屋根の上の3階
ぜんっぜん状況が掴めねぇ。
ランシアは行き着けの食堂の『茶メーモ亭』(地球のカモメの茶色いような鳥。ここら辺ではポピュラーな海鳥。白と黒の亜種。)のテーブルで突っ伏しながら溜息をついた。
(屋根に激突して―転がって―落ちてきたんだよなぁ。)
(空飛んでて事故ったのかねぇ。しかし、寝着のまま飛ばないよなぁ・・・。夜中なら逃走中ってのも分かるが、真昼間だし・・・。)
テーブルでごろごろしてると2階からコンコンと誰かが降りてくる音がする。
「ランス、あんたあの子どうしたんだい。まさか攫ってきたんじゃないだろうね?」
「んなことするか!」
「なんだ、面白くないねぇ」
「・・・。」
「とりあえず、服は私のお古着せといたよ。しっかしまぁ別嬪さんね、あの子。それより、事情を聞かせない。事情を。」
「俺にもさっぱりだ。それより、お古着れるのか?サイズ合わないんじゃねーの?」
「あぁん?このサラ様を侮辱してんのか?えぇ?」
「い、いや、サラ姉さんはスレンダーでした!」
「なんで過去形なのよ!」
机をバシバシ叩きながら睨みつけるサラを見て泣かない子供は居ないだろう、と内心思うランシアである。
「それより、ただお姫様抱っこしてるだけじゃなくて体系のチェックまでしてるとはねぇ、このムッツリ助兵衛野郎め!」
「な!誤解だ!」
「ふーん?へー?口止め料は『海風堂』のショートケーキで簡便してやろう。ん?」
腕組んで見下し視線しやがって・・・。椅子に立つな椅子に。
「なんで口止「ランシア第5騎士団団員は、怪我をしている婦女に性的暴行を・・・」
「て!てめぇ!」
「で、どうする?」
「・・・。是非ともケーキをお食べください。」
「それでいいのよ♪」
はぁ・・・なんでこんな事に・・・。
しかしまぁ、今改めて見てみると綺麗なもんで。
睫は長いし背中半ば位の髪は真っ直ぐで黒くて艶もある。
顔立ちは若干幼いが、見れば見るほど整ってるが・・・。
目の前の黒パンを凝視し、恐る恐る手にとって持ち上げてみたり傾けてみたり。
―パン見た事ねぇのかねぇ。主食のパンを見たことないって何処の奴だ・・・。
少しちぎって口に入れた後はなにやら納得したようでもぐもぐと食べている。
・・・。パンの食べ方知ってて黒パン見たこと無いって・・・。白パン食ってる上流貴族かよ。
ランシアはこの少女の素性が少し見えてきて嬉しく思うと同時に厄介なことになるな、とうな垂れる。
「で、ランス。この子なんだけど。」
「なんだよ。」
「どっからどう見ても貴族のお嬢様よね。」
「・・・。そーですねー。」
「どっから攫ってきたのよ。」
「攫ってねーよ!」
ガタガタと椅子を蹴倒しながら立ち上がったお陰で少女は飲み込む途中のシチューでむせだした。
「なにやってんの、あんた。」
「・・・。すまん。」
「・・・。どうしょうもないなぁ。これは。」
「言葉通じないってのは想定外だったわ。」
両者お手上げポーズで溜息をつく始末。
よく見ると少女も同じポーズをしてる。
「・・・。かわいいわぁ・・・貰っていい?」
「ダメに決まってるだろ・・・。」
「あぁ、そういえば、彼女の服に1枚上等な紙が入ってたわよ?」
「何!?なんでさっさと出さないんだ!」
「そりゃ、ランスから話振ってきたら少女の服に手を突っ込む助兵衛「それはもういい!」
「はいはい、これよこれ。何書いてあるんだかさっぱりだったから気にしてなかったのよ。」
「どれどれ・・・。」
『 おはよう美夜。
これを見てる頃にはあなたは異世界に居るでしょう。
しかし、安心しなさい。私達が下見してた頃の行きつけの魚が美味しい宿の3階に転送するようにしたわ。
それから、言葉に不自由するかもしれないけど、その辺は受験生パワーの見せどころよ♪
言葉の意味は翻訳されるようにしたけど、あなたの喋る言葉は翻訳されないわ。がんばって覚えて頂戴。
一応は社会勉強なので、規定金額までお金を貯めたらこっちに戻れるようにしてあるわ。
なにしてもいいからお金を2000万エリル貯めなさい!
なお、怪我したりしないように緊急時には結界を張る素敵な護符付きネックレスをかけておいたわ。
それでは、異世界ライフ楽しんでね。アデュー♪』
「・・・。古代文字ばっかりじゃねぇか。ぜんっぜん読めねぇ。」
これもダメかぁ、と、天井を眺めてたら少女が物凄い形相で紙を引っ手繰ったくり、ビリビリに破いたあと、泣き出してしまった。
「どうにかしなさい。ランス。」
「とりあえず、部屋つれてってやってよ。従業員用でいいからさ。」
「まぁ、この状況じゃそうするしかないかー。泣いててもかわいいなぁ・・・。」
はぁ。と溜息を付き、今日何度溜息を付いたのだろうと現実逃避を始めるランシアだった。
ちょくちょく登場人物が増えてきました。
サラさんは家族経営の食堂の娘さんで、ランシアより年上です。はい。