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だから俺はオタクが嫌いだ!  作者: 椎名乃奈
第一章 それでも、桐陣秋杷は残念だった。
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「つまり、あなたは――話す相手もいない、忘れ物をしても借りる相手もいない、御飯を食べる相手もいない、休日に遊ぶ相手もいない、恋人はおろか友達も居ない、所謂ぼっちと言うことね?」

「まあな」


 それを本人に再確認させるってどうなのよ。

 惨め過ぎて、何も言えないんだが。


「それなら、都合が良いわね」

「都合が良い?」


 都合なんてものは、大抵の場合が自分にとっての都合だ。こちらの都合なんて一切考える気の無い都合だ。だとすれば、これから切り出されるであろう都合も、間違いなく俺にとっては都合の悪い話に違いない。


「一体、何の話だ?」

「あら、明成先生から何も聞いていないのかしら? 新しく部活動を設立する為の記入用紙と一緒に、新入部員をそちらへ送るから、そいつを扱き使ってくれても構わない――そう言われたのだけど」


 記入用紙の話以外、全部初耳なんだが。都合の良し悪しどころから、俺の都合なんて微塵も考慮されていない。そもそも、俺には都合なんてものなど初めから存在し無いとでも言いたげな都合だ。


 そりゃ、さぞ都合の良いことだ。


「いや、なにも――と言うか、今さらっと俺が新入部員として入部させられていた挙句、俺を酷使することを公に許可されていたように聞こえたんだが、勿論気の性だよな?」

「いいえ。そう聞こえる様に言ったつもりだけど。もし、聞こえ辛かったならもう一度大きな声で言うけれど?」

「いや、そう言うつもりで言ったわけじゃない。と言うか、分かってて聞いているよな」

「さあ、何のことかしら」


 間違いない。確信犯であり、明成先生と共犯だ。


 なんで、こうも俺の知らない所で俺の話が進んでいるだ。こういう話は、最低でも本人の許可は取るべきだろ。他の生徒だったら、こんなこと絶対にしないだろ。だったら、通すべき筋は通すべきなんじゃないだろうか。


 どうせ、俺みたいな陰気なぼっちは、きっと文句は言わないだろう、若しくわ言う度胸すらないだろうから、どんなことをしても問題ないとか思っているんだろう――いや、まあ、その通りなんだが。


 その通りだからこそ、そう言う考えを改めて欲しい。

 いや、本気マジで。


「俺みたいな人間は敵に回すと怖いが、味方に付けたって何の役にも立たないから止めておけ」


 清々しいくらいの負け犬宣言だが、それで良い。自分のネガティブキャンペーンで悪印象を桐陣へと与えることで、俺の入部を諦めて頂くとしよう。自分から辞退したのではなく、相手が拒否したのでは仕方が無いことだからな。


 だがしかし、桐陣と言う人間は俺の思っている以上に強敵のようだった。


「あなたを敵に回したところで、怖くもなんともないわ。正論だけで、あなたを論破するもの。それに、今のあなたを味方に付けても何の役にも立たないことは分かっているわ。それなら、役に立つように調教するだけのことよ、ね?」


 桐陣はそう言った。

 真顔でそう言った。


 俺は思わず唾をゴクリと飲み込み、視線を外へと逃がした。額から流れた汗は、頬を伝り、顎の先からズボンへと滴る。その台詞のなかで唯一、女の子らしい可愛らしさを放っていたのは、語尾の〝ね〟だけだった。


「とんでもねえことを、良くもまあ真顔で言えるな」

「誉めても何も出せやしないわよ」


 どうして、今のが褒め言葉として受け取られるんだ。いや、違うな。桐陣の場合は、誉め言葉として受け取っているわけじゃない。わざとそう言って、こちらへと皮肉を言っている。


「どうしたのかしら?」

「いや、何でも無い」


 その相手を見透かしたような瞳で俺の胸中を探ろうとしているんだろうが、俺はそうはいかない。ぼっちには、ぼっちがぼっちでいる為の強靭な精神力がある。どれだけ陰口を叩かれようが、どれだけ拒否されようが、それを耐えうる鋼の様なハートがあるからだ。


「それなら、さっさとそこへ署名をして貰えるかしら」

「いやいや、ちょっと待て。俺は、そもそも入部希望者じゃない。それに、ここは一体何部なんだ? 俺はそれすら知らされていないんだが」

「そうね、そうだったわね」


 さて、入部するしないは置いておいて、取り敢えずここが一体何部なのかと言う答え合わせをするといこう。


 俺の予想では、このおびただしいオタクグッズの山からも、間違いなくオタク関連であるはずだ。でなければ、この部屋の意味が分からなくなる。俺の予想では、ここはオタ研だ。


 落語研究会を落研と略すのなら、オタク研究会をオタ研と略すのは何ら問題ないだろう。ここは、オタク文化を研究と言う名目で、オタクグッズを楽しむだけの部活動に違いない。


 きっと、昨今のライトノベルや漫画やアニメに影響されて、自由に高校生活を謳歌出来る様な部室を作ってしまったに違いない。


 さあ、答え合わせと行こう。


「先に言っておくけど、ここは漫画研究部でも無ければオタク研究会でも無いわよ」

「なっ……」


 思わず俺は、眼を見開き、声に出してしまった。桐陣は、本当に心を覗き見ているかのようにピタリと考えていたことを当ててしまったからだ。まさか、こいつ、魔女かなんかの類じゃないよな。


「じゃあ、ここは一体何なんだよ」

「ここは、〝桐陣堂〟と言う名の同人サークルよ」


 そして、桐陣は長い黒髪を耳に掛け、俺へそう言った。



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