強さを求める村娘(4)
それ以上は攻撃力要らなくね、と勇者に言われた村娘は、ぷっくりと頰を膨らませた。
「でも剣も扱えるようになりたいんだ」
「俺サマは暇じゃねェんだよ」
相棒の刃を確認しながら、剣士が興味無さそうに言う。
「ま、まぁまぁ、剣士殿。自分の身を護れるくらい強いから、足手まといってわけじゃないんだし、さぁ」
「……テメェはしばらく前からヤケにソイツを連れて行きたがるなァ?」
惚れたか? それとも裏があるか?
にやにやと笑う口元に反し、その眼光は、射抜く程に鋭い。勇者は何か後ろ暗いことでもあるのか、見て分かる程に狼狽えている。
「……オレは何もしてないぞ」
そいつと裏工作などしていない。と目を吊り上げた村娘は「オレはただ、あの女の子に“押して駄目なら、押し倒せ”って言われたから」と真面目な顔で言った。勇者の冷たい目が、何故か剣士に向けられる。
「阿呆か。こんなガキに押し倒されても食指が動かねェよ」
ハッと鼻で笑う。ショクシ? きょとーん、とする村娘の前で、勇者が剣士に「うおおおおい、子供になんってこと言うんだよおおおおお!?」と詰め寄っている。
「っていうか、その相手の女の子もなんてことを……!」
「うん? いいやつだったぞ。綺麗な金色の髪でな、紅玉のような瞳をしてた。すごく綺麗で、可愛くて、あぁ、声もすごく透明感があったな」
夢の中の出来事だったかもしれないけれども。
ぽお、とその時のことを思い出しながら夢心地で話すと、何か気になることでもあったのか、首を傾げている勇者の手を振り払った剣士が、村娘の前にやって来た。
「おいテメェ、その女、スタイルはどうだった?」
「スタイル? うーん、ふわっとした白いワンピース着てたから分からん」
「押し倒せっつーのは、そいつが言ったのか?」
「いや」
村娘はきょとんとしながら、口を開く。剣士はやに真剣な表現で、村娘の答えを待っている。そんなに重要なことなのだろうか。
「その子の兄の言葉だそうだ」
剣士の表情は変わらなかった。
ただそのまま立ち上がると、「仕方ねェな」と面倒そうに漏らす。
「俺サマは暇じゃねェ。だが勝手に盗むってンなら止めねェよ」
「ほ、本当か!」
顔を明るくした村娘は、あまりに興奮していたので、未だに神妙な顔をしている勇者にも、意味ありげに目配せをしている剣士と賢者にも気付かなかった。
押してみるもんだ。心の中で少女に感謝を述べる。
「アレがそう望むなら仕方ねェな。なんで外にいンのかも、何が目的かも知らねェが乗ってやるか」
その言葉に応えるように、ひゅう、と風が吹いた。
◆強さを求める村娘 了
短めです。ごめんなさい。
さて、次回から魔女さんにバトンタッチです。




