000
思えば、俺の人生は〝オタク〟に狂わされっぱなしだった。
俺がオタクたちに出会ったのは、十五歳の春のことだ。オタクとは、アニメやマンガ、ゲームにアイドルと言った趣味に異常なまでに没頭し、その趣味に対する知識が豊富な者に対する一つの喪称だ。
オタクは、根暗であったり、社交性が無かったり、テレビや新聞などでは変質者や犯罪者予備軍とまで呼ばれることもある。俺もオタクと言う生き物は、皆一様にそうなのだと思っていた。
けれど。
「知ってるかしら? 天才と一般人は、総合的に見ればそんなに能力差は無いそうよ。けれど、天才は一般人なら誰でも出来ることが出来ず、誰にも出来ないことが簡単に出来る」
彼女はそう言った。
そして、続けて言う。
「私は、そう言った意味ではオタクも同じだと思うの。オタクも天才もその根源にあるのは知識欲よ。知りたい、見たい、聞きたい――それを突き詰めた結果がオタクってだけ。天才だってそう変わらないわ。なんなら、この世界はオタクによって創られているとさえ思っているもの」
さすがにそれは言い過ぎだろ――俺はそう思った。
しかし。
「どこの業界にもオタクは無数に存在していて、そのオタクがその業界を率先して引っ張っている。持っている価値観も常識も一般人には理解されない。傍からは変人扱いされる。それでもオタクを止めないのは、自分たちがオタクであることに全く恥じていないからだと思う。しかも、それを誇らしく思っている。心から本当に好きだと言えることがあることをね。まあ、もしかすると自分のことをオタクだなんて思って無いのかもしれないけれどね」
俺は、彼女のその言葉にどこか納得させられた。
それは、オタクについて語る彼女が煌びやかに見えたからだろうか。それとも、彼女がオタクと睦まやかに見えたからだろうか。オタクが嫌いだった俺が、彼女のその言葉でどこか納得させられたのは何故だろうか。
だから、興味を持ったのかもしれない。
オタクにでは無く――桐陣秋杷と言う人間に。