽しそうに笑っている。


「そういや文太君、第二外国語って何とってるの?」

「いきなりだね。」

「コミュニケーションだよ!」

「なるほど。スペイン語だけど。」

「へー。」

「発音がローマ字読みで簡単だし、うちの大学じゃマイナーだから、単位とりやすいの。」

「へー…。」

「確かに大学で学ぶ外国語なんてしれてるけど、学ぶからに身になるものほしいよね。スペイン語分かるとイタリア語もだいたい分かるようになるし、ラテン系の応用理解できるし。つっても、まあ、まずは勉強だけど。理解は簡単なんだけど発音ってなると、おれ全然ダメだしさあ。」

「アハハ、そうだよね。まずは勉強だよね。」


「で、この話題に何か発展性あった?」

「どんなに発展性がなくても不毛でも些細な事でも、最初は必要な事だと思います。」

 強気で答えると、文太君が腹を抱えて笑った。

「く……アハハ。フフ…くっだんねー会話。」

「ちょっと文太君!感じ悪すぎ!」

「アハハ、ごめんごめん。からかってるワケじゃないんだよ。気分害したならゴメンゴメン。」

 そう言われてもからかわれているようにしか感じない。笑いすぎ!


「おれ、あんたとは、もっと違う話をするもんだと思ってたから。」

「違う、話?」

「本当に友達からスタートするんだなって思って。そうだよな、あんたって、普通の女子大生だもんな。」


 頭の上にクエスチョンマークを浮かべる私をよそに、彼は話し続ける。


「うん。まあ、思った以上に肩の力抜いて行こうかなって。」

「文太君?」

「ごめん。こっちの話。さっきの続きしようか。えっと、じゃあ、あんたは第二外国語、何をとってるの?」

 なんだか釈然としない。文太君は何が言いたいんだろうか。


「いいんだよ。テキトーに流されておけば。」


 そう言われた。考えても仕方がないような気がした。まあ、いっか。

「私はドイツ語だよ。」

「ドイツが心理学の発祥の地だから?」

「アハハ。別にドイツ語の文献を読まなくても今は英語文献がたくさんあるし。それに大学で一年学ぶだけの外国語なんてたかがしれてるし。響きかな。」

「確かに、ドイツ語カッコイイよね。クーゲルシュライバー。」

「ボールペン。文太君と学部でもかぶってれば、何か教えてもらるかなって思ったんだけど、ないよね。心理学って言っても、そっちって教育心理学だもんねー。」

「ねー。いいよ、別に。あんたは適当に、おれの話し相手になってくれるだけで。友達ってさ、何かしないといけない、って関係じゃないでしょ。むしろ逆で、何もしなくていいから友達、なんだと思うよ。」

「そっか、そうだね。じゃあ、よろしくお願いします。」



「文太ー!」


 遠くから文太君を呼ぶ声がした。文太君の知り合いらしい男が二人こちらに歩いてきた。


「よーっすって、彼女!?」

「あ、先輩。やめてくださいよ。冷やかすの。」

「お前、勉強しか友達いないって思ってたから心配してたのに!何だとーその態度は!」

「はいはい。心配してるならもうちょっと気遣ってもらえないっスか。二人で食べるんデス。」

「えーん気になる!一緒に食べたい!><」

「はいはい。」


 ずいぶん仲良さげだな、と彼らを眺めていると、文太君は軽く挨拶をすまして、再び私と向き合った。

 同じ学部の3年の先輩だそうで、一人で勉強するにも限度があるから先輩に聞くようにしているらしい。意外と可愛がられている感じでびっくりしてしまった。


「……。イイヒトを嗅ぎ分けるの、結構、得意なんだよ。……あんたもそんな匂いがする。」


 私が、イイヒトだって話かな、とポカンとしていると携帯の通知音が鳴った。

「あ!次、休講だ!」

 次の講義がなくなって、急に暇になってしまった。どうしようか。課題は一段落してるし、久しぶりに買い物にでも行こうかと思案していると、

「ねえねえ。この後の授業ちょっと出てみる?大きい講義室だからばれないよ。」と提案された。

「えっ!?」

「どう?他の学校の授業って興味ない?」

「うーん……。けど……。けど~……。」


「よし行こう。」

「ええええ!?」

 悩む私に痺れを切らしたのか、文太君は私の手をとり講義室まで引っ張っていった。


 文太君に連れられた講義室は、本当に広かった。確かにこれなら、一人ぐらい紛れ込んでも分からないけど…けど…緊張する。


「おれがいるんだから堂々としてればいいよ。」

「私、文太君と違ってメンタルそんなに強くないので……」

「……。」

 返事がない。何か、表情が……もしかして怒ってしまったのだろうか。


「ごめん。ちょっと面倒な奴がいたから、そこで待ってて。」


 文太君はそう言い残し、階段を降りて、まっすぐ歩いていった。その先には座っている青年と、ソレを取り囲む三人がいて、耳を澄ませばかろうじて会話が聞こえてくる。文太君はその三人のリーダーらしき青年に話しかけた。


「どうしたの、森田クン。」

「うわ、文太じゃん。どうしたのって、中村が俺らの為にノートとってくれたから取りにきただけだし。」

「ふーん……。……。フィールド研究の小テスト、だっけ。おれ、完璧だからノート貸してあげよっか。ううん。貸してさしあげるよ、ハイ。」

「んだよ……調子乗ってんじゃねーぞ。」

「うるせーな。ノート貸すだけで、いちいち調子乗るかよ。いるの、いらねーの?」


 文太君に言われて、森田という人の取り巻きは悪びれもせずノートを彼から受け取った。森田という人は舌打ちをし、その場から離れた。彼らは、品のない笑い声を上げながら、隣を通り過ぎる。

 文太君の学部は結構、有名なので彼らも勉強はできるのだろうが。それにしても、今の一連の流れは疑ってしまいたくなる。まあ、自分の大学もああいう層は少なからずや居るといえば居るのでどこの大学も一緒なのだと思う。

 

 思った以上に私の方が緊張していたらしく、肩がガッチガチに固まっていた。ため息と共に肩の力を抜く。特に何もなくてよかった。


 森田君達が去ってから、文太君が絡まれていた青年、中村君に声をかけた。

「後でいいんだけどノート、コピーさせて。」

「ぶ、文太君……あの……」

「つーか。まさか本当にノートとるって約束したとか、ないよね?」

「ちが……本当……いきなり言われて……」

「だと思った。ま、交通事故にでも遭ったと思って自分を宥めなよ。」

「あ…あの……」


「カナー!あっち座ろ。」


 いきなり呼ばれて、大げさにびくっと肩が上がってしまった。文太君は大分前の方を座りたがった。前の席はやっぱり、たくさん空いている。途中、中村君と呼ばれた人の視線を若干感じながら、文太と並んで席に着いた。


「えっと、文太君。かっこよかったよ。」

「何が?」

「えっと、ああいう事できるのってかっこいいと思うな。」

「はあ?」

「とっさに誰かをああやって守れるなんてすごい事だと思う。」

「ふーん……。あんたにはそう見えたんだ。」

「?あ、ノート大丈夫?」

 なんだろう。違和感。

「ノートは別に、どうでもいいんだよ。ノートなんかなくても完璧の自信あるし。でも、ああ言わないと中村君が気を遣っちゃうでしょ。」

「えっ、大丈夫なの!?持ち込み可能のテストって結構、大変なんじゃないの……?」

「そだよ。でも、受講した後に復習すれば大抵忘れないでしょ。予習もできたら一番なんだけど、さすがに、そこまで時間とれないし。」

「えー……そ、そうなのかな……。それって文太君がすごいんじゃないかな……」

「ほら、おれって真面目だし。暗記得意なんだよね。なので、ノートに関しては全然困ってない。」

「うーん……文太君がそういうなら……。」


「あ、そうだ。じゃあさ、テストでいい点数とれたら、イイコトしてくれる?」

 文太君の目が輝いた。これは、私をからかう時の目だ。イキイキしている。

「えっいいこと?」

「そっいいこと。」

「うーん……いいよ……?」

「アハハ」

 戸惑いつつも話に乗ってみたのに、何故か笑われた。


 なんというか…

 もっととっつきにくい人なのかなって思っていたけれど、大分、印象が変わった。まあ、最初は私が遅刻して怒らせてしまったから悪いんだけど。

 また次もお昼一緒にできたらいいな。文太君の空いてる曜日っていつだっただろうか。

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