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だから俺はオタクが嫌いだ!  作者: 椎名乃奈
第一章 それでも、桐陣秋杷は残念だった。
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「気持ち悪いのだけど、どうかしたのかしら」


 今のは、俺の聞き間違いだろうか。俺の聞き間違いじゃ無ければ、気持ち悪いと言われたように聞こえた気がしたが、きっと聞き間違いだろう。そうだ、そうに決まっている。だが、一応確認の為に。


「……え?」


 すっ呆けたふりをして、俺はそう返す。


「だから、気持ち悪いと言ったのよ」


 桐陣は、汚物を見るかのような冷酷で無慈悲な目付きで俺を卑下していた。どうやら、俺の聞き間違いじゃなかったようだ。その上、どうかしたのかしら――と言う、俺を気に掛けている部分すら抜けて、最早ただの暴言へと早変わりしていた。


「ああ、ごめんなさい。顔色が悪いようだから」


 なんだよ、ああって。その、ああとごめんなさいの間に、ついうっかり口を滑らせて本当のことを言ってしまって、と言うフレーズが括弧に括られてるのが見えるんだがそれは俺の気の性ということにしておこう。


 それに、顔色が悪いって体調が悪そうですねって意味合いで使ってないよな。どう考えても、顔が気持ち悪いですって意味合いで使ってるよな。言われ慣れてても傷付くぞ。と言うより、影口で言われている可能性は否定出来ないが、言われ慣れる程、直接言われたこと無い。


「俺はいつも通り好調だ」

「あらそう。それで、好調なら風邪でも引けばきっと絶好調になるんでしょうね」


 おい、ちょっと待て。どういう意味だよ。


「お前、友達いないだろ?」

「友達? 友達とは、お互いに心を許し合い、実力を認め合える関係であり、切磋琢磨し合える人のことを言うのよね。だとしたら、私は未来永劫、他人に心を許すようなことはしないし――それに、私と実力で争えるような人とは残念なことにまだ出会えていないわ」

「一応言っておくが、それどう考えても友達のいない奴の台詞だからな」

「友達が居るだなんて一言も言ってないでしょう。何を聞いていたのかしら。それに、私はただ事実を述べているだけよ」


 桐陣の言っていることは、間違いなく事実だろう。


 さっき、気付いたが桐陣は確か今年の新入生代表だったはずだ。と言うことは、学年でも指折りに頭が良いのだろう。それに加えて、この容姿。有り余るその才能の性で、他人の力を必要とすることがこれまでの人生において無かったのだ。芸は身を助けると言うが、桐陣の場合はその芸が身の仇となっているようだった。


 まあ、掻い摘んで話してしまえば、こいつも俺と同じただのぼっちと言うわけだ。これを口にすれば間違いなく、貴方と一緒にしないでくれるかしら――とかなんとか言われる未来が見えているので、発言は避けておく。


 ただ、クラスの中に階級制度がある様に、ぼっちにもぼっちなりの階級制度がある。言うなれば、ボッチ・カーストだ。空気系ぼっちや陰気系ぼっちなど様々なぼっちが点在している中でも、最上位に存在しているのは神秘系ぼっちだ。


 あまりに高嶺の花過ぎて手が届かない、自分なんかが声を掛けるなど烏滸おこがましい。自らの口でそう発さずとも、周囲がそう認識してしまうオーラを纏う最強の神秘系ぼっち――それが、桐陣秋杷だ。


 ちなみに俺は、誰からも相手をされない、その存在すら認識するのが難しい、三歩動けば瞬間移動したと思われてしまう――空気系ぼっちだ。ただ、俺の場合は自ら望んで空気系ぼっちの椅子に座っているのだ。そこを勘違いしないで欲しい。


「はいはい、そうですか」


 俺は、いい加減な返事をする。


「友達のいない貴方にそんなことを言える筋合いも、言われる筋合いも無いと思うのだけど」


 なんで、俺に友達がいない事を知ってんだよ。もしかして、俺の知らない間にぼっち臭が体から滲み出てんのか。俺は、体を横に向ける仕草をする振りをして、桐陣にばれないようこっそりと自分の体臭を嗅いでみる。


「そんなことしなくても、しっかり顔に書いてあるわよ」

「――っ」


 余裕でばれてる。

 俺は、声にならない声を小さく上げて正面へと向き直った。すると、桐陣は呆れて果てた顔をして、部室が凍り付くかの様な重く冷たい溜め息を一つ吐いた。


「貴方みたいなタイプって、どこかで自分は皆と違う。自分は他の人達よりもっと上に居る。こんな奴らとは一緒に居る意味が無い。だから、友達なんて必要ない――そう思い込んいるんじゃないのかしら?」


 桐陣は、俺の心を見透かしているかのようにそう言った。


「ああ、そうかもな。ただ、俺にとっての友達の定義は、お互いに心を許しすだの、実力を認め合うだの、切磋琢磨し合えるだのそんな辞書で引っ張って来た言葉みたいなんもんじゃない」

「それなら、貴方にとっての友達とは一体何なのかしら?」


 桐陣は、俺へと問い掛ける。


「俺にとっての友達は――俺が必要だと思った人間が友達だ。だが、お生憎様、あんたと同じように俺が必要だと思えた人間はこれまでに誰も居なかったもんで、俺にも友達は居ないというわけだ」


 桐陣は口をぽかんと小さく開け――そして、小さく笑みを溢した。



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