第十五話
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常盤学園からの下校時、僕は早蕨駅に寄り道をした。昨夜は清掃員を捜すことを優先したため、腕が発見されたというゴミ箱をしっかりと鑑賞出来ていなかったからだ。
周辺は警察によって封鎖されており近づくことは叶わなかったが、南口改札正面の壁にある案内板の横に 目的のゴミ箱は佇んでいた。世間は両腕の発見で賑わっていたので、僕以外の見学者も大勢居た。
相も変わらず顔が黒く塗り潰された犯人を想像しながら、野次馬に紛れて少し遠くからそのゴミ箱を鑑賞した。時間にして二十分ほどその場で眺め続けたが、死体が発見された溝渠と同様に警備員から注目されそうになったので、仕方なくその場を離れた。
せっかくここまで来たので、僕は四月末に訪れた、野良猫の切断死体が遺棄されていた裏路地に足を運んだ。以前と違い、人集かりの無いこの場所は無機質で淡泊な本来の姿をしている。
四月の終り、この場所で動物の切断された死骸が発見された。それは、その時に街を騒がせていた、連続動物切断遺棄事件の三匹目の被害動物だった。
その事件は、犯人が捕まるまで続くのだと僕は思っていた。しかし、それを最後に犯行は突然の終りを迎えた。いや、本当ははまだ事件の途中なのかもしれない。ただ、少なくともその三件目を最後に、動物の切断死骸が新たに出てくることは無くなっていた。そしてその後に起こったのが、今回の藤崎朋の殺人事件だ。
この殺人事件と先の連続動物切断事件は、きっと関係がある。だが、犯人は未だにわからない。僕の中で、被疑者は楢原さんから城之内さんへと移行した。しかし、やはりそれは動機があるという理由だけで、何一つとして決め手は無い。
また、犯人以外で不明な事が二つある。一つ目は動物切断の最後の事件日から藤崎朋の殺人までに少し間が空いていること。これについては、実はそこまで意味はないのかもしれない。そしてもう一つ、最も重要なことは、どのような方法で切断したのかということだ。頭の中で様々な可能性を思考しながらも、こちらについても、未だ有力な答えは見付けられずにいた。
ともあれ、そこまで悲観する必要もない。もし城之内さんが犯人ならば、そう遠くない内に楢原さんか四宮さんのどちらかを殺すだろう。その時に、新たな手掛かりや情報を得ることが出来るかもしれない
――僕のそんな予想は、見事に的中する事となる。五日後の日曜日。常盤学園の事務職員である楢原明日香の死体が発見されるからだ。藤崎朋と同様に、その両腕が切断された状態で――




