第二十五話
拾壱
狭山が時計を利用した殺害方法を思い突き、その確認のために常盤学園へと車を飛ばした。赤色灯を点け、サイレンを鳴らしていたおかげで、通常の半分程の時間で常盤学園へと到着した。本館校舎には寄らず、二人は直接別館へと向かった。別館の事務に、城之内の姿は無かった。
「今日は無断欠勤をされているんです。決してそんな事をする人じゃなかったのに、どうしたのかしら?」
城之内の代わりの事務員が言った。狭山は嫌な予感がしていた。駆け足で、以前清水に案内された、あの大時計の真裏になる屋根裏部屋へと急いだ。
そして、二人はそれを目の当たりにした。
「嘘だろ」
それを見た時、滝上はそう呟いた。目の前に広がっている光景が、俄かには信じられなかったからだ。そこには、両腕が切り落とされて死んでいた四宮と、そして城之内の死体が在った。その部屋の中には、左と右の腕も三組が転がっていた。
文字盤の掃除用に設けられた小窓の一つが開かれていて、そこから夏季特有の生温かい風が吹き込んできていた。その窓から一番近い柱には城之内が括りつけられており、四宮の死体は、その横に棄てるように転がされていた。城之内の死体のすぐ脇には、その他にも、今回の事件で用いた市販の睡眠薬の箱と、その箱の下に一枚の封筒が置かれていた。
狭山が確認すると、それはパソコンを使用して打たれた遺書のようなものだった。だが、殺人の動機や贖罪を求めるような文章は記載されていない。そこには、アリバイ工作が可能な、ピアノ線と時計の針を利用した今回の事件での殺人方法だけが書かれていた。それ以外は、本当に何も無かった。
苛立たしげに舌打ちをして、狭山が早蕨南警察署へと通報した。間も無く、複数台の警察車両に乗った、何人もの刑事や鑑識官がこの現場へとやって来た。その間、狭山はずっと無言だった。
警察が押し掛けたことにより異変は直ぐに学園を広がり、生徒や教職員を問わず、多くの学校関係者が押し掛けた。
鑑識官が現場検証をしている間に、手分けをして、生徒や教職員から事情聴取をした。清水は城之内の死のショックで錯乱状態にあり、事情聴取はほぼ不可能だったため、後日執り行うことになった。
その後、検視の結果から三組の腕は四宮、城之内、そして楢原のものであること。大時計の針や小窓の部分に、ピアノ線でついた疵があること。そして城之内が括りつけられていた柱の周囲から藤崎、楢原、四宮、城之内の四名の血液痕があったことなどが判明した。
そして遺書の内容と、推測される動機から、平成の切り裂きジャックと呼ばれた犯人は城之内美紀であることが断定された。
そうして世間を騒がせたこの事件は、結局重要な事はほとんど分からないまま、犯人死亡という形で幕を閉じ、数日後に捜査本部は解体された。




