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ある日の『上葛城商店街』  作者: いなばー
五人目の適格者(紀子)
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五人目の適格者

 私、天笠紀子は重大な会議に出席させるために、内染薫子ちゃんを呼びにいった。

 彼女の親衛隊を作らないといけない。


 「美人会議(紀子)」「美少女、襲来(宇都女、薫子)」を踏まえています。事前に読んでいると理解が進むと思います。

 これ単体では分かりにくいかもです。


●登場人物

・佐伯文香(旧姓・赤木)  初代美人

・天笠紀子  二代目美人

・小村響   三代目美人、現・商店街で一、二を争う美人

・森田咲乃  四代目美人、現・商店街で一、二を争う美人

・内染薫子  新しく商店街に来た美少女

 私は天笠紀子。『上葛城商店街』にある化粧品店の店長をしている。

 今日は重要な会議があるので、昼の三時前に店を他の店員に任せて外へ出た。

 さーて、まずは厄介な人物を会議場所まで引っ張ってこないと。

 今月頭に開店したランジェリーショップはなかなかの人気。かなりのご年配まで覗きにきている。私も今度、娘とゆっくり見にきたいな。


「笙子さん、こんにちは。娘さんいらっしゃる?」

「例の会議ね。今呼ぶわ。薫子~!」


 店長たる笙子さんに奥から娘さんを呼んでもらう。


「何? お母さん」

「あれ、あんたそんな格好で。三時に会議があるって言っておいたでしょ?」


 長身の美少女中学生、内染薫子ちゃんは今日も潤いのあるつるつるお肌。

 黒髪を一つのお団子にまとめ、Tシャツ、短パンとラフな格好をしている。『すかんたこ』と書かれたTシャツが微笑ましい。


「そのなんとか会議? 商店街ごときの集まりに顔を出すなんてイヤよ。私は忙しいの」

「ウソを言いなさいよ。どうせまた読めもしない小説を眺めてるだけでしょ? いいから着替えて出ていきなさい」

「みんな薫子ちゃんを歓迎して待ってるわ。一緒に行きましょう」


 私が優しく言ってもむすっとしているだけ。そんな顔をしてもやっぱりかわいい。

 本物の美人というのは、ちょっとやそっとではそのかわいさが曇るなんてことにはならないのだ。


「いくら紀子さんの誘いでもイヤなものはイヤ。私は文学の世界に浸りたいの」

「ちなみに何読んでるの?」

「そ、それは……いろいろよ。特に言う必要を感じないわ」


 相変わらず素直じゃない子。

 夏休みで暇な薫子ちゃんは、しょっちゅう私の化粧品店に顔を見せている。

 ところがこの子は、私が中学生らしいスキンケアのやり方を手ほどきしてあげるまで、こっちを名前で呼ばずに「あなた」としか言わなかった。

 どうも自分が認めた人のことしか覚える気がないようだ。私の娘は同い年で何度も話をしているのに、未だに名前を呼んでもらえていない。


「じゃあ、文学の話はまた今度。それより喫茶店に行きましょう。サキちゃんもいるわよ」

「咲乃お姉様……。それってなおさら行く気を削ぐんだけど」

「え? 逃げるの?」


 わざとらしく驚く私。


「え? なんで逃げることになるの?」


 向こうも驚いた顔。


「だって、また負かされて泣いちゃうのがイヤだから会いたくないんでしょ?」

「わ、私は別に負けてないし、泣いてもいないわ」

「そうなの? ウヅメがそう言ってたんだけど。少なくとも二回負けてるらしいわね。プールと肝試し」

「あのブス、なんて口が軽いの……」


 ぎりりと歯ぎしりの音が聞こえてきそう。

 どうやら私の娘たるウヅメの名前は覚えてるようだけど、本人の母親の前でブス呼ばわりとは随分酷い。


「そっかぁ……負けてないとか言うんだぁ……。それ、サキちゃんに言っていい?」

「え? 別に言う必要はないんでは?」


 急に弱気になる。サキちゃんにヘコまされて上下関係を叩き込まれているのだそうな。サキちゃんが言っていた。


「サキちゃん激怒するだろうなぁ~。自分に負けといてそれを認めないとか、許すあの子じゃないもの」

「さっきの発言、撤回してもいいかしら?」

「つまり、負けを認めると?」


 すると口をへの字にしてしまった。このお年頃にとって敗北はなによりの屈辱。素直には認めたがらないだろう。


「ま、その話はいっか。とにかく会議に出て欲しいのよ。一緒に来て?」

「……行かないと、さっきの話を咲乃お姉様にする気ね?」


 ここで私は極上の微笑みを彼女に向ける。


「ぐぬぬぬぅ」


 薫子ちゃんがうめく。


「ほら、ゴネるのはそれくらいにして準備しなさい」


 笙子さんが自分の娘の太ももを叩いた。


「その愉快なTシャツのままでもいいのよ?」

「……それだけは絶対にイヤ。ちょっと待ってて頂戴」


 と、家の中に消える。

 やれやれだ。




 薫子ちゃんはピンク地のTシャツとタイトな黒い八分丈のパンツを着て現れた。自分が映える格好をよく分かっている。

 二人連れ立って商店街にある喫茶店に。

 他のメンバーは既に来ていて、八人掛けのテーブルを確保していた。


「お待たせでーす」

「お、やっと来た」


 花屋の文香さんが身をよじってこっちを向く。この人が我等のボスだ。


「わぁ、今日もかわいいわね。一枚撮っていい?」

「ダメ」


 スマホを構えた本屋の響ちゃんをあえなく拒絶する薫子ちゃん。


「は~い、薫子ちゃん」


 にこやかに手をひらひらさせる八百屋の娘、サキちゃん。これは半分以上、挑発だ。


「じゃあ、サキちゃんの前にどうぞ」

「む、むぅ……」


 渋面ながら逆らわずに席へ。


「ここはクリームソーダーがおいしいんだよ。ここに来たことは?」

「ないわ」


 声をかけられてもそっちは向かず、つんとしている。

 文香さんの怖さをまだ分かっていない薫子ちゃんの態度よ。


「じゃあ、マスター、クリームソーダーを追加で二つ」

「ちょっと、勝手に決めないでよ」

「まぁまぁ、いいからいいから」


 マイペースな文香さんには逆らえるわけもなく。

 クリームソーダーはすぐに来た。


「ではでは、ようこそ『美人会議』へ、薫子ちゃん」


 みんなしてグラスを薫子ちゃんのに当てる。


「で、私はなんでここに呼ばれたのかしら?」

「商店街の若い衆にいよいよ動きがあったんだよ」

「若い衆?」

「ありますね、私の親衛隊からは十人近くが離脱して薫子ちゃんの方に」

「私の親衛隊からも何人も薫子ちゃんの方へ行くみたいよ」

「親衛隊?」

「忠誠心の高い響ちゃん、数の多いサキちゃん、勢いのある薫子ちゃん。三つの勢力は拮抗しそうだね」

「あの、私にも分かるように説明して欲しいわ」


 と、まずは興味を惹かせるという作戦。


「よろしい。では語ろう、この商店街に住まう美人に課せられた宿命について」


 勿体つける文香さんの言葉を、喉を鳴らして待ち受ける薫子ちゃん。

 まぁ、語る内容は商店街の住人には周知のこと。

 商店街の若い衆とはこの商店街で働く男のうち、店長ではない息子たちの集団。これには既婚未婚を問わない。

 彼らは商店街にいる一番の美人を奉る習性を持っている。今は一、二を争う二人だけども。

 そんな彼らを管理するために作られるのが親衛隊。隊則によって個別にちょっかいを出すことを禁じられた隊員は、美人をただ遠くから眺めるしかない。こうして連中に絡まれるウザさから、美人は解放されるのだ。

 この親衛隊のシステムを生み出したのは誰あろう、文香さんだ。彼女が『商店街の虞美人草』と呼ばれていた若い頃、多くの男が群がってかなりウザいことになっていたらしい。そこで親衛隊をでっち上げたのだ。

 彼女の跡を継いだ二代目の美人たる私は地味だったので親衛隊はいなかったが、次の美人たる響ちゃん、さらに次の美人たるサキちゃんにはしっかりと親衛隊がいた。

 そして現在はこの響ちゃんとサキちゃんが、商店街で一、二を争う美人として親しまれている。

 そこへ現れたのが美少女・内染薫子ちゃんだ。彼女を奉ろうとする若い衆の動きを、我々『美人会議』は察知していた……。


「……で、若い衆が暴走する前に、ちゃんと親衛隊を作って連中を管理下に置くんだよ」

「あなたたち、頭がおかしいの? あるいは暇なの?」


 薫子ちゃんが吐き捨てるように言う。


「まぁ、見た目バカバカしい体制だけど、親衛隊システムは実によく機能してくれてるんだよ」


 文香さんが我慢強く説明をする。


「ちなみにその若い衆とやらって何才くらいなの?」

「十代後半から四十代後半まで、豊富に取り揃えてるわ」


 響ちゃんが言う。


「……私のお父さんって、三十後半なんだけど。それより年上の奴が?」

「そうなんだよ~。それくらいのおっさんが、私の親衛隊をしてるんだ。高校生の頃から」

「寒気がするわ」


 サキちゃんの言葉に首を横に振る、潔癖な少女。


「まぁ、慣れたらどうってことのない無害な集団よ? なにより、親衛隊がないとかなりウザいことになるの」


 実際に親衛隊がいる響ちゃんが有用性を述べる。


「結構よ。そんな妙ちくりんなものは私には必要ない。もし、この私にヘンな男が声をかけてくるようなら、即一一〇番よ」

「そんなんされたら店員が欠けて商店街は大変なことになっちゃうわ。ていうか、みんな法に触れることはしないから、警察は何もできないのよ」


 私も事情を説明した。


「でも、未成年をレ●プするんでしょ?」

「しないしないしない!」


 慌てて私と響ちゃんが否定する。かわいらしい口でなんて単語を口走るんだ。


「あくまで善良な店員ですから。それでも、むさ苦しいおっさんたちに群がられると、かなりウザいよ?」

「じゃあそうね、防犯グッズを持ち歩くことにするわ。近づいてきたら、即電撃よ」


 商店街のど真ん中でそんなことをされると大騒ぎになっちゃう。

 というか……実際になったことがある……。


「それじゃあ、向こうを刺激するだけなんだよ。喜んで抱き付いてくるよ」

「だ、抱き付いてくるのっ!」


 サキちゃんの言葉に目を剥く。


「だって、取り押さえないと危ないじゃない。そういう口実をみすみす与えちゃうことになるんだよ」

「なんてこと……」


 薫子ちゃんが唇を噛んで不快感を示す。


「私ってね、中学の頃は親衛隊がいなかったんだよ。美人認定を高校まで先延ばしにされたからなんだけど。でも、ロリコンにはそんなの関係なかったんだ」

「ロ、ロリコン……」

「そう、未成年美少女最大の敵、ロリコン。連中の悪行の数々を、今から語って聞かせよう……」


 サキちゃんが目の前の薫子ちゃんに顔を近付ける。薫子ちゃんも身を乗り出す。なんか、そのままキスしちゃいそうだ。

 そして語られたのはサキちゃんの中学時代。あれはかなり酷かったなぁ……。文香さんが助けようとしたけど、サキちゃんは拒否したんだ。この子も大概頑固だったから。

 実におぞましい若い衆・ロリコン派の所業が、サキちゃんの口から語られていった。

 語り終えた頃には薫子ちゃんの唇は真っ青に。


「そんな……、警察は何をしてるの……」

「あくまでやることは合法の範囲内なんだよ。連中が取り憑かれてる思想はどこまでもタチが悪いんだけど」


 そう、彼らロリコンが唱える自己弁護の理論は、何度聞いても共感できないキモチ悪いものだった。


「むぐぐぐぅ……」

「親衛隊作る気になった?」


 今まで黙っていた文香さんが声をかける。


「でも……、でも、私はあくまで孤高に戦っていくわ。あなたたちと徒党を組む気はない。だって私は……」

「だってキミは?」

「だって私は、一匹狼なんだから!」


 くわっと目を見開いた。

 一匹狼かぁ……このお年頃が好きなワードのひとつだよねぇ。


「別に徒党を組むわけじゃないよ? キミは私たちと親衛隊を利用すればいいだけなんだから」

「利用?」

「そう利用。そんなふうに他人をうまく利用できないと、真の美人は名乗れないよ?」

「真の美人……」

「美人ていうのは、誰にでもなれるもんじゃない。ただキレイなだけではダメなんだ。高貴な精神も必要なんだよ」

「そのとおりだわ」


 何度もうなずく薫子ちゃん。

 ちなみに事前に聞いているが、文香さんが言ってることは全部口から出任せだ。


「見た目はほんのちょっぴりかわいいけど、中身が全然ともなっていない奴のなんと多いことか。男に媚びたりね」

「あなたもそんなふうね」

「ぐっ! 私もそんなんではないから。キミも違うよ? 薫子ちゃんには美人としての気高い精神を感じる。キミは違う」

「そうね。私はあなたたち凡人とは違うのよ」


 自分は人と違う。彼女らのお年頃が大好きなポジションである。


「ぐっ! わ、私たち凡人とちょっとくらい仲よくなっても、キミの孤高な精神は少しも曇らないよ? むしろ年上をたなごころの上で弄ぶ、美人としての風格が身に付くはずだ」

「それはそうね、あなたたちと私とでは、しょせん格が違うもの」

「ぐっ! そ、そうだね。だから私たち、そして親衛隊を利用してみてはどうだろうか? なぁに、面倒な手配は全部私の方でやっておくよ。キミは何もしなくていい。ただ、承認してくれたらいいんだ」

「ふふ、大人の下僕がいるのも悪くないかもね。あなたたち込みで」

「ぐぐっ! じ、じゃあ、承認してくれる?」

「そうねぇ……。お願いします、薫子様、そう言えば考えなくもないわ?」


 どこまでも尊大な視線で文香さんを見下ろす世間知らずな中学生。


「もう限界! サキちゃん、交代」

「えっ! ここで私に振るんですか?」


 文香さんリタイア。むしろプライドの塊みたいなこの人が、よくここまで我慢した。


「何? サキがお願いしてくれるのかしら?」

「ぐぐ……誰のためだと思っていやがる……。分かった、分かりました。薫子様、どうか『美人会議』に入ってください。そして親衛隊を作らせてください」


 深々と頭を下げる、時に自分を偽ることもできる大人になったサキちゃん。


「そうねぇ、ここでイヤと言ってもいいんだけど……」

「そんなんしたら、どうなるか分かってんだろうな?」


 サキちゃんが、少し顔を上げてぎろりと睨み付ける。


「じ、冗談よ。いいわ、『美人会議』? それに入ってあげる。親衛隊も好きにすればいいわよ」

「よっし!」


 勢いよくサキちゃんが頭を上げる。


「ようこそ『美人会議』へ。五人目の美人としてあなたを歓迎するわ、薫子ちゃん」

「これからよろしくね」


 私と響ちゃんが温かい拍手で新人を迎え入れる。


「ふん、よろしくしてあげなくもないわ」


 ふんぞり返ってる薫子ちゃん。


「よ~し、じゃあまず、上下関係の教育から始めよっかっ!」


 文香さんが隣にいる薫子ちゃんの肩をがしっと抱く。南無三……。


 …………


 十分後、喫茶店には暗い雲を背負ってうなだれる薫子ちゃんの姿があった。


「文香お姐様、咲乃お姉様、数々の非礼の段、平にご容赦くださいませ……」

「分かればいい。分かればいいんだよ、薫子ちゃん」


 ばしばしと薫子ちゃんの肩を叩く艶々笑顔の文香さん。

 一度も怒鳴り声を上げずにここまでヘコます手腕はさすがであった。


「じゃあ、すっきりしたところでこれからの方針についてまとめましょうか」


 放っておいたら話がいつまで経っても終わらないので、私の方から文香さんをうながす。


「ん? そうだね。まず、薫子ちゃんはまだ中学二年生だし、美人として担ぎ出されるには早すぎるよね。少なくとも高校入学までは待つよう、若い衆に圧力をかけよう」

「そうですね」


 サキちゃんがうなずく。


「その一方で、すでに動き始めているロリコンどもを管理するために、今から親衛隊を立ち上げておかないと。今のところはカッコ仮だけどね。その辺は任せて」

「はいです。じゃあ、美人の体制は今のまま、親衛隊はカッコ仮を立ち上げると」

「ちょっと待ってください」


 私の言葉に響さんが手を挙げる。


「どした? 響ちゃん」

「あの~、私、もう三十ですし、美人の座を返還したいんですが~」


 人差し指の先っぽ同士を合わせて、言いにくそうに考えを述べる。


「却下。まだ未婚だもん。今時三十くらいは余裕で美人の範囲でしょ?」

「ええ~? 紀子さ~ん」


 潤んだ瞳で私に訴えかけてくるかわいい響ちゃん。

 まぁ、確かに二十一歳のサキちゃんと並び称されるのはツラいものがあるかもしれない。さらに年下の薫子ちゃんまで控えてるとなると……。


「響ちゃんも大分頑張ってくれたんだし、もういいんじゃないですか?」

「ええ~、私はイヤだなぁ。二人で仲よくやっていきましょうよ~」


 と、私は賛成、サキちゃんは反対。


「薫子ちゃんは?」


 まだまだうなだれている薫子ちゃんにも聞いてみる。


「いいえ、私ごときひよっこは、意見を述べる権利を持ちません」


 卑屈だなぁ。


「では、響ちゃん引退案は、賛成二、反対二、棄権一で保留といたします」

「それって、続投と一緒じゃないですか~」


 文香さんが宣言すると同時に響ちゃんはテーブルに突っ伏す。


「まぁ、頑張ってくださいよ」


 サキちゃんが肩を叩く。

 これにて今日は終わり。




 帰りも薫子ちゃんを送っていく。文香さんも同じ道。


「いや~、若いっていいよねぇ、怖いもの知らずで」


 まだまだ上機嫌な文香さん。一方の薫子ちゃんはうなだれ続けている。


「文香さんも同じ年ぐらいの時は似たようなもんだったんじゃないですか?」

「まぁ、もっと酷かったよ。止める人もいなかったし。その代わり、器量も薫子ちゃんよりずっとよかったけどね」


 と、薫子ちゃんが立ち止まる。


「どうしたの? 薫子ちゃん」

「今、聞き捨てならない言葉が聞こえたわ」


 ゆらりと顔を上げる。


「え? 何が?」


 きょとんとしている文香さん。ホントに気付いてないのかな?


「私より……美人だった……? そんな世迷い言が、許されると思ってるの?」


 ぎろりと文香さんを睨む。

 ヘコんでもすぐに立ち直ると娘が言ってたけど、どうやらその通りのようだ。


「でも実際そうだもの。今日そういう話になるかと思って、昔の写真持ってきてたんだよ。ほら見てみ」


 と、小さいアルバムを自分のハンドバックから取り出す。

 私も横から覗き込むと、確かに『虞美人草』時代の文香さんの写真。十代後半くらいかな?


「ものすごく色が変だわ。随分古いのね」


 薫子ちゃんの第一の感想。


「そこはスルーしてよ。でも、見ての通り私の方が美人だ」

「……そんなことないわ。パーツが派手すぎて、むしろ下品ね」

「下品? いやいやいや、絶妙なバランスでもって下品は回避してるよ。この華やかさをもっとちゃんと見て?」

「髪型もヘンだわ。何この、やたら細かいパーマ」

「そういうのが流行ってる時代だったの! あくまで負けを認めない気?」


 ていうか、派手な美人の文香さんとクール系美少女の薫子ちゃんでは方向性がまるで違う。比較する方がおかしかった。

 文香さんは文香さんで、中学生相手でも勝たないと気が済まない人なのだ。


「全然ダメね。私の方がよほど美人だわ。今日一番偉そうにしてたくせに、自分はたいしたことないんじゃない。ふんっ」

「あっ! 鼻で笑いやがった」

「まぁ、どのみち? 現時点のあなたはただの大年増。過去のほんのちょっぴりマシだった時代の写真でもって私に対抗しようだなんて、滑稽としか言いようがないわ」

「滑稽!」

「薫子ちゃん、その辺でやめとこうか?」


 この子には学習能力というものがないのだろうか?

 薫子ちゃんが後ずさり、文香さんから少し距離を取る。


「バ~カ、バ~カ! 下品な顔の大年増! バ―――カ!」


 わめくだけわめくと、自分の家へと駆けていった。


「待てやコラ!」


 大人げない全力疾走でもって追いかける文香さん。

 あんな罵倒をしておいて逃げ切れると思ってる薫子ちゃんはまだまだ甘い。


「キャ~ッ、来ないで~っ! きゃふんっ!」


 あーあ、こけちゃった……。そして馬乗りになる文香さん。

 はぁ、本格的なトラウマを薫子ちゃんが背負っちゃう前に止めないと。

 なんか、これから私の負担が大きくなりそうだなぁ……。


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