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ある日の『上葛城商店街』  作者: いなばー
女の戦い(宇都女、みこ)
35/60

3.みこ

 しばらくしてやってくる後悔。

 やってしまった……また、余計な意地を張ってしまった……。

 ていうか、由起彦の奴ももっとちゃんと止めてよねぇ。

 流れるプールを虚しい気持ちで漂う私……。


「薫子って、ホント、タチ悪いですよねぇ……」

「だよねぇ……」


 みことウヅメの負け組コンビが流されていく。

 薫子ちゃんなぁ……。

 さっき思いっきり全裸見ちゃったんだけど。

 スゴかった……。

 え? 胸のサイズはそんなに変わらないと思うんだけど、私とのあの圧倒的な差はなんなの?

 え~、あれが美少女様の実力ってこと?

 そんな薫子ちゃんに抱き付かれ、由起彦はデレデレ……。

 マズい……中学生と思って完全にノーマークだった。

 最近の若い子は侮れねぇ。


「シケた顔してるねぇ、お二人さん」

「あ、咲乃さん、どこ行ってたんですか?」


 咲乃さんがいつの間にか私の横を漂ってる。


「ん? キミらの一部始終を遠くからずっと観察してたの」

「何やってんですか、あなた」

「いや~、マズいねぇ~」

「普通に泳ぎを教えてるだけですよ?」

「でも、水野君とのマンツーマンをご所望だったんでしょ?」

「まぁ、そうですけど。あの子、素直じゃないから借りを作る人間を増やしたくなかったのかも」

「かもね」

「ですよ」

「じゃあ、水野君に作った借りは、どう返すんだろ? ああいうプライドの高い子は、借りっぱなしには絶対にしないよ?」

「う、うーん」


 確かにそうだ。イヤな予感しかしない……。


「デートかなぁ……」

「デート?」

「キスかも」

「キス!」

「あの子奔放そうだもんなぁ、あの脱ぎっぷりからして……」

「いやいやいや、不安を駆り立てるのやめてもらえますか?」


 またヘンな意地悪だ。


「でも、危機感持った方がいいよ? 倦怠期どころの騒ぎじゃないかも」

「む……むぅ……」


 でもなぁ、私も大概素直じゃない女なんだよねぇ……。




 そうしているうちにお昼時。いったん外に出てオープンカフェでお食事だ。

 咲乃さんと薫子ちゃんがパラソルの陰を占拠したので私とウヅメちゃんは日向……へへっ、負け組ですし、日焼けくらいどおってことないっすよ。

 由起彦の隣は当然私なのだが、その反対側にいるのは薫子ちゃんだった。


「由起彦クン、そのポテト、もらっていいかしら?」

「いいぞー、好きに取れー」

「おいしいわね。由起彦クンももっと食べなさい? はい、あーん」


 えっ! 彼女の目の前でフライドポテトをアーンとかしてきた。


「や、やめろって。自分で食べれるってー」

「ふふ……ウブね。かわいいわ」


 どうしてやろう、この女。でも、中学生相手に本気で対抗するのもいかがなものか。

 ていうか、毅然とした態度を取り切れていない由起彦がムカつく。


「薫子ちゃん、練習頑張ってだいぶん疲れたんじゃない?」


 と、咲乃さんが問いかける。


「そうね。疲れたかも。ふぅ~」


 えっ! いきなり由起彦にしなだれかかったぞ? ちゃっかり奴の腕に自分の手を絡ませている。おいおい!


「あのー、薫子ちゃん? 人の彼氏に甘えないでくれる?」

「甘えてなんていないわ。ただ、こうやって疲れを癒やすのもコーチの役目なのよ」

「いや、そんなわけないと思います」

「嫉妬?」


 すごい冷たい目で見てきた。


「い、いや、そういうわけでは……」

「みっともないわ。そんなんだから……」

「そんなんだから?」

「ん? なんでもないわ。とにかく今彼は私のパートナーなの」

「パートナーって言い方は誤解を招くかな~」

「なんで?」


 などと小首を傾げて挑発してくる。

 え? この子、私から由起彦を取ろうとしてるの?

 これほどの美少女が由起彦ごときに関心を寄せるとは思えないんだけど。奴の魅力はただ私だけが知っているのだ。


「もういいだろー。内染も重いし離れろよなー」

「ふふ……どこまでも照れ屋さんね、かわいい」


 げっ! 薫子ちゃんが由起彦の頬にキスしやがった!


「何してんの、あんた!」


 思わず立ち上がってしまう。


「嫉妬?」

「そうじゃないわ……そうじゃないけど、人の彼氏にヘンなことをしないで」

「人の彼氏……ね……」

「なにその含み」

「いいわ、教えたげる」


 ゆっくりと薫子ちゃんが立ち上がった。細い長身が私を圧倒する。


「由起彦クンって、ホントは私が好きなの」

「えっ!」


 いきなりとんでもないことを言い出した。

 自信たっぷりといったふうに、私を見下ろしてくる。


「あなたのわがままに、彼はうんざりしてたの。そこへ現れたとんでもない美人。思わず心を奪われてしまったとしても不思議はないわ……。罪ね、私って」

「いやいやいや」

「私は男子なんてこれっぽっちも興味ないけど、鬼彼女に虐げられている彼の不遇を見かねてこうやって慈悲をかけてるってわけ。私に癒やされて、彼も一年くらいは頑張れるはずよ」

「なに言ってんの、お前?」


 そう言ったのは由起彦。

 下からいかにも呆れたふうに薫子を見ている。


「え? なにって、事実よ?」

「そんなわけないだろー? お前が引っ越し前に男子に振られて心が傷付いてるっていうから、相手してやっただけだろー」

「えっ! なにそれ? ち、違うでしょ? あなた、私のことが好きになったんでしょ? でもヘタレだからアプローチできない。だから私がちょっといい目を見せたげたのよ!」

「なに言ってんの? 会ったの今日初めてだろー」

「え? 密かに遠くから見てたんでしょ?」

「お前、自意識過剰すぎるぞー」

「だって、そいつ中二病だもん」


 ウヅメちゃんが言う。

 なんか……壮大な勘違いが繰り広げられている……。

 イヤーな予感がして咲乃さんの方を見ると、すごい目をキラキラさせてニヤついている。やっぱりこの人か……。


「え? え? サキ、どういうことなの?」

「そこで私に振らないでよ。あーあ、自意識過剰な妄想って、イタいねぇ~」


 ひでぇ……。


「じ、自意識過剰な妄想? そ、そんなんじゃないわ。ていうか、男子に振られたとかそんな話もでっち上げよ? 私は今まで一度も男子に振られたことなんてないもの」

「でも、今まさに振られたよね?」


 にやにや笑いの咲乃さん。


「ええ??? こ、これは別に振られたうちにカウントされないんでは?」

「そうかな? キミって水野君が好きになったんでしょ? でも素直になれないから今みたいな妄想に取り憑かれた。怖いわ~、自意識過剰って怖いわ~」


 やれやれと咲乃さんが大げさに首を振る。


「そういうのを中二病っていうんですよ」

「そ、そんなんじゃないもん! サキ、言ってた話と違うじゃない!」

「ええ~、私、なんか言ったっけ~」


 相変わらずにやにや笑い。


「言ったもんっ! 更衣室で二人っきりの時! あなたが懇願するから仕方なくあの間抜けの相手をすることにしたんじゃないっ!」

「人の彼氏を間抜け呼ばわりしないでくれる?」


 ぎろりと睨んでやる。

 既に混乱しまくって気弱になっている薫子ちゃんは涙を浮かべていたが、私に許す気なんてこれっぽっちもなかった。


「で、でも実際間抜け面……」

「謝って。私の彼氏を悪く言ってごめんなさい。ちゃんと謝って」

「ご、ごめんなさい。言いすぎました。勘弁してください……」


 唇が真っ青になっているが、私の怒りは収まらない。


「ていうか、そんな与太話、真に受けないでよ」

「そうだよ、見たら分かるじゃない。みこちゃんと水野君はラブラブって」

「そうよ、私たちはラブラブなの。由起彦は私の魅力にメロメロなのよ」

「とてもそうは見えないわ……。だってあなた……」

「だって私は?」

「だってあなた、残念なスタイルのくせに、ヘンにセクシーな水着を着てるかわいそうなお子様じゃない……」


 えっ! そうなの? 私ってばそうなの!


「あーあ、それは今日一番の禁句だよ~」


 えっ! 咲乃さん、否定なし?


「おいっ! 言いすぎだぞ、お前!」


 私がショックを受けて呆然としていると、由起彦の奴が立ち上がった。


「ご、ごめなさい……でも事実……」


 涙目の薫子ちゃんは震えながらも、しぶとく私の水着が似合ってない説を撤回しょうとしない。


「似合ってるだろ、みこの水着?」

「とてもそうとは……」

「似合ってる!」

「は、はい……大変よくお似合いです……」


 ついに涙を拭い始めた薫子ちゃん。でも、当然ながら私に同情心なんて沸いてこない。


「もう行こうぜ、みこ」

「う、うん……」


 由起彦に手を引っ張られてその場を離れる。


「ごゆっくり~、お二人さ~ん」


 咲乃さんが艶々の笑顔で見送ってくれた。




 そして午後は私と由起彦、二人っきりで楽しい楽しい時間を過ごす……。

 ちなみに薫子ちゃんが引っ越し前に振られていたどうのこうのは、咲乃さんが由起彦に吹き込んでいたらしい。マメな工作する人だなぁ……。


「で、この水着はやっぱりやり過ぎだった?」

「そんなことないぞー、ちゃんと似合ってるぞー」

「へへ、そうかな、ありがと」


 いつもとは違ってヘタレでない由起彦はとても新鮮。

 咲乃さんの策謀によって、私たちはの仲は十二分に補強された。

 まぁ、落ち着くとこに落ち着いたってとこでしょうか?

 夕方、帰る時になっても薫子ちゃんはまだヘコんでいた。


「すごかったんですよ、咲乃さん。午後はずっと薫子を罵倒し続けてましたから。いや~、実に気分爽快でした」


 ウヅメちゃんも艶々笑顔。


「ていうか、さすがにやりすぎじゃないですか? 咲乃さん」


 私を巻き込むのも勘弁して欲しい。


「いや、私も当初の予定ではほんのちょっぴりからかうだけのつもりだったんだよ? でもねぇ……この私を公衆の面前で罵倒して、ただで済むとか思われてもねぇ……。今後のこともあるんで、キッチリシメめさせていただきました」


 ぺこりと頭を下げる。

 怖いわ~、この人、ホント怖いわ~。


「あの~、大丈夫? 薫子ちゃん」


 さすがに同情する気持ちになって優しく声をかけてあげた。


「いいえ、自意識過剰な中二病には当然の仕打ちでした……」


 うなだれちゃって、すっかり卑屈になっている。


「いや~、これでキミも上下関係って奴を理解したね?」


 馴れ馴れしく薫子ちゃんの肩を抱く咲乃さん。


「ええ……私はただ見た目だけの美人……咲乃お姉様の足元にも及ばないひよっこです……」


 卑屈だなぁ。ていうか、美人っていうラインは譲らないんだ?


「あれ? 美人は一番を目指さないと美人を名乗れないって言ってたよね? 咲乃さんに負けを認めたあんたはもう美人じゃなくね?」


 ウヅメちゃんの指摘。

 薫子ちゃんも極端な思想に取り憑かれたもんだ。


「え? でも私は美人……」

「いや、もう美人じゃないんでしょ? 自分の基準では。あんたはもうただのバカだよ」

「ちょっと待って! 咲乃お姉様ならともかく、なんであなたにまでそんなこと言われないといけないのっ!」

「事実だも~ん」


 薫子ちゃんの周りをぴょこぴょこ跳び回るウヅメちゃん。


「凡人ごときがぁぁぁっ!」


 あ、薫子ちゃんの顔に生気が戻った。


「お? やるか? バカのくせに」

「これでも喰らえっ!」


 と、薫子ちゃんがカバンから取りだしたのはなぜかファ○リーズ。

 それをウヅメちゃんに吹き付ける。


「ちょっ! やめてよ、人をくさい扱いしないでよっ!」

「バカバカバカッ! 友だちがヘコんでたら慰めてくれてもいいじゃないっ!」

「いつ友だちになったんだよ、バ~カ!」

「せっかくこの私が友だちになったげたのに、なにその態度っ!」


 醜い争いはいつまでも続く。


「いや~、彼女たちの友情も深まって、全部が丸く収まったねぇ」


 腕組みをして満足げな咲乃さん。

 とてもそうは見えないんですが……。


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