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王族直属の騎士

作者: クレイン

 つくづく思うが私はこの姫とは相性が悪い。

 私は騎士だ。主に仕えるために剣を振るい、忠誠を誓う。だが言い換えればただの契約であり、期限が過ぎればそれはただの過去、戦争を行うために短期間契約で雇われる兵士となんら変わりはない。だが契約を見誤るとそれこそ命に関わる。私の家は代々騎士であり、私もその習わしによって騎士になりつつあった。

 騎士見習いになって数年、平和だった王国が変貌するのはまだ私が主君に仕えていなかったときだった。その国は広く、豊かな国土は人に住みよい環境を与え、国は瞬く間に発展していった。若き国王は外交手腕で莫大な資金を手にすると国の発展に力を注ぎ、国民からの信頼が厚く、国は益々発展していた。

 そんな時だった。若き国王は謎の死によって国は大きく揺らいだ。その頃の王族は妻とまだまだ若い姫君たった二人だけだった。よって王の家臣たちが国を継ぐ予定だったのだがそれに国王の妻が反対、その数日後にその妻も病死によってこの世を去る。残るのは小さな姫君、だが王城にはすでに姫君の姿は無く、妻が暗殺されるのを懸念してどこかに隠したとのことだった。後にして家臣たちは国を乗っ取ることに成功した。


 だがその新しき王国は数年も経たないうちに崩れ去った。


「ここにいたのか」

 そう声が聞こえ、私は声の方向に視線を移す。

 白いドレスを着た小さな少女の表情は少し不貞腐れており、トテトテと近寄り、私の側によると飲みかけの葡萄酒を飲み込んだ。

「それ私のですけど」私はそう言うと

「知っている、だから飲んだのだ」そう答える。

 この少女は紛れも無いこの国の王であり、また、唯一の王族でもあり、そしてこの国を奪い返した張本人である。

「姫様、調停の時間ではないのですか?」

「あんな印を押すだけの仕事などやっていたら体が腐る」

 それも少し問題はありそうだが。

 

 この図々しい姫との出会いは少し時間を遡る必要がある。



――なかなかの腕前だな、よし、今日からお前は私の騎士となれ。


 最初、言われた時は意味が分からなかった。目の前に薄汚れた一人の少女は自信に満ちたアイスブルーの瞳を私に向け、言った。

――私は君と契約を結ぼう。

 時期としては若き国王とその妻が死に、姫君が『国を捨てた王族』という罪名で追われる身となっていた時だった。

 その頃の私には仕える主君は居らず、放浪の身であった。金が尽きたら得意の剣術で芸を見せ、食い繋いでいた。芸を終え、捨てられたような金を拾っている最中だった。気がついたら一人の少女は私の目の前に立っていた。孤児のような汚れた衣服のまま、少女その言葉を口にした。私は当然のように断った。

 子供のために大切な人生を使いたくはなかったからだ。すると少女は不敵な笑みを零し、私に視線を合わせた。

「勝負をしよう、勝ったら契約成立でいいか?」そう言った。

 私は笑った。バカにするように、こんな子供に負ける訳がないと。

 だが結果は私の予想を打ち破った。私は負けたのだ。この少女が持つ。


 王族の紋章が乗ったフルーレに。


 姫は亡き国王に仕えていた騎士たちを集め、反乱軍を結成すると早急に王城を襲わせた。だが守りの堅い王城はそう簡単に崩れることはなく、正面突破は不可能だった。

 いや不可能だと知っていたからこそ襲わせたのだ。

 誇らしげに立つ家臣のすぐ後ろに私が立っていることなんか知らずに反乱軍を見て、嘲笑っている光景は今でも鮮明に覚えている。首を刎ねる瞬間は特に。

 姫は反乱軍を囮にして私を王城の中に忍ばせたのだ。いや忍ばせたというよりも家臣たちに契約を結ばせ、家臣の護衛としてすぐ側にいるように指示されただけだ。他の護衛を無力化させるのが苦労したが、私は無事、生還することが出来た。



 そして現在に至る。

 過去の生き延びた家臣は国外追放、または首を刎ねられ、小さな姫君はたった一人で王国を建国させた。

 姫は昔から様々な勉強をしていたためか、それともこれまでの人生経験が生んだのか、人を見る選別眼が優れており、もう家臣が裏切るなんてことはないだろう。だがそれでも姫はだれにも信頼していなかった。常に疑い深く、確証を得ようとする。

 本当の所、私のことも信頼していないのかもしれない。その真意を知ることはできないが姫はなにかあるとすぐに私の部屋に押しかけ、何かを奪って行く、食べ物であればそれを食べ、珍しい物であればそれを持ってどこかに行ってしまう。現に目の前で葡萄酒を飲まれてしまった。強い精神力を持っているにも関わらず、時には子供のように甘えてくる。だからこそ姫の忠誠心は高くなるのは必然だった。「姫を守る」それが私の使命だと思っていた。


 私は王族直属の騎士だ。よって王城に暮らしている。王城は広く、整った環境は騎士の教育には最適な場所とも言える。だが、ここに私以外の騎士はいない。教わるべき師もいなければ、教える見習いもいない、だからといって、騎士の生活を乱す訳にはいかない。私は唯一の王族に仕える騎士なのだ。それなりに威厳や誇りがある。一日を大切に過ごし、規則正しい生活を送り、主を守る。だから私はいつものように朝早く起き、愛馬の手入れをし、剣を研ぎ直し、身体を洗う。全てが終わると剣術の鍛錬に勤しむ。丸太を相手に、斬り付ける。相手には動きがないため、これではなんの意味はないと知っていても続ける。

 「まだ、そんなことを続けているのか?飽きないな」

 不意に声が聞こえる。視線を向けるとそこには姫がいた。レザーの丈夫な服に着替え、手には1振りのフルーレと呼ばれるが握られていた。

 言葉よりも行動、それが姫の精神なのだ。

 気がつけばフルーレの刃は私の顔の横を通った。

「死んだな」姫は不敵な笑みを浮かべながら言った。

 不意を突かれた。私は剣を握り締め、横に大振りに振り払う。姫は軽い身のこなしでその刃を避けた。

 私の持つ剣は両刃で比較的大きな剣だ。これといって綺麗な飾りなど無く、質素な感じの剣であるがただ大きな剣であるためそれだけ重量もあり、軽い剣などであれば簡単に叩き落すことができる。フルーレといった細身の剣であればなおさらのことである。

 つまり姫との決闘のような遊戯において私は必然的に有利な状況なのだが問題は他の場所にある。

 私と姫は相性が悪い。

 姫はどんな不利な状況に立っていてもその最善の策を立て、結果として勝利してしまう。“常識に囚われない”それが姫なのだ。

 私はこれまで幾度となく姫を殺した。その際、私はなんども死んだ。殺したときは何も学べない。殺されたとき、私は始めてその愚かさに気付き学ぶ。姫との戦闘で学ぶことは多い、“可能性を捨てるな”それが最初に学んだ1つ目のことだった。

 姫はあらゆる可能性を発見し、その可能性が高くなった瞬間その威力を発揮される。だから私は考える。姫があらゆる可能性の内、私にとって生き残る最善の策を考える。可能性がゼロであることはない。どんな小さな可能性でもそれにあった状況を提供すれば最大の武器となる。

 結局、私は3回殺され、2回、姫を殺した。勿論、お互い怪我はない。



「民を治めるこの重要さ、お前には分かるか?」

 姫が私の部屋に入って寛いでいる最中、そう問いをぶつけた。

「民の支持を受けることにより、信頼を得、国としても能力を高めるためにも、民を治めることは大切なことだと思います」

 私はそう答えた。その答えを聞いた姫は少し笑い言った。

「違うな、民を治める王として、民は恐怖の対象なのだよ」

 そう言った。そして遠い眼で外の風景を眺めると

「いくら王と言っても普通の人間でしかない、たとえ、お前のような強い身体、だれにも勝らない剣術を持っても、民と言う名の群集には敵わないのだ」

 最初はその意味も分からなかったが少し考えた末、一言呟いた。

「個では集団に勝てない」

 姫はその答えを聞くと少し誇らしげに

「そう、1人が5人に勝てても、1人が100人に勝つことはできないのだよ」

 と小さな胸を張っていった。確かに一騎当千という言葉はあるが1人でやれることには限りがある。もし、1人で千人を殺せるならそれはもはや化け物だ。

 さて、そろそろ調停の時間だ。姫を連れ出す準備をしなければ。

 そう思いつつ、私は戸棚に隠してあったクッキーを取り出した。



 階級制度という仕組みがこの国には存在する。これは姫が取り決めたことではなく、昔からある法律だった。姫は過去に農奴のような暮らしをしたためかその者達の気持ちや辛さが痛いほど分かるらしい。言いたいことを言えない、上の者に逆らえない、学びたいことを学べない、そのような人々を見て、姫は酷く悲しんでしまう。

 その為か、姫は自然と民を思いやる王となった。民にとってはこの上ない存在だろう。実際にどのような人であっても学問が学べるような制度を設けている。だが大臣などはその意見に反対であるのも現状である。

 姫が過去に階級制度を撤廃しようとした際、大臣らが何時間に及ぶ説得によりなんとか撤廃されずに済んだが姫曰く「なぜ、民の気持ちを受け入れようとしないのだ?」ということらしい。


――姫には申し訳ないが、この意見に関しては私も反対の一人である。


 人は同じであることはない、10人の内、「美味しい果物は?」と問いかけた時、10人が「林檎」と答えるのは絶対におかしいことである。つまり、大勢の国民の中、「姫を憎んでいない」という者が1人も居ないことはおかしいのだ。

 もしその人数が数百人以上の場合、私は姫を守れるだろうか?いや不可能だ。絶対に、だから絶対的な存在が必要なのだ。おそらくこのことは姫も百も承知だろう。




 「ふぁ~、全く、なんで私まで」

 姫は少しため息交じりでそう言った。簡易テントの中、大きなテーブルの上に一枚の地図、赤で彩られた敵軍のライン、青く彩られた防衛ライン、さまざまな人が視線を地図に向け、頭を悩ませていた。

 簡単に説明しよう。現在、戦争中である。どうやら敵にとっては我が王国の芝生は青いらしい。降伏の条件は「全ての国土の明け渡し」と「姫の首」である。負ける訳にはいかない。再び放浪するのは懲り懲りだ。

 が問題は敵軍の多さである。この日のためだけに多く兵力を動員させていた。

 いつもなら王城でいるべきはずの姫がなぜこの場にいるのかというと、それだけ重要な大戦であるということである。一番の要因は敵軍に王が居座っていることだ。つまりこの戦いで王の首を討ち取ればこの戦争は終わる。

 このような時こそ、姫の能力が発揮されるであろう。

 だが姫は一向にして考える姿勢を見せず、片肘付いて退屈そうに葡萄酒を飲んでいた。

 他人から見れば「なんて怠けた姫君だ」と思うかもしれないが、こう見えてちゃんと考えている。……多分。

 そんな時だった。姫は私を手で呼ぶと、鎧を掴み、強引に顔を近づけた。周りはそのことに気付いていないらしく、視線は地図に向かったままだった。

 姫は近づいた私の顔を横に向け、更に近づけた。そっと、透き通る小さな声は私に命令を与えた。

 これでこの声を聞くのは2回目である。1回目は姫が農奴に紛れて暮らしていた時、追手に追い込まれ、仕方なく小さな小屋に隠れていた時だった。外には無数の足音が暗闇の中を響かせていた。そんな時、姫は言ったのだ。


 あの時と何も変わらない。少し乱れた呼吸、熱い吐息、震えた口調、すぐに崩れてしまいそうな表情なのに。


 綺麗なアイスブルーの瞳に溜まる涙を堪え、無理矢理作った歪んだ表情で、冷静でないのに冷静な格好をして言うのだ。

――助けて。

 ならば戦おう。あなたのために剣を振るおう。あなたのために忠誠を誓おう。あなたのためにありとあらゆる障壁を打ち砕こう。

 そう、誓う。愛しき姫君よ。


――全軍進め!我が姫のために!

 振り下ろす、質素な両刃の剣が鮮血に染まり、滴る。地を駆ける。長い槍が向けられるよりも早く前線を駆け抜け、弓を引く暇も与えず、ただ前へ、前へ、前へ!

 剣を振るう。鮮血の噴水が巻き上がり、敵の頭が宙に飛ぶ。血を浴び、土煙の空気を吸って息ができない。それでも前へ、前へ、前へ!

 揺れる馬上で、視界に入るのはただ一人、国を明け渡せ?ふざけるな、姫の首をよこせ?ふざけるな!これ以上、姫に悲しい思いをさせるなら……

――喜んで、相手になろう。百人でも何千人でも連れてくるがいい。



 読んで頂き心から感謝申し上げます。

 始めましてクルナウと申します。

 基本的にはファンタジーやSFを作っています。好きな作家は田中芳樹です。常に読みにくいとか言われつつも自分の書き方をこれから見つけて生きたいと思っています。

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