第伍話 犯人当て
まじまじと死体を見ていた星咲が、「??」という顔をしている。
「おかしいなぁ」
ぶつぶつとつぶやいている。
そんな、完全に死後硬直した死体の何がおかしいのだろうか。
そして、ゴソゴソゴソゴソ何かを探しはじめた。
一通り、部屋中を探した後、
「うん。やっぱり密室殺人じゃないよ。部屋の中で自分の鍵を隠すバカはいない」
一息つきながら、星咲が言った。
しかし、こいつに犯人がわかるんだろうか?
「天堂くん。十中八九犯人がわかっちゃった」
早ッ!
嘘だッ!!
「それでね、天堂君にちょっとばかり聞きたいことがあるんだけど、初めてあの面々に会ったときの印象を聞かせてもらえるかな?」
僕は、それぞれ思った印象を伝えた。
しかし、これが何か・・・??
「なるほどね。私と一緒だね。犯人はやっぱり十中八九間違いないよ」
「犯人は名探偵さんと画家さんだよ」
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「私様と玖子が犯人?お嬢ちゃん、笑えない冗談に付き合ってる気分じゃないんだけど」
談話室にもどって星咲が犯人を指名するやいなや、桜さんたちが猛反発した。
あたりまえだ。
誰だって殺人犯人扱いされたら気分悪い。
「冗談じゃないですよ名探偵さん。犯人は貴女と画家さんです」
「おいおいお嬢ちゃん、なんでこいつらが着心を殺さなきゃなんねぇんだ?」
「その辺の事情はその二人に聞くのが一番じゃないかなと星咲さしほは思うんだけど」
「そうじゃねぇ。こいつらが犯人なんてどうやって決めたんだ!」
うんうん。
思わず僕もうなずいてしまった。
「タネを明かせばマジックなんて単純なものばかりだよ。っていうか、その二人以外には物理的に無理だ。もっとも、天堂くんが噛んでるってセンもある事はあるけど、あの二日酔いの状況を見て無理だと判断した。よって、その二人が犯人」
「いや、だからさ、桜さんと玖子さんは犯人になれなくないか?僕は生きている着心さんを見てるんだよ?」
「そこだよね。この二人にしか無理だと言ったのは。もしその喧嘩してたのが、科学者さんじゃなくて、そこの画家さんだとしたら?」
ハッと、僕は玖子さんを見た。
僕は、あの時正面から着心さんを見たわけじゃない。
桜さんが着心さんの名前を叫んでいたから、あれが着心さんだと判断したに過ぎない。
大体、僕は初めに感想も持ったじゃないか。
『この人の髪の長さは玖子さんくらいか』と。
「天堂くんが見たのは、名探偵さんと画家さんの三文芝居。その時はもう科学者さんは部屋でぶらさがってたハズだよ。あの死体、完全に死後硬直してた。朝殺されたのなら、今の時点で全身が死後硬直してるなんてあり得ない。大体2時間経過くらいから徐々に始まって、半日くらいで全身に及ぶんだ。その時点で、全員のアリバイが崩れる。でも、その二人は三文芝居をしてしまったせいで、自分が犯人だと告白してしまったのさ」
桜さんと玖子さんは何も言わない。
「知識が無いのに余計なことをしてしまったね。天堂くんに喧嘩してる所を目撃させて、すれ違ったと証言して、アリバイを作ろうとしたんだろうけど、それがアダになってしまったんだ」
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僕たちは帰りの船の中にいる。
結局あの二人は、あのお城みたいな建物に住むらしい。
警察を呼ばなかったり、あの二人を保護してみたり、金持ちって不思議な人種だな。
「でもさしほちゃん」
「なんですかお姉様☆」
「よく犯人がわかったね」
「そんなぁ ハッタリ ですよ」
「はぁ?」
僕と姉貴は一斉に星咲を見た。
当の星咲はのんきに海なんて見てる。
たしかに、星咲が提示した証拠は、どれも決定的じゃなかった。
もしもあの二人が、僕が喧嘩を目撃したと言った証言が嘘だと言い出したら。
それだけで全てが変わってしまう。
残りの滞在期間、僕たちは普通に過ごした。
それこそ、殺人事件なんて無かったくらいの勢いで。
そして、普通に連絡線に乗り込んだ。
殺人犯人と、お嬢様を残して。
こうして、『名探偵』が犯人だという、とんでもない物語は終わる。




