第九話
肆
四宮と別れた後の午後三時四十分、二人は楢原明日香の勤務する常盤学園にやって来ていた。
常盤学園は、県内でも有数に名の知れた名門の私立の進学校である。生徒の半数以上は社会的に成功した親を持つ者ばかりだ。それでありながら受験の合格難易度も高く、卒業生は軒並み難関の国立大学や私大に進学している。もちろん家庭が裕福でなくても進学することは可能だが、その場合は特待生として、入学試験で殊更に優秀な成績を収めるか、あるいは文学、美術、音楽などの芸術に秀でている必要がある。常盤学園とはそのような学校だ。
「さっきの四宮みたいなのが大勢いるかと思うと気が滅入るな」
「まあまあ、みんながあんな感じってわけじゃないと思いますよ」
門の近くでそう言って陰鬱そうな顔をする狭山を、滝上が宥めながら校内へと連れて入った。
常盤学園の敷地は目を見張る程に広かった。だが、それ以上に二人を驚かせたのは校舎だった。常盤学園の本館校舎は、三階建ての校舎はまるでウィーン楽友協会のような外観をしており、それが東棟と西棟の二棟が建設されているのだ。棟の一番北側には、それぞれの階に二つの棟を行き来するための渡り廊下が設けられている。
また東棟と西棟の間には庭園が設けられており、四季折々の植物が鑑賞できるようになっていた。その庭園の中央には、学校には不必要と思われるような噴水まであった。
圧倒されながらも、二人は東棟に設けられている部外者用入口から館内に入った。事務室は入口のすぐ脇にあった。滝上が事務員への入館許可申請の為のガラス戸をノックし、担当者に警察手帳を翳した。ガラス戸から覗ける事務室には、真面目でインテリな印象を与える教職員が大勢いた。楢原のような例外も居るが、常盤学園は生徒や教師だけでなく、事務員も厳選した人材を選んでいるのだ。
「警察の方がどういったご用件でしょうか?」
「こちらで事務員として働いている楢原さんにお話があるのですが、入館を許可していただけませんか?」
「事前にご連絡はして頂けていますか?」
「いえ、していません。事情聴取を事前に知らせるわけはありません。それとももしや、警察に介入されて何か不都合でもあるのですか?」
横から、狭山が口を挟んだ。どうしてこの人はすぐに相手を挑発するような物言いをするのかと疑問に感じたが、同時に、自分では上手く対応できなかったことは自覚しているので、助かったとも思っていた。
「少々お待ちください」
少し不機嫌な表情を浮かべた担当者は一旦席を外すと、部屋の一番奥に居る、事務の責任者で一番年上の事務長へとお伺いを立てた。それから少しして、その担当者はガラス戸の前まで戻ってきて、狭山と滝上にネックストラップ型の入館許可証を手渡した。
「こちらの用紙に、お名前と入館時間の記入をお願いします。また、退館時には必ず許可証の返還をしてください」
言われるがまま、滝上は二人分の名前と、現在の時刻である『16:00』という数字を所定の用紙に記入した。そんな二人の後ろを、仕事を終えたらしい事務員が通り、外へと出て行った。楢原の顔は既に知っており、二人はその事務員が別人である事は分かっていたので、特に気に留める事は無かった。
許可証を首から下げた二人は早速、目の前の廊下を右に曲がり、事務室へと入室した。
自分の名前を聞いていた楢原は、入り口の近くで既に待機をしていた。百七十四と高身長に細身の身体をしている彼女は、色染をしていないショートヘアと白シャツに上下黒のスーツといった、見た目だけはキャリアウーマンに思える恰好をしていた。前髪から覗く釣り目は、自分の名前を呼んだ刑事たちを睨み付けていた。
「私に何の用?」
楢原の喧嘩を売る物言いに、狭山はまたしても苛立ち、やはり常盤学園の出身者は人の神経を逆なでする奴ばかりだと口には出さずに批難していた。
それを察知した滝上は、バレないように軽く溜め息を吐いてから口を開いた。
「藤崎朋さんのことでお話を聞きたいことがあります。僕たちはここでも平気なのですが、もし都合が悪いようなら、場所を変えても構いません」
表情こそ変えなかったが、確かにあまり他人に聞かれたくないと思った楢原は、滝上の申し出を素直に聞き入れ、場所の移動を願い出た。
三人は事務室の横にある、事務員用に設けられた喫煙室に移った。楢原が煙草を吸うのを見て、狭山が喫煙をしたいという欲望に襲われた。しかし事情聴取の最中に刑事が喫煙するわけにもいかず、それを我慢した。
「まずは、先週の金曜日の深夜には何をされていたのかを教えてください?」
「アリバイってやつ? 悪いけど、深夜ならもう寝ていたわよ。テレビを点けたままで気づいたらって感じだったから時間は正確じゃないけど、それでも十二時までには寝付いていたと思うわ」
「そうですか。では、藤崎さんは常盤学園の卒業生という事ですが、この近くで死体が見つかったことは、事件と何か関係があると思いますか」
「知らないわよ。学校の近くで死んでいたから、そこで働いている私が犯人だとでも言いたいわけ?」
自分が被疑者とされている事実に、楢原はより一層の不快感を露わにした。
「いえ、決してそういう意味ではありませんよ。そう捉えて気分を害したのなら謝ります。すみませんでした。では次に、藤崎さんとの関係について教えてください」
「関係って、朋とは高校の時に同じ部活に入っていただけよ」
「ちなみに、その部活というのは?」
「絵画部よ」
「絵画部?」
聞きなれない部活動の名前に、滝上は思わず聞き返した。
「そう、絵画部。そういえば、他所の学校とかでは美術部って一括りになるんだったかしら。ウチはより専門性を高めるために、美術方面の部活動でも絵画部、版画部、彫刻部というように美術部を細分化しているの」
「そうなんですね」
「ええ。繰り返しになるけど、朋とはそこでたまたま一緒になっただけの、ただの知り合いよ」
滝上を嘲るように楢原は答えた。百恵や四宮とは違うその返答に、狭山たちは当然に疑問を持った。
「知り合い? 僕たちはあなたと藤崎さんは親しい間柄――平たく言えば友人関係にあったと伺っていたのですか、それは違うんですか?」
「別の所で聞いたのに、わざわざ同じ質問をするなんて、ご苦労なことだね」
「おかげで、俺たちの認識の齟齬があったことが分かった。だからさっきのも無駄にはなっていないので、ご心配なく」
思わず狭山が横槍を入れた。それを傍で見ていた滝上は、狭山と楢原は似た者同士だなと呆れていた。
「あっそう。まあどうでもいいけど」
煙を吐きながら、楢原が舌打ちをした。楢原も四宮と同様に、藤崎の死に関しては少しも悲しんではいなかった。
「では楢原さんからすると、あなたと四宮さん、それから亡くなった藤崎さんの三人は、高校の時はどういう感じだったんですか?」
「どういう感じって。そうね。例えるなら知花が女王様で、私と朋はその侍女ってところ。いや、奴隷の方が正しいかしら」
「それはいったいどういう意味ですか?」
少し間の抜けた喋りをする滝上を内心で馬鹿にしながら、楢原が自分たちの関係性を彼に語った。
四宮知花の父親はこの常盤学園に多額の寄付をしており、学校側からすれば決して期限を損ねてはならない最重要人物だった。その娘である四宮知花は、当然のように優遇をされていた。厳密に家族から命令されたわけではないが、理事長の孫である楢原は特に逆らうことは許されない雰囲気があった。それを知っている四宮は目立たないようにではあったが、楢原を良いように使っていた。藤崎についても概要は同じだ。彼女の父親が働いている会社が、四宮の父親が経営する会社の傘下にある。そのため藤崎も四宮には反発することが出来なかったのだと、楢原はそのような説明をした。
つまり四宮、楢原、藤崎の三人は行動を共にすることは多かったが、まったく以って親密では無かったのだ。
ここで狭山に新たな疑問が生じた。藤崎の死に対する二人の反応から、仲が良くなかったというのはおそらく真実だ。ならば、四宮が藤崎の揉めた相手である可能性は一段と高くなる。だがもしそうなら、対象が逆になるはずだ。四宮が殺される側で、藤崎は殺す側。それが一番しっくりくると、狭山はそう思った。
その疑惑を解消するために、狭山が口を開いた。
「実は藤崎さんは、五月頃に同じ職場の方へ、自分は最低の人間だというような事を言っていたみたいなんです。例えばそういった昔の関係の事で、最近四宮さんと藤崎さんに諍いがあったりはしませんでしたか?」
その質問に楢原は考える素振りを見せつつも、なかなか答えようとはしなかった。そして二分間の躊躇いの後、彼女は吸い終わった煙草を灰皿に捨てて、観念して話をした。
「あったわよ」
その言葉に滝上が身を乗り出した。
「本当ですか!」
滝上の興奮する横で、けれど狭山も気持ちが昂っているのを自覚していた。滝上の肩に手を置いて制止させ、自身も続きを急かしたいという衝動を抑えながら話を待った。
「四月末に朋から呼び出されて、高校を卒業して以来久しぶりに三人で集まったの。その時に相談をされて、その事で知花や私と揉めたの。多分だけど、そのことじゃないかしら」
「その相談事の内容について教えてもらってもいいですか?」
「私と朋は、高校の時に知花に命令されて、一人の同級生の人生を駄目にしたの」
「はい?」
楢原の急な告白に、滝上が素っ頓狂な声を出した。狭山がそんな滝上を小突き、楢原に先を促した。
「すいません。続けて下さい」
二本目の煙草に火を点け、ゆっくりと煙を吐き出しながら、楢原は過去の過ちを振り返った。
「私たちの同級生で同じ絵画部だった生徒に、城之内美紀って子が居たの。美紀は裕福な家庭の子どもではなかったけど、絵描きの才能が認められてこの学園に入学してきた。ウチのバカ高い入学金や学費が免除される、いわゆる特待生ってやつね。芸術方面での特待生は毎年何十人も入るのだけど。全員が活躍するわけじゃない。でも美紀は本当に才能があって、繊細なタッチで描かれた絵は一年生の時からコンクールで賞を取っていたの。画家になる将来が約束されているような子だったわ」
易々と本筋に入らないことにもどかしさを感じながらも、狭山たちは黙って話を聞いていたが、その時はすぐに訪れた。
「でも、二年の夏。そう、ちょうど今くらいの時期だったわ。コンクールに応募するための作品を描いていた彼女を、私と朋が階段から突き落としたの。そしたらその時の打ち所が悪かったみたいで、美紀の右手に麻痺が出るようになった。以来、彼女は満足のいく絵が描けなくなって、画家への道も閉ざされた。だから美紀なら朋を、いや、私たちを殺したいほど憎んでいてもおかしくはないわ」
「どうしてそんな事を?」
「最初に言ったように、知花に命令されたから。いや、正確には『美紀が怪我でもして絵が完成しなければいいのに』って、私と朋の前で呟いたの。それだけ。でも私たちにはとっては確かに、そうしろって命令だったわ。だから私と朋で、それを実行したの」
「四宮さんは何故、城之内さんに嫉妬していたのですか?」
「私も同類だからわかるんだけど、知花はね、とってもプライドが高いの。父親が怖いから周りには逆らう人間は誰も居ない。だからいつも周囲を見下して生きてきた。そんな彼女にとって美紀は、本来なら自分よりも下に居なければならない存在だった。それなのに、コンクールでいつも自分より上位にいるのが気に入らなかった。同じ絵画部なのに、自分が一番じゃないのが耐えられなかったのね」
その程度の事で、と狭山たち思った。その事実を信じられないという滝上に対して、しかし狭山はそういう事もあるのだろうと考えていた。刑事になってから今までに、些細な理由で罪を犯す人間を何人も見てきたからだ。
話された事実を何とか自分の中に租借した滝上が、ふと思い浮かんだ疑問を口にした。
「常盤学園でそんな事があったなんて、まったく知りませんでした。こんな有名な学校で傷害事件なんてあったら、それこそすぐに広まったりはしないんですか?」
滝上のその言葉を聞いた楢原が、今度は口に出して馬鹿にした。
「そっちの若いほうの刑事さん、ちょっと足りてないんじゃない? 世間で名の知れているような有名な学校だからこそ、表沙汰にはならないのよ」
その時に狭山は、亨の不自然な怒りや、彼や四宮が隠し事をした意味を悟った。そして、楢原の言葉の意味を補足した。
「つまり揉み消した。あなたの祖父や藤崎さんの父親は、学校や会社の名誉に傷をつけなくはない。四宮さんの父親も、直接的には関わっていないとはいえ、自分たちの会社や社会的地位を守るために、余計な面倒事は御免被りたい。そういうことですよね」
「ええ、そうよ。完全に無かったことにするのは流石に無理だから、噂の一つや二つは当然あるわ。それでも知花の父親は特に権力を持っているから、ほとんどは圧力をかけて黙認させた。当の本人である美紀も、お金で無理矢理に解決をさせたわ」
「具体的にはどのように?」
「美紀の家は母子家庭で、それこそ美術なんて贅沢なくらいに貧しかったみたい。だから金銭面で美紀と母親の面倒を一生見るという約束で、決して口外しないと誓わせたらしいわ。大学卒業後は無職というわけにもいかないから、美紀の監視の意味も含めて理事長が事務職員としてウチで雇っているわけ。給料という形で支払われている額は、きっとあなたたちの三倍以上よ」
まるで誇ったかのような言い方をした楢原に、珍しく滝上が怒りを露わにした。
「女性一人の人生を金で買ったというわけですね。最低だ」
とても不愉快な話を聞かされ、滝上は憤懣やる方ない気持ちでいっぱいだったのだ。
これには楢原だけでなく狭山も驚いていた。返す言葉が何もなかったので、楢原は口を開くことが出来ずにいた。
「では、四月末に藤崎さんから呼び出されたというのは、その件についてですか?」
すっかりと静まり返っていた空気を、狭山が壊した。
「ええ、そうよ。どうしてかは知らないけど、朋は急に罪悪感に耐えられなくなったみたいで、全部公表して美紀に謝りたいと言い出したの。正直、朋みたいに医者っていう手に職をつけてなくて、親の脛を齧っているような私や知花にとっては、悪評が流れて学校や会社の経営が傾いたら困るの。だから、今さらそんなことに意味は無いって必死で止めたわ」
「では、その事で藤崎さんに危険を感じた四宮さんが、口封じに彼女を殺害するといった可能性はあると思いますか?」
狭山のその考えを、けれど楢原は一蹴した。
「それは考えられないわ。知花は、自分で自分の手を汚すような真似はしない子よ。だから私たちに美紀を怪我させるように仕向けたわけだし。それに、知花なら殺さなくても口封じする方法は幾らでもあるわ。知花を庇うような形になるのは癪だけど、あの子は絶対にそんなことをするような人間じゃないと思う」
力強く語った楢原の言葉に、狭山は納得した。確かに彼女は殺人なんて愚行は犯さないと、そう思ったのだ。
「では、城之内さん以外に、藤崎さんを殺す動機があるような人物に心当たりはありますか?」
「そうね。あともし可能性があるとしたら、佑介かしら」
「佑介?」
城之内美紀という女性以外にも思い掛けずに出てきた新たな男性の名前に、狭山たちは些か面を食らった。
「ええ、清水佑介。あいつは高校の一つ下の後輩で、入学当初から美紀の絵に惚れ込んでいたの。ただ、それが異常なくらいの執着で、美紀が部活を辞めた後にすぐ佑介も退部して、その所為で彼女のストーカーになったって噂まで出てた。でも六年前に理事長が美紀を雇った翌年に、佑介も美術教師としてウチにやって来たから、私もその噂は本当だって思ってる。だから、もしかしたら清水なら、そういった可能性もあるかもしれない」
城之内のストーカーという事を聞いては、そのまま見過ごすわけにはいかなかった。
「城之内さんと清水さん、今はどちらに居ますか?」
「美紀はこの時間には、もう就業時間を終えて帰ってるわ。さっき入館手続きをしているときに、擦れ違わなかった?」
言われて、狭山は少し前に見た事務員を思い出していた。
「そういえば先ほど、一人、若い女性の職員を見かけました」
「そう。あれが美紀よ。それから佑介なら、この時間は絵画部の部活動に顔を出しているはずよ。絵画部は、別館の五階の一番端に部室があるから、行ってみればいいわ」
「そうですか。ちなみに、城之内さんの住所は分かりますか?」
「事務室に行けば名簿があるから、それでわかると思うわ。ちょっと待ってて」
煙草を消して、楢原はいったん事務室へ戻った。喫煙室には刑事二人が残された。狭山はそこで、常盤学園に訪れて初めての煙草に火を点けた。肺に煙が満たされ、一気に気分が和らぐのを感じた。一方で滝上は未だに納得が出来ずに怒っていた。それでも先ほど重要参考人に対して感情を剥き出しにしてしまった自分の甘さを反省し、感情は腹の中に隠すよう努めた。
十分足らずで、一枚もメモ用紙を持った楢原が喫煙室へと戻ってきた。狭山は既に煙草を吸い終えて待機していた。楢原が「どうぞ」と、それを狭山に手渡す。狭山が見ると、メモ用紙には『早蕨市東屋1―1―16 メゾンパレスB 808』と記載されていた
狭山は楢原に礼を述べ、ついでに気になっていたことを聞いてみた。
「どうして城之内さんの事を話してくれたんです? 正直、俺たちは城之内という人物については何も知らなかった。当然あなたはそんなことは知らないだろうが、しかし白状するに足るだけの根拠を提示してみせたわけでもない。つまり、あなたは自分の過去の事なんて無理して話す必要はなかったわけだ。それなのに」
「そんなの決まってるわ。死にたくないからよ。今ここで話さなくても、警察だったらいずれ調べ上げることでしょ。単純に遅いか早いかだけの違いよ。もし美紀が犯人なら私だって狙われるかもしれないんだから、情報を流すのは早い方がいいに決まってるわ」
強い口調で言って、楢原は鼻で笑った。その態度と語調は強がりであり、楢原は本当に自分も殺されると恐れているように、狭山と滝上には見て取れた。
楢原を残し、二人は本館東棟を後にした。その時、滝上は一人の男子生徒を見かけた。
細くてすらっとした体型をしており、背丈も百八十を越えている。細面で綺麗に整った中世的な顔立ちで、滝上ははそんな男子生徒を見て、女性からはすぐに顔を覚えられ、向こうから勝手に好意を持たれるのだろうなと、そんなことを思った。
「名門私立に通っていて、背も高くて見た目も良いなんて、羨ましいですよね。せめて背丈くらい僕に分けてくれてもいいのに」
自分の傍で不意にそんな事を呟いた後輩を、狭山は少し憐れんだ目で見ていた。それに気が付いた滝上が、眉間に皺を寄せて不満を述べた
「背が高い人には、低い人の気持ちが分からなんですよ」
「背が高いと頭をぶつけたり服のサイズが合わなかったり、色々と不便はあるぞ」
「いつかそういう事を言ってみたいと、チビはいつも憧れるんです。っていうか、僕にとっては嫌味にしか聞こえませんよ」
せっかく捜査が進展しているというのに、事件よりも身長というコンプレックスに関心が移っている滝上に、狭山は軽く溜め息を吐いた。