第二十一話
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午後十一時過ぎ、両親には適当な言い訳をして家を出た。父も母もとても心配して中々外出を認めようとはしなかったが、最終的には僕の嘘を真に受けた。
外は七月とは思えない、冷たい風の吹く夜だった。
施錠された校門を超えて常盤学園に忍び込み、別館まで歩いた。別館の出入口には鍵が掛けられていなかった。つまり、城之内さんも既に来ているか、あるいはまだ到着はしていないが来る気はあるということだ。校舎内に入り五階の上の屋根裏部屋まで行ったが、城之内さんの姿は見当たらなかった。結果は後者のようだ。
小窓を開けて、疵の残ったその淵を眺めた。両腕を切断する仕掛けをしていた時に、彼女は一体何を思っていたのか。そんな事を考えながら、窓淵に指を這わせた。
足音が聞こえた気がして振り返ってみると、城之内さんが来ていた。
「すいません。少し考え事をしていて、気付くのが遅れました」
「私に何の用? どうして、こんな場所に私を呼んだの?」
昼に聞いた淡々とした口調とは異なり、そう言った城之内さんの語調は強かった。
「お呼び立てしたのは僕が、今話題になっている連続殺人事件の犯人――通称『平成の切り裂きジャック』はあなただと考えていて、それを確かめたかったからです」
「な、何を言っているの?」
一瞬動揺する様子を見せた城之内さんは、けれどすぐに薄ら笑いを浮かべてみせた。
「もしかして、私の右手の事故の事を知っているのかしら?」
「ええ。清水先生から、大まかな事情を伺いました」
「それを真に受けて、私を犯人だと思ったの? 嫌だわ」
「はい、真に受けました。そして自分なりに色々と考えて、あなたが藤崎朋と楢原明日香を殺したと判断しました」
僕の言葉に、城之内さんは不快感を示した。それから今日の昼と同様に、敵意と恐怖を纏ったような表情を浮かべていた。
「きっと自分の住む街で殺人事件なんかが起こって不安なのね。それで、あなたが安心するために私を犯人だと、そう思いたいのでしょう。それであなたの不安が取り除けるなら協力してあげたいけど、さすがに連続殺人犯の汚名を着せられてくはないから教えてあげる。二人が殺された日の両方に、私にはアリバイがあるの。それは警察だって確認してくれていることよ。だから、私には犯行なんて無理なの」
言って、城之内さんは大袈裟な溜め息を吐いた。まるで僕の行為がまったくの無駄であり、根本的に間違っていると思わせるかのような態度だった。僕は気にせず、そんな城之内さんに反論した。
「アリバイがあるからといって、犯行ができないわけではありません」
「そこまで言うなら、私が犯人であるという証拠でもあるっていうの」
「正直に告白すると、あなたが犯人だという証拠はありません。だから今からお話しするのは、あくまでも僕の仮説です。ただ、僕その仮説が正しいければ、少なくともあなたの言うアリバイは崩すことができます」
そうして僕は、自分の予想を城之内さんに語った




