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お好み焼き屋の秘密

これは小さな町で起こる物語。



〜浪花良太郎の場合〜



 秘伝のソースや鰹節の匂いが充満する中、ねじり鉢巻をして新聞を読んでいる男がいた。


「世知辛い世の中やなぁ」


 男の名前は浪花良太郎。小さな町でお好み焼き屋を営んでいる。


「小麦粉がまた値上がりか」


 目を通しているのは経済新聞だった。しかし、書かれているのはお好み焼きランキングやたこ焼きおススメスポットや行列の出来る焼きそば屋など、つい祭りに行きたくなるようなラインナップだった。


「まいど〜」


 ガラガラと引き戸を開けて入ってきたのは小麦粉業者の松屋章吉だった。


「今日の仕入れ分やで」

「いつもすまんな。そこにおいといてや」

「こっちが店用で、こっちに持ち帰り用置いとくよー」


 浪花良太郎のやっている店では、お好み焼きの材料の持ち帰りをやっている。お好み焼きの味が評判を呼んで持ち帰りたいという客が後を絶たなかったため、持ち帰りを始めたのだ。しかし、良太郎は出来立てじゃないと味が落ちる! とのこだわりを持っているため、材料を持って帰ってもらい、自分で焼くようにさせている。


「ほな、あたしはこれでおいとまさせてもらいまっせ」

「松屋の旦那、また今度頼むよ」


 それから良太郎は開店の準備にとりかかった。


「うーむ……」


 いつもどおり店は開店した。だが、客はいつもどおりではなかった。


「にーちゃん! 豚玉一つ!」

「あいよー」


 いつもどおり店は繁盛していた。しかし、いつも見かけないような客が引っ切り無しに訪れてくるのだ。


「にーちゃん! 持ち帰りで!」

「あいよー」


 いつも見かけないような客は、サングラスをして、表情は硬い。そして服の下には虎や龍の模様がありそうな方々なのだ。


「にーちゃん、金ここ置いとくでー」

「まいどー」


 そして、その怪しい客は決まって一万円を置いていくのだ。ちなみに持ち帰りの金額は八百円だ。


「儲かるのはええんやけど、なんか怪しいなぁ」


 閉店後、訝しげにそんなことをつぶやいていた良太郎の目がふと小麦粉に留まる。


「ま、まさか……」


 良太郎はどこかの三番倉庫でやり取りされそうな場面を思い浮かべた。


「……これは!」


 白い粉を人差し指に少しつけて舐めてみた良太郎は驚きを隠せなかった。


「こんな上質な小麦粉は食べたことがねぇ!」


 普通の質のいい小麦粉だった。


「でもこれが一万とは思えねぇなぁ」


 謎が深まっただけだった。


「しょうがねぇな、突き止めてみるか」


 良太郎は、次の日怪しい客をつけてみることにした。すると不思議なことに、どの店でも一万で支払いをしていた。


「どういうことだ? 砂糖が一万もするのか? 片栗粉が一万もするのか?」


 つけ始めてから一時間ほど経ったころだろうか。一つのビルの中へと入っていく。良太郎は物陰に隠れて様子を伺った。


「それにしても見つかりませんね兄貴」

「おうそうだな。それにしてもオヤジにも困ったもんだぜ。この町のどこかに時価一億円の麻薬を隠しただなんてな」

「しかもそれを自分の目利きだけで一万円で買いなおしてこいだなんて、いくら小さな町でも無理ってもんですよね兄貴?」

「まったくだ。白い粉を売ってる店がスーパーだけで何軒あると思ってるんだ。しかもお好み焼き屋まで粉を売ってるときてやがる」


 小麦粉……砂糖……片栗粉……白い粉……麻薬!? 良太郎の中でキーワードがぐるぐると回りまるでホームズのごとく理解した。(どこがやねん)


「あいつらヤクザだったのか。それで白い粉を集めて一億円の麻薬を探してたのか」


 その時、良太郎の見たことのある顔の人物がビルに入ってきた。


「どうや? 見つかったか?」

「オヤジ!」

「いい加減見つけたらどうだ? 麻薬を見つけたやつにはこの松屋一家を任せるのになぁ」


 そう、中に入ってきたのは小麦粉業者の松屋章吉だった。


「ま、松屋さんはヤクザだったのか」


 良太郎は逃げ出そうと踵を返したところだった。バキっといやな音を立てたのは。


「誰だ! そこにいるのは!」


 しまった! と心の中で思っては見たものの遅かった。


「おやおや、浪花良太郎さんではないですか」

「いやぁどうもどうも。お世話になっとります」


 松屋章吉はその場にいた部下二人に目配せをして、拳銃の銃口を良太郎に向けさせた。


「残念やな。あんたのお好み焼きはなかなかおいしかったんやけどな」


 殺されると悟った良太郎は自分の知りうる限りの知恵を振り絞った。


「この場にあるものでなんとかならないか……」


 そこにあるのは無数の白い粉だ。良太郎はあることを思い出した。それはまだ良太郎が見習いのとき働いていた店で小麦粉が散乱してるところに火をつけたところ厨房が爆発を起こした事件だ。


「使える! 粉塵爆弾だ!」


 良太郎はとっさに辺りかまわず粉の袋を破って部屋の中に粉を充満させた。


「兄貴! やっちゃいましょう!」


 舎弟は銃をぶっ放そうとしている。


「バカヤロウ! 死にてぇのか!」


 松屋章吉は必死にとめた。


「引火したら爆発するぞ!」

「今のうちに俺は逃げるとするか」


 良太郎はそそくさと帰ろうとしたときだった。


「動くな! 警察だ! 抵抗すると打つぞ!」


 どこからか駆けつけた刑事と思われる人物が銃を構えて松屋一家に叫んでいる。彼の名前は大木幸男。刑事になりたての新米刑事だ。過去六回腹痛で試験に落ちて七回目でやっと刑事になれたと言うなかなか不幸な人物だった。


「よーしそのまま銃を置け!」


 じわりじわりと幸男が松屋一家に近寄る。しかし、不幸な人生を歩んできた彼の足元にバナナの皮があるのは当然なのかもしれない。


 つるりん。


「あーれー」


 ズキューン! ドゴオオオオオオオン!


 滑って転んで銃が暴発して爆発した。彼ならではの芸当だ。数刻後、アフロになった五人が警察によって保護された。


「さて。松屋章吉。一億の麻薬はどこに隠したのだ?」


 松屋章吉は取り調べ専門の山さん刑事にライトを当てられていた。


「浪花のところに届けたさ。もっともどっかいっちまったみたいだがな」


 果たして麻薬はどこに消えたのだろうか? この謎は一向に解けないみたいだ。


 ちなみにこの日浪花良太郎のお好み焼きを食べた客は何故かもう一度食べたいという衝動にひどく駆られ、数日間行列がやむことがなかった。良太郎は自分の腕が上がったと確信し、二号店を出す計画を立てている。



〜浪花良太郎の場合〜 終わり

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