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第肆話 クビツリシタイ

「・・・なにこれ?」


栖道着心は部屋の真ん中にぶらさがっていた。

舌をだらしなく出して。

とても綺麗とはいえない状態で。

部屋の真ん中にぶらさがっていた。


第一発見者は深夜さんだった。

いつになっても朝食にこない着心さんの様子を、深夜さんが見に行ったのだ。

ノックをしても返事が無い。

ドアに鍵がかかってる。

でも、中に人の気配がしない。

心配になった深夜さんは香楠さんに鍵のスペアを借りに来た。


そして・・・見つけてしまった。


「さしほさん。これは自殺・・・なのですか?」

香楠さんは、ぼ〜っとぶらさがっている死体を見ながら星咲に聞いた。

「香楠。君は本当に本気で本音から今の台詞を口にしたの?これが自殺なわけがないじゃないか」

星咲は、自慢の片眼鏡モノクルを直しながら言った。

みんなが一斉に星咲を見る。

「自殺のわけが無いんだよ。だって、死体の近くに台がない。この高さに首をつるのに台がないなんてありえない。それとも、栖道着心はジャンプして天井からさがるロープに首をかけて自殺したと?ありえない。とりあえず、死体を下ろそう」

「いいのかよ星咲。警察とか呼ぶ前に死体おろしたりすると、後でめんどくさいんじゃないのか?」

「それは、香楠の次の台詞を聞いたらわかるよ」

えっ?と香楠さんを見た。

「・・・警察なんて呼びませんよ?私は、誰かに何かをしてもらうなんて、耐えられません」

「ね?」

ね?じゃねぇよ!

「ちょ・・・そんなわけにはいかないでしょう!?」

「天堂くん。そうゆうわけだから、死体おろしてくれないかな?」

「だから!そんなわけにいかねぇだろ!!」

「天堂くん。てんどうくんてんどうくんてんどうくん。君は聡明な頭脳を持っているのを私は知っている。今、たった今、香楠が言った言葉の意味が理解できなかったとは思えないのだけど」

「秋羅さん。もう一度言います。警察は呼びません。誰かに何かしてもらうなんて、私は耐えられません」

僕は唖然とした。

みんな唖然としてる中、姉貴だけはニヤニヤ笑っていた。

「秋羅。もうあきらめれば?面白いじゃん。私、こんなの小説で読んだことある」

僕はため息をついて、深夜さんと死体をおろす事にした。

が、踏み台がないと到底無理。

何かないかとパッと目に付いたのが、例の『宝箱』だった。

それを動かそうとしたのを、星咲が制止した。

「ちょっとまった。ふんふん・・・もういいよ天堂くん」

星咲はなにやら床を見ていたが、一人で納得してしまった。

改めて宝箱を移動して、それにのぼり天井のシャンデリアからロープをはずして、ゆっくり死体をおろした。

その死体を注意深く見ていた星咲が、急に口を開いた。

「これで、コレが自殺じゃないとハッキリしたね」

「なにがだよ?」

星咲は香楠さんの方を見て、

「まず、今天堂くんが動かした箱、香楠最近動かした?」

「いいえ」

「じゃあ、話は早いよ。まず、天堂くんがその箱を動かす前から、床にひきずった跡があった。自殺する人間が、しかも首をつった後に踏み台にしたものを元の位置に戻すことは不可能。それに、この死体の首の跡」

といって死体の首を指差した。

「ここには二つの跡があるでしょ?片方はぶらさがっていて出来た跡。もう一つは、首を絞められたときに出来る跡だよ」

たしかに、死体には斜めについた跡と真横についている跡があった。

「・・・お嬢ちゃんはこうゆうの詳しいの?」

「天堂くん。てんどうくんてんどうくんてんどうくん。私がなんて呼ばれてるか、名探偵さんに教えてあげてもらえるかな?」

星咲は妙に自信たっぷりに言う。

「コイツは、『ルパンさん』なんて呼ばれてるんですよ」

「ルパン・・・ね。私様のライバルというわけだ?」

「貴女が『名探偵』ならの話ですけどね」

火花が散ってる・・・。

これだから女は怖い。

「とりあえず、お茶でも飲みながら話をしようか。香楠、お茶入れてくれる?」

「わかりました」

「じゃん、みんなで談話室にでも移ろう」



談話室で各々椅子に座っているものの、重い空気が流れている。

あたりまえだ。

人が死んだんだ。

しかも、それは殺人だという。

まったく。

小説か漫画の読みすぎだ。

明智小五郎や金田一耕助や由利麟太郎、シャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロやミス・マープル、小学生にされちゃった高校生探偵や自称金田一耕助の孫って名乗る高校生探偵なんて、この世に存在しないのだ。

大体、金田一耕助は結婚すらしてない。

「さて、それじゃ考えてみよう」

星咲が口を開いた。

「犯人なんて捜しても一文の得にもならないけれど、不確定要素は気分が悪いからね」

「今、お嬢ちゃんは犯人て言葉を使った。着心が自殺したんじゃないとしても、外部犯って可能性はないのか?」

「科学者さん。これは科学的に考えればわかりそうですね。ここに来る手段は連絡船のみです。犯人がサイヤ人だというのなら話は別ですが、ここまで泳いでこれる人間はまずいないでしょう」

深夜さんは腕を組みながら低くうなった。

「さて、被害者が殺された時間。これは昨日の夜から今朝までにかけて・・・で間違いないかな?」

「いや、それは違うよ星咲。僕は今朝、桜さんと着心さんが喧嘩してるの見てる」

僕は、桜さんの部屋での出来事、そして着心さんが出て行って数分後に玖子さんが部屋に入って来たことを星咲に伝えた。

「ふぅん?じゃ、今朝まで彼は生きていたんだね?間違いないね?」

「間違いない・・・と思う」

僕は桜さんに助けを求める。

「間違いないよ。私様は着心のヤツとモメた」

「私も、廊下でカリカリしてる着心とすれ違ったしね」

星咲は腕を組んで、その話を聞いている。

「たとえば、そちらの画家さんが名探偵さんの部屋に行く前に殺した・・・というのはあり得ない?」

「それはあり得ないよ。着心さんが出て行って、ほんの数分だったんだ。その間に殺して吊るして・・・っていうのはあり得ないと思う」

「・・・って事は、やっぱり外部犯って話になるんじゃねぇのか?」

「・・・あるいは、天堂くんたちがグルでやったか」

星咲はとんでもない事を言い出した。

「ちょ、ちょっとま・・・」

僕が言いかけた事を、星咲が制した。

「可能性の一つを言っただけだよ天堂くん。大丈夫。星咲さしほは天堂くんが犯人だなんて思ってない。大体、二日酔いで死にそうだったのを見てるしね。アレが演技だったら世界中の男優賞を独占できるよ」

星咲はわざとらしく腕を組んで、う〜んと唸った。

「大体、これは密室殺人てやつじゃないのお嬢ちゃん。部屋に鍵がかかってたみたいだけど」

「さすが名探偵さん。いい所に目をつける。だけど某ヒーローの台詞を借りるなら、貴女は日本じゃ二番目だ。あれはそんなもったいぶった話じゃない。犯人が殺した後に鍵をかけた。ただそれだけだと星咲さしほは思うんだけど」

「な!?」

「ここの鍵は両方に鍵穴があるタイプ。内側からかけるにしても鍵がいるタイプ。普通、そうゆうタイプのドアだと鍵は内側の鍵穴に挿しっぱなしにしておかないかな?そうしなくても必ず目の付く所に置いておく。もし万が一置いてある場所を忘れたら部屋から出れなくなってしまうからね。そうするのが人情だと思うのだけど」

「・・・たしかに」

桜さんは唇を噛みながら答えた。

「それじゃ、現場検証といきますか。天堂くん、大分二日酔いから復活したみたいだから、手伝ってもらってもいいかな?」

「あ・・・あぁ」

僕と星咲は、みんなを談話室に残して、着心さんの部屋に向かった。



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