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狂い人  作者: 初心者
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第一話

拙文ですが、楽しんで頂ければ幸いです。

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 連続動物切断遺棄事件は、今月の初めから起こり始めた事件だ。四月六日の日曜日の事である。胴から真二つにされた野良猫が、早蕨(さわらび)市内のとあるゴミステーションに棄てられていたのが発見された。それが最初だった。次はその一週間後。四月十三日に市内のとある公園の砂場で、同じく真二つにされた別の野良猫が見付かった。さらに一週間後の昨日。四月二十日に、三件目の事件が起きた。新たに二等分に切断された野良猫が発見された場所は、今朝の新聞によると早蕨駅から徒歩三分ほどの裏路地の一角だった。現在進行形で一週間毎に起こっているこの動物切断遺棄事件は、悪質な悪戯にしては度を超えているということで、警察も犯人逮捕を目指して捜査を行っているらしい。だが、未だに被疑者すら掴めていないというのが専らの噂である。その連続性、猟奇性、そして犯人の不明性から、それはこの早蕨市で大きな話題となっている事件であった。

 そんな暗い話題が世間を賑わせている四月二十一日の、四度目の月曜日。僕は一時限目の授業が始まる前の空き時間に、自分の席で小説を読んでいた。すると、つい先ほど教室に入ってきた女生徒が、別の女生徒とその事件について話をしているのが聞こえてきた。例に漏れず事件に興味を持っていた僕は、小説を読む振りをしてその会話に聞き耳を立てた。何か、事件について僕の知らない有力な情報があるかもしれない。

「はぁ」

「朝からそんな大きいな溜め息を吐いて、どうしたの?」

「あのね、実は昨日見ちゃったの」

「見ちゃったのって、いったい何を?」

「ほらあれ。例の、真っ二つにされた動物の死骸。それがすごく気持ち悪くて、忘れたくても頭にこびり付いて離れないの。そのせいでなかなか眠れなくて寝不足だし、今日も朝から陰鬱な気分になるしで最悪なの」

 話を聞かされていた女生徒は目を見開き、驚いたような表情をしていた。

「それは、なんとも嫌な物を見ちゃったね」

「でしょ。ホント信じられない」

「それにしても、どうしてそんなもの?」

「動物が見つかった裏路地はね、私の家から駅に行く時の近道になってるの。それで昨日の朝、私は駅に行くためにその道を通っていたら、凄い人集りが出来ていて。でも、まだニュースにも何にもなっていなかったから、私も何事かわからなかったの。その時はとりあえず駅に行きたかったから、その人集りを無理矢理押し通っていて。そしたら、その集団の中心部分に……」

「切断された動物があったって事か」

「そういうこと。ああ、思い出したら余計に気持ち悪くなってきた」

 女生徒は顔を歪めて、両手で口元を押さえた。

「それは、とんだ災難だったね」

「できることなら記憶ごと消し去りたい」

「それじゃあ嫌なことを忘れるために、放課後はケーキでも食べに行かない? 私、おいしいケーキを出している喫茶店を知っているの」

「それいいね。よし。パーっと食べて、パーっと忘れよう」

 昨日から陰鬱だったと語っていた割には女生徒の感情は単純らしく、先ほどまで青ざめていた顔もすっかりと明るくなっていた。事件の事よりも、放課後に待っている友人との娯楽の方が既に重要になっているようだ。以降は放課後の相談に夢中になり、連続動物切断遺棄事件の話は行われることはなくなった。仮にこれ以上その女生徒が話を続けていても、僕にとって有益な情報は出てこなさそうだったので、さして問題はなかった。それに、放課後の楽しみばかり考えてしまう気持ちは、僕のような人間にも理解できる。

 連続動物切断遺棄事件の犯人に興味を持っている僕は、それが起こる度に現場に足を運んでいる。ゴミステーションも公園の砂場も両方、事件が発覚した翌日には僕はそこに向かい、動物を棄てる犯人を想像しながら現場やその周囲の鑑賞をした。もしかすると、犯人が事件現場に戻ってくるかもしれない。よしんば戻ってこなくとも、犯人に繋がる様な何かしらの痕跡が残っているかもしれないという淡い期待を込めて。勿論、その期待が実ることは無かった。それでも、この事件の犯人が動物を真二つにするという凶行に至る心理を想うだけでも、僕は僅かばかりではあるが満足感を得ることは出来ていた。

 そして今日も僕は、そんな僅かばかりの満足感を得るために、放課後になったら三件目の現場である裏路地へと向かう予定なのである。朝からそればかり考えている僕も、友人と喫茶店の洋菓子を食べる事を楽しみにしている彼女と同じなのだ。

 連続動物切断遺棄事件は警察も犯人の捜査を行っているようだが、殺されているのが動物であり、あくまでも『殺人』ではない。法律上では、それはただの器物破損である。そのため、現場が封鎖されている可能性はほとんど無い。実際、過去の二件の現場も封鎖は行われていなかった。三匹目の被害動物が棄てられていたという場所に思いを馳せながら、僕は中断していた読書を再開した。

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