希う天使と××
ファンタジー世界での恋愛小説です。
ええ、恋愛小説、です。
最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
この世界は、三つの界層に分かれている。
一つは、魔界。地下界とも呼ばれるそこには、魔属性の生き物が生息する。理性の無い魔獣も多い。まさに弱肉強食の界層だ。
一つは、地上界。魔界とは違い、複数の国や地域からなる界層だ。国同士の戦争もあるが、自然の美しさも誇れる界層でもある。
一つは、天界。ここには、天使が住んでいる。最上界に位置するこの界層は『この世界は自分たちが管理しているのだ』という意識をしている者が多い。事実、それなりの仕事はしているのだが。
てんでバラバラな三つの界層であるが、共通していることもある。基本的に他の界層には無関心であるということだ──天使でさえ、“管理”することに重きを置き、そこに誰がどんな考えを持っているのかは、気にしていないのだ。
そもそもが、多くの者は自力で他の界層に渡る力が無いので、当然といえば当然だ。異界など、夢物語のようなものである。
とはいえ、何事にも例外はある。
いざこざが多い魔界など性に合わないと地上界の辺鄙な土地に城を構えた魔女もいれば、地上界の女では飽き足らず違う界層で女を探す剣士もいる。
理解できることもあれば、できないこともある。当然だ。
そして、容姿端麗なこの可愛らしい天使もまた、例外のひとつであった。
微笑めば誰もが見惚れるような愛らしい顔立ちをした、どちらかといえば童顔の少女の背中には、純白の翼がある。柔らかそうな羽毛に覆われたその翼は、揺れると陽の光が通り、まるでキラキラと光っているようである。
金色のストレートの髪は、腰まで伸びており、風に揺られる度に甘い香りを漂わせていた。優しげに細められた紅玉のような瞳は、見ているものを惑わせる、不思議な魅力を放っている。
その姿は天使でありながら、さながら悪魔のようでもあった。
「まあ、それでは貴方様は、長いこと独りぼっちだったのですね」
そんなことを口にしてなお、ふわふわした微笑みを浮かべている少女の真意は計れない。
しかしこの場にもし別の誰かが居合わせたのであれば、見ている者が首を傾げたのはそこではないだろう。
おそらく、全員が思うはずだ。
──この少女は、いったい誰と喋っているのだろう、と。
少女が可愛らしい笑みを向ける先には誰もいない。しかし少女はまるでそこに何かがいるかのように、そしてその存在が少女と会話しているかのように話を続ける。
「ええ、……ええ、そうでしょうとも。貴方様の願いは尤もです。わたしにできることであれば、お手伝いさせていただきます!」
風が吹く。少女がきょとんとした。
微笑み以外の表情もまた、魅力的である。ぽかーんとしていた少女は、しばらくして我に返ったようだ。ハッとしてから、今度はひどく悩んだ顔になる。
そうですね、うーん。
しばらく悩んでから、彼女は儚く笑う。
「でしたら────」
返事は、おそらく少女の望むものだったのだろう。すぐさま顔が華やいだ。
その後、何度かうんうんと頷き、少女は、その小さい手で拳を作ってみせた。
「それでは、契約完了、です。お任せください、必ず貴方様の力になります! 代わりに私の願いを叶えてくださいね」
──そして少女は天界を去り、許可無く地上へ降りた罰として堕天使となった。
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