2.
商店街にある花屋『シャーレー・ポピー』に私はいた。ここは菜ノ花の家で、今私が会いにきた彼女の母親が店長をしている。
「菜ノ花と縁ちゃんねぇ」
お店にあるイスに足を組んで座っているのが菜ノ花の母親たる文香の姐御。その昔は『商店街の虞美人草』の二つ名を持つ商店街一の美人だったそうだ。今でもその名で通りそうな美貌を誇る。菜ノ花の親らしく派手な顔付きなのだが、娘とは違って近寄るのは畏れ多いと男どもを尻込みさせるタイプだ。
この人の特色はその表側よりもむしろ内側にある。とにかく性格がきついのだ。私も大抵きついと言われるが、私なんて余裕で上回る人材であった。頭がやたら働くので、何でもかんでも自分の思い通りにやってのける。
私には商店街の若い衆で構成された親衛隊なんてのがいるのだが、そうやって商店街にいる美人を守るために親衛隊をでっち上げるというシステムを作り上げたのが彼女である。親衛隊は自縄自縛の隊則によって抜け駆けを禁じられているので、私達は連中に絡まれるウザさから解放されるのだ。
そんな文香の姐御を、私は尊敬する先達として崇拝していた。
「そうなんですよ。菜ノ花がガチ百合の魔手にかかりそうなんです」
姐御と向かい合ってイスに座る私が力説する。しかし姐御の反応は鈍い。
「別にいいんじゃないの?」
「はぁ? 何言ってんすか、あなた。実の娘の危機なんですよ?」
「でも、縁ちゃんは素直ないい子じゃない」
「そうかもしれませんが、女同士で恋人なんておかしいでしょ?」
「そういう時代でもないでしょ?」
軽くボールペンを指の上で回しながら呑気なことを言う。
「なんでそんな他人事なんですか? お孫さんの顔とか見れなくなりますよ?」
「孫ねぇ。別にいいや」
ペンを掴むとぐいっと伸びをした。
「はぁ?」
「まずは娘の幸せでしょ? 縁ちゃんなら菜ノ花を幸せにしてくれるよ」
「いやいやいや、女同士で恋人なんて、茨の道しかないですよ」
「そうは言うけどねぇ、縁ちゃんほど菜ノ花を好いてくれる人はいないよ? 何よりも愛される幸せって奴だよ」
「フツーに男の人捕まえて幸せになりましょうよ!」
私が顔を近付けても全然気にしない。すぐに私も顔を引っ込める。
「でもさ、あいつ恋愛に縁遠いからねぇ。今まで男子と付き合ったことないでしょ?」
「まぁ、そうですけど。でも、あの子を好きになった男子は何人もいますよ?」
「それはどうなった?」
「全員、橘君が裏で叩き潰しました」
普段はのんびりしている橘君だが、菜ノ花に近付く男子の気配を感じ取ると、別人のように奮戦して本人が気付く前に叩き潰すのだ。その為には手段を選ばない。橘君は私を蛇蝎の如く嫌っているのだが、その私に土下座して助けを求めることまであった。まぁ、すげなく断るのだが。
「ダメじゃん。縁ちゃんの愛の力に勝てないんじゃ、たかが知れてるよ」
「でもなんで毎回撃退に成功するんだろ? そんなに頭が切れるってタイプでもないのに」
「ああ、私が助言してるんだよ」
しれっと言っちゃった、この人。
「何してんすか、あなた」
「だって、土下座どころかお金積んでまで助けてくれって頼み込んでくるんだもん。まぁ、お金は受け取らないけど、そこまで娘を愛してくれてるんだから助けたくもなるよね?」
「なるよね? じゃなく。みすみす娘の幸せを潰してることになるんですよ?」
「でもなぁ、ちょっとの障壁くらい乗り越えてくれる男子じゃないとなぁ」
「そうか、橘君を突破しても、次の障壁として姐御がいるんですね」
「そういうこと。その点、縁ちゃんは私も気に入ってるし、問題なし!」
と、親指を立ててウインク。
なんか、どっと疲れてきた。
「あの、私これから菜ノ花をガチ百合の手から救い出す作戦を発動しますけど、せめて余計な邪魔だけはしないでくださいね?」
「うーん、どうしたもんだか。なんかやることの見当は付くけど、気に入らない展開なら余裕で潰しちゃうよ?」
「マジで勘弁してください。そうですねぇ、全部片付いたら私、一週間ここのお手伝いしますよ。それで手出ししないってことで」
「むむ、サキちゃんの集客力は魅力だね」
「じゃ、そういうことで。ていうか、なんで私がここまでするんだろ?」
「だね。サキちゃんも変わってきてるんだよ」
文香の姐御が机に肘をついてそう言ってきた。
「昔のサキちゃんはトンがってて、それはそれで好きだったけど、今みたいにいいお姉さんやってるサキちゃんはもっと好きだよ」
尊敬する人にそんなことを言われると顔が赤くなってしまう。
「姐御も店長になってからいい人になったんですよね?」
「ていうか、菜ノ花が生まれてからだね。それまでの私は酷かったからねぇ。寄ってくる男達でバトルさせて見物したり。垰のレースで事故りかけた時でも笑い転げてたからね」
「外道ですね」
「力があれば使いたくなるし、それに酔いたくもなるんだよ。でも、その力を違うように使えばみんな幸せになれるし、自分もいっそう楽しくなるって気付いたんだ」
「そうですよね、人の幸せそうな顔を見るとうれしくなりますよね」
「そういうふうに思えるようになったってのは大きな成長だよ。まぁ私達の場合、それでも生来のタチの悪さはいかんともしがたいんだけどね」
「言えてます」
二人で苦笑いを交わす。
さて、私は大学でアメフト部のマネージャーをしていた。練習の後、部員たる後輩の一人を部室の裏に呼び出す。そして向かい合っての立ち話。
「後藤、あんたって童貞こじらせて酷いことになってるよね?」
「森田先輩の口から童貞なんて言葉……もう一回言ってください!」
などと指を三本立ててくる。
「相変わらずのバカだ。そんなあなたにとってもいいお話があります。かわいい女子とデートさせたげるよ」
「いいんすか、先輩!」
危ねぇ、どさくさ紛れに手を握ろうとすんな。
「私じゃないって。私のかわいいかわいい後輩。この前高校卒業したとこだよ」
「へぇ、画像とかあるっすか?」
「あのねぇ、あんた相手を選り好みとかできる立場だと思ってんの?」
「でも、女子同士のかわいいほど当てにならないものはないっすからね」
「知ったかぶりを。まぁいいや、見せたげるよ」
スマホを操作して菜ノ花の画像を見せてやる。
「へぇ」
「あれ? 反応薄くない?」
画像の菜ノ花はメイド服を着てネコ耳を装着している。さらに右手を顔の横にやって招き猫のポーズをし、媚び媚びの笑顔でウインクだ。ちなみにこの時、「にゃん」とか言っている。文香の姐御が下した罰ゲームで、こんな格好をしたことがあるのだ。
すごくかわいいと思うんだけどなぁ。
念のためにもう一枚見せてみる。
「おおっ! すげぇかわいいじゃないっすか!」
「あれ? こっちの方が釣れるんだ?」
その画像には花屋で働く菜ノ花が映っていた。額の汗を腕で拭ったところで、頬に土なんて付いている。
そうか、生粋の体育会系たる後藤には、『萌え』なんてのよりこういう泥臭い路線の方がいいのだ。だったらいいか、菜ノ花は顔こそ派手だが性格は地味なのだし。
「で、ホントにデートさせてくれるんすか!」
「まずは顔を近付けるな。そうだよ、この子ってすごい奥手だから今まで男子とデートしたことないんだ。高校卒業したのにそんなんじゃ、この先心配じゃない? だからとにかく誰でもいいからデートさせるの」
「誰でもかぁ……」
「文句言える身分じゃないでしょ? ただなぁ、あんたに女子のエスコートとかできるとは思えないんだよねぇ。やっぱり佐々木先輩みたく経験豊富な男子にすべきかな?」
「ダメですって、佐々木先輩じゃその日のうちに喰われちまうっすよ。俺に任せてください! イメトレはバッチシっすから!」
「それってただの妄想だよね。やっぱりあんたじゃあなぁ」
「今さらそんなこと言わないでくださいよ~。わ、分かりました。マネージャーの雑用一週間代わるっす!」
「たった一週間か~」
「二週間! い、いや一ヶ月!」
「仕方ないなぁ、じゃあデートさせたげるよ。私もバックアップしたげるからうまくやりなよ?」
「はい、よろしくお願いしますっ!」
危ねぇ、いきなり頭突きみたいにして頭下げてくるな。
ま、こういうバカの方が今回の作戦にはうってつけなのだ。
そしてその日のうちに菜ノ花の家に行って、彼女の部屋で話をする。
この子の部屋は相変わらず殺風景だ。かろうじて床に転がっているぬいぐるみも、橘君からの誕生日プレゼントだったりする。とにかくカーペットの上に腰を下ろして向かい合った。
「そいつ、アメフト部の一年なんだけどね、今まで女子とデートしたことがないかわいそうな奴なんだよ」
「はぁ」
「あんまりにも女子に飢えすぎて、練習中もずっと女子マネの方見てたり酷いことになってるの」
「はぁ」
「選手としてのセンスはあるんだよ。でもこのままじゃモノにならないし、何とかしないといけないわけ」
「はぁ」
「菜ノ花、そいつとデートしろ」
「はぁ?」
菜ノ花が素っ頓狂な声を上げる。まぁ、当たり前の反応だ。
「いやいやいや、なんで私がそんな奴とデートしないといけないんですか?」
「ちょうどいい組み合わせなんだよ。菜ノ花も男子とデートしたことないでしょ?」
「いや、ありますよ」
「へぇ、誰と」
「義文叔父さん」
「赤木義文さんは君の叔父でしょうに。それはただのお出かけだよ」
「くっ……」
居たたまれないというふうに顔を背ける菜ノ花。嘘をついたりする度胸もないくせに、変な見栄を張るからそうなる。
「菜ノ花的にもいいチャンスなんだから。この機会に男子との初デート済ませちゃいなって。相手が相手だから、失敗してもどうってことなくて気楽だよ?」
「ていうか、何で私なんです? 咲乃先輩が女子マネらしく犠牲になればいいじゃないですか」
「マネージャーは選手の奴隷じゃないし。あんまりイイオンナが相手だと、向こうは気後れしてどうしようもなくなっちゃうんだよ。菜ノ花くらいにウブなのがちょうどいいの」
「うーん、でも二人とも初デートじゃ、痛々しい結果しか待ち受けてませんよ?」
「そこはデートのグレードを下げて対応するよ。デートはこの商店街でするから」
「はぁ? いやいやいや、どんな羞恥プレイですか」
「男子とデートしてるとこを商店街の連中に見せつけたら、橘君と付き合ってるとかいう誤解を解くことができるでしょ? 一石二鳥なんだよ」
みこちゃんが誤解を解くべく動いてくれているが、実際に見せつけるとダメ押しとしてちょうどいいのだ。
「なるほどねぇ。あ! いやいや、デートするなんて決めてませんから、私。そんなのしたら、縁がなんて言うか」
「なんでそこで橘君が出てくるのさ!」
菜ノ花をびしっと指さしてやる。
「え? いや~。縁は、関係ないですかね?」
「関係ないよ。親友相手にデートの許可取るなんておかしいでしょ?」
「ま、まぁ、そうですよね」
「橘君が恋人だっていうのなら、デートを渋るのも分かるんだけど」
「いや、縁は恋人じゃないですから」
「ホントかな~」
ジトーッと見てやる。
「ホントですよ。知ってるでしょ?」
「だったらデートするのに何の問題もないじゃない。渋る理由がない!」
「そっか、そうですよねぇ……。あれ?」
首を傾げる後輩は、もうこっちのペースにはまっている。よしよし。
「人助けにもなるし、菜ノ花にとってもいいことだらけ。いったい何が気に入らないの? おかしいよ、菜ノ花」
「え? 私おかしいんですか?」
「そりゃおかしいよ。私が菜ノ花の立場ならとっくにオッケーしてるよ」
「でもなぁ……」
「どこ? どこに引っかかってるの?」
ずいっと顔を近付ける。
「いや、そう言われるとすぐには思い付かないんですけど……」
菜ノ花が目を逸らしたのを確認した上で顔を引っ込める。
「そっか、理由もなく気に入らないのか……。菜ノ花なら喜んでやってくれると思ったんだけどなぁ……。向こうにはもう話してるし、私の面子は丸つぶれかぁ……」
などとうつむきながら深くため息なんてついてみる。すると気の弱い菜ノ花は、おどおどとこっちの顔を覗き見ようする。
「え? 面子なんですか? 私、いったいどうすれば?」
「どうすればいいんだろうね?」
目だけ菜ノ花に向けてやる。向こうはどこまでも情けない顔。
「デートか……デートですよね? あれ? 私なんでゴネてるんだろ? 何も理由ないですよね? それで先輩の面子は潰れちゃう……。え? デート?」
「もういいよ、他の子に話を持っていくからさ。菜ノ花は何も気にしなくていいよ。はぁ……」
首の後ろを掻きながら、わざとらしくため息。
「いや、そんなこと言わないでくださいよ。デートしますって、デートしますから」
「よし! 女に二言はないぞっ!」
明るい笑顔で後輩の肩を強く叩いてやる。
「なんか、してやられた感がすごいんですけど」
がっくりと下を見る菜ノ花。
「今さら文句言わないの。オッケーしたんだから、責任持ってやってよね」
「はぁ、分かってますよ」
「じゃあ、今週の土曜日にデートだから。橘君には絶対言っちゃダメだよ。ただの親友なのに、あの子は余計な干渉してくるに決まってるんだ」
「やっぱり縁怒るかなぁ」
「黙ってたらいいんだよ。知らないことは存在しないのと一緒なんだから」
「はぁ、あいつに嘘はつきたくないんですけどねぇ」
「黙ってるのと嘘つくのとは違うから。大丈夫、後ろ暗いとこなんて、一つもないから」
「ですかねぇ」
などとしばらくふにゃふにゃ言っていたが、どうにか分からせることに成功した。苦労かけさせるぜ。
では帰ろうかと菜ノ花に送られながら家の中の階段を降りていくと、ダイニングでは文香の姐御が帳簿を付けていた。
「お、作戦はうまくいってるっぽい?」
姐御が声をかけてくる。
「作戦って何ですか?」
「ん? 今回のデート作戦のことだよ」
菜ノ花が聞いてきたので答える。本当は菜ノ花をガチ百合から救い出す作戦なのだが、その中にデートも含まれるので嘘は言っていない。
「詳しく聞かせてよ」
「いいですよ。じゃ、菜ノ花、姐御と話してくからもう部屋に戻っていいよ」
「そうですか?」
と、菜ノ花の方からコール音。菜ノ花がスウェットパンツのポケットからスマホを取り出す。
「あっ、縁からだ。じゃ、先輩また。どした、縁? ……ううん、暇だよ」
私には適当に声をかけ、橘君と通話しながらぱたぱたと階段を上っていった。
はぁ~。
「ね? あれをなんとかしたいんですよ」
姐御がいるテーブルまで行って、向かいに腰かける。
「仲睦まじくていいじゃない」
「明らかに恋人からの電話を受け取った乙女の反応じゃないですか。絶対おかしいですって」
「別に恋人でもいいんだけどね。で、作戦はどんなかんじなの?」
ノートパソコンを脇にやって姐御が身を乗り出してくる。
「部活の後輩にバカな男子がいるんで、そいつとデートさせます」
「バカな男子かー」
身を引いて頭の後ろに両手をやる姐御。
「ええ、そういう考えなしに押しの強い奴を相手にすると、万事流されやすい菜ノ花は相手のペースに飲まれてしまいます。そうやってとにかく男子って存在を菜ノ花の視界に入れてしまうんです」
「でも視界に入った男子がただのバカじゃ、余計に男子が嫌にならない?」
「まぁ、バカですけど愉快な奴なんで、菜ノ花も気に入るはずですよ。ていうか、菜ノ花って人当たりだけはいいですから相手に調子を合わせますよね? そうするうち、ホントに楽しくなっちゃうんです」
そうやって強引な私のペースにいつも巻き込まれるのだ。
「単細胞だもんね」
「そう、あの子も大概バカですから。そうやって男子と過ごすのも楽しいかも、って思わせたらこっちのもんです。もっと新しい世界を知るべきとか何とか言って、橘君から引き剥がします」
そういう舌先三寸は私の得意とするところ。とにかく二人を引き離して密接すぎる関係に終止符を打つのだ。いったん離れてしまえば菜ノ花も自分が異常な状態にあったと気付くだろう。
しかし私の説明を聞いた姐御は、両手を後ろにやったまま身体を横に傾けた。
「なんか、最後のツメが甘そうだね。もっと何回もデートさせないと。それも毎回別の男子。そうやってあっちこっちに意識が向けば、縁ちゃんの方は疎かになって距離ができちゃうはずだよ。そのタイミングで縁ちゃんを説得して、向こうから引かせるの」
「一回のデートじゃムリですか?」
あんまり時間がかかるのは私の好みじゃないんだけど。
「ムリだよ。だって、あの子らって丸六年の付き合いじゃん。そんな簡単に考えちゃうまくいかないよ。敵の戦力を見誤ったらその戦争は負けだから」
「なるほどねぇ。でも橘君は引いてくれますかね? あんなけべったりなのに」
「縁ちゃんってメンタル弱いから揺さぶられたらすぐ気弱になるし、そのタイミングで、好きな相手の幸せのためだから身を引きな、とか言えば引いてくれるよ」
「結構エグいですね」
「それを気にするサキちゃんかね?」
にやりと姐御が口元を歪める。
「いいえ、全然」
私もにやっと笑みを見せる。
「重要なのはタイミングだね。菜ノ花の関心が男子達に移りかけてる一方、縁ちゃんの不安がピークに達したタイミング。ちゃんと見極められる? サキちゃん、空気読んだりできないタイプだよね?」
「うーん、あんま自信ないかもです」
「その辺は成長著しいサキちゃん次第だね。周囲に目が向き始めてるサキちゃんなら、よーく観察してればうまくいくはずだよ」
「ですかね」
そうか、菜ノ花達ばかりに気が行っていたが、この作戦の成功は私の成長具合にかかっているのか。でも大丈夫。今の私なら他人の微妙な心境も捉えられるはず。
「それとね、一つだけ注意があるよ」
「何ですか?」
姐御がイスから立って身を乗り出してくる。
「菜ノ花の貞操に傷がついたら許さないから」
鋭い視線で睨み付けてきた。かなりの迫力。
「い、いや、大丈夫ですよ。そういう流れに持っていけないような、バカな男子ばっか選びますし」
「バカなんだからいきなり襲いかかる危険があるでしょ?」
「う、うーん、ちゃんと見張っときますから大丈夫ですよ」
「いっそ、去勢しちまうか?」
などと残忍な笑みを浮かべたり。ヤバい、この人なら本気でやりかねない。
「そ、それはやり過ぎですから。ていうか、菜ノ花だっていい年なんですし……」
「ダ・メ・だ」
「は~い、わっかりましたぁ~」
喰い殺されかねない危険を感じた。まだ死にたくない。
「とにかくその辺は気を付けるように。ま、初デートが何より肝心だね。そこでミスったらもうゲームオーバーだから」
「ですね、頑張ります!」
「よし、頑張れ」
文香の姐御がにっこり笑みを向けてくれた。やっぱり姐御は頼りになる。