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プロローグ

 とある商店街の裏道。人気もないようなこんな場所でオレは一人の男と対峙していた。何をしているのかって?そりゃあこんな場所で起きることといったらこれしかない。


「俺ト戦ウノハ飽キタカイ?BOY?」


ほぉら、向こうから言ってきた。こうやって戦いの最中にいつも挑発してきやがる。


「かかってこい!」


オレだってそれを返す余裕はあるんだぜ。まぁこんなことをしても向こうから攻めてくることはまずないだろうけど。

 奴は微動だにせずこちらを見つめている。しかも地面に膝を付いる状態だ。隙だらけに見えるが、実はその逆。奴のその洗練された戦闘スタイル隙など存在しないのである。


(まったく困っちまうな)


こちらが攻めあぐねているのを見かねてか、向こうからしかけてくる。


 「ウィンドカッター!」


技の名前(?)を発すると同時に奴は両腕で空気を切り裂くような動作を繰り出す。するとこちらに真空の刃が高速で向かってきた。


(まずい!反応が追いつかないっ!)


 あまりにも高速で対応ができないスピード。避けることは適わず、オレは咄嗟に両腕を交差しブロックする体制に移った。すると意外にもその真空のた刃はオレの腕に直撃するないなや鈍い音と共に消えてしまった。オレには大きなダメージはなく、少し腕がジンジンする程度だ。


 (もうこちらの体力が少ない。…となるとあの攻撃を避けてそこから一撃をおみまいするしかないようだな)


 奴の攻撃を凌げるのはおそらくは良くてあと1度。起死回生の一撃。これを狙うしか今の状況を打破することはできない。


(この距離からだと今奴が放った攻撃をかわしてから懐に潜り込む。これが得策だ)


頭の中でシミュレートする。奴の動作、技が発生するタイミング、自分が繰り出す一撃。

全てをイメージし準備は整った。


 「かかってこい!」


軽く挑発してやる。もちろん攻撃を誘うというのも一つの理由だが、何よりオレ自身の気持ちを盛り上げるためだ。ピンチの中での挑発、これほど燃える状況はないだろう?

挑発を受けてか向こうも先ほどと同様の姿勢になった。そう、あのしゃがみである。奴からの鋭い視線は曇りなくこちらを見つめている。


(そろそろ…くるっ!)


そう思った瞬間、奴が叫ぶ。


「ウィンドウカッター!」


『それを…待っていたぁぁぁっ!!』


高ぶる気持ちを抑えられずオレも思わず叫んだ。それと同時に奴の元をへ飛び込むようにジャンプする。するとオレの真下を風が通り抜けていった。そのまま慣性に身を任せ着地するとそこはすでに奴の懐。絶好のチャンス。


『いっけぇぇぇっっ!!』


イメージ通りに事が進みテンションはすでにクライマックス状態。ここで最大の一撃を叩きこ…


―ペチッ―


あれ?なんで軽いチョップなんてしてるんだ?ちゃんとコマンドは入力したはず…


「―フンッ!」


オレが呆然としている中、奴はオレにバックドロップを決めていた。


「KO!」


気が付くとその二文字が画面上に浮かんでいた…。


「おかしい…確かにコマンドは入力したはずなのに…」


そう、確かにコマンドの入力は成功したはずだ。それなのにも関わらず必殺技が発動しなかった。これは…


「あ~あ、残念だったわね。あそこで必殺技が決まれば逆転できたかもしれないのにねぇ~」


と、オレの隣にいるこいつは肩までかかっている髪を撫でながら言ってきた。随分とニヤニヤとしながら存分に嫌味をスパイスした言い回しをしてくるじゃないか。良かったな、お前が男だったら直々にシャイニングウィザードをおみまいしているところだぞ。


「まさかとは思うけどあんた簡易コマンドを使ったわけじゃないでしょうね?あれこの作品だと使えないわよ」


「なっ!?」


なんだと!?と言いたかったはずなんだが、本当に驚いた時ってのは声が出ないものなのさ。


「でもゲームを始める前にお前言ったじゃないか、操作はほぼ変わらないって」


そう、確かにそう聞いたはずだ。現にさっきお前のプレイを少し見たが最新作と換わらない操作だったぞ。


「『ほぼ』変わらないって言ったのよ。完全に同じとは一っ言も言ってないわ。まぁもっとも私の使ってたキャラがタメキャラだったから勘違いしちゃってたのかもしれないけどねぇ」


なるほど、確かにタメキャラは簡易コマンドも何も関係ないな。オレのキャラはしっかりと1回転コマンドを入力しなければならなかったわけか。しかし何だ、その勝ち誇ったにやけ顔は。


「わかったよ、これはオレのミスだった。

完敗だよ」


 ここは素直に認めておくとしよう。男として潔くな。そんなオレの態度を見てかこいつは満面の笑みこちらを見つめてきた。


「わかればいいのよ。これであたしの記念すべき五一勝目が達成されたわけね。というわけで…あんた約束を忘れてないわよね?」


ああ覚えてるよ。お前と交わしたこの今となっては忌々しい約束を忘れるわけがないだろう。


「もちろんだ。この勝負から負けた方が勝った方の望みを叶えるだろ?」


なんでこんな約束をしたのか、タイムマシンがあるなら先週の自分をぶん殴ってでも止めてやりたいところだ。

「ちゃんと覚えてたのね。それならいいのよ」


心なしかその時のこいつの顔は少し嬉しげに見えた。


「で、望みはなんだ?金なら無いぞ、この前誰かさんと一緒にゲーセンで使い切っちまったからな」


素直に格ゲーや音ゲーで遊べばいいものをギャンブル関連がまるでダメなお前がメダルゲームを始めたのはフラグにしか見えなかったぞ。


「しょ、しょうがないじゃない!あのステーション確変中で止まってたのよ!?当たるまでやるしかないじゃない!」


そこからずっと当たりも来ないまま確変が終わっても熱くなって「そろそろ当たるはずよ!」と言ってるのを見てお前はギャンブルをしちゃいけない人間だと悟ったよ。


「わかったわかった。それで願い事はなんでございましょうか、姫」


オレは敗者だ、潔くこの運命を受け入れてやるよ。さぁ願いを言うんだ。


「そ、それは…その…」


ん?なんでそんな照れくさそうな顔をしてるんだ。そんなに恥ずかしいのはちょっと御免被るぞ。


「願い事は…来週の月曜は一緒に登校することっ!いいわね!」


来週の月曜日、それはオレとこいつが通うことになっている高校の入学式の日だ。


「…はいはい、かしこまりましたよ、海奈<<かいな>>様」


この時、少しホッとしたような気がした。

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