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プロローグ

柳美夜はその時はまだ、浮かれていた。


 ついこの間行われた高校への入学試験、美夜は難関進学校に受験し、そして合格した。

中学校の親友の加奈子らと共に見に行った合格者一覧の掲示板で自分の名前を見た時は、一瞬頭が真っ白になり、数秒思考が停止してしまったが回転しだした頭が出した最初の命令は「飛び付け」だった。

思わず隣に居た加奈子にタックル気味に突進し、

加奈子も加奈子で自分の名前を見つけた瞬間、俗に言う万歳ポーズで美夜に振り返った途端、タックルである。

二人は盛大に転倒し、周りからの視線をもろともせずに泣きながら大笑いしてお互い賞賛しあった。


そんなこんなで今、人生最高の(まだ15歳なのだが)春休みを満喫すること開始から二日。

人生最大の転機が訪れようとしていた。


 「美夜、よく聞いて頂戴。あなたを明日から花嫁修業に出すわ。」

夕御飯の最中、美人で自慢の母親のから言われた言葉に美夜は反応しきれずに数秒停止した。

美夜は箸を口にもっていく状態で停止し、摘んでいた好物の鯖の味噌煮(加奈子は年寄りくさいとバカにしているが)をテーブルに落とした。

「あらまぁ、行儀がなってないわねぇ。ちゃんと自分で拭きなさいよ?」

「え、あ、は、花嫁修業?わ、わ、私、実は許婚がいちゃったりして結婚するの??」

「許婚は居ないから安心しなさい。」

「全然安心できないのだけど・・・。」

前々から変な事を思い付いては悪さをする母親の悪い癖がまた出たのかと溜息をつく。

「今度は何を思いついたの?」

渡夜は以前に耳と尻尾を出したまま文化祭の仮装大会に出場し、ぶっちぎりの得票差で優勝し、挙句に『美夜の姉で高校生です♪』と、猫撫で声で声高々と嘘を付き、意気揚々とそのままの格好で美夜のクラスの喫茶店に突撃。

そして喫茶店のウェイトレスをしていた美夜を散々からかって帰って行った。

あのあと質問攻めやらなんやらで心身共にズタボロになったのは軽いトラウマになっている。

「やだねぇ、美夜ったら。別に面白い事考え付いたから言ったわけじゃないのに。」

渡夜は自分の耳を伏せて、テーブルに尻尾で『の』の字を書いてイジイジしている。


 そう、この美人だけど悪戯がすぎるのだけが欠点の母親には耳と尻尾があるのだ。

黒い毛並みの耳と尻尾は自由に動かせるし、勿論作り物ではない。

実際には美夜自身もあるのだが、母親に『いじめられたりする』との理由で物心付く前から見えないようにされている。

かといって全部が全部一緒というわけでもなく、美夜は尻尾が1本だが、渡夜は7本(!)もある。

普段くつろぐときには1本で過ごすポリシーなのかと一度聞いた事があるが、帰ってきた答えが『7本もあると絡まるのよねぇ』で、酷く呆れたと同時に酷く納得した。


 「それで、本題なんだけどね。最近の"うちら"の事情がちょっと変わってきてるのよ。」

「どういうこと?」

"うちら"の事情とは妖怪の事情なのだろうと、母の友人の狐の玉さんを思い浮かべる。

あの人も母と共に盛大に悪戯している・・・。狸の守さんにいつも止められて口喧嘩しているのだが。

「最近・・・といってもざっと50年だけど、何処行ってもへ都市化の進んだところで、身内を修行に出すわけもいかずに困ってた守がね、玉と私に協力を仰いだのよ。」

「でね、会議の結果が、"地球にないなら別の世界に"って事なのよ。」

お茶を啜りながら半ばぼんやりしていた美夜はまた固まってしまった。

「別世界・・・?え、日本どころか地球でもないの?」

「そうそう、一度行ったけどいいところよー。空気は汚れてないし、精気も一杯だし。森も多い。けど、魚はあまり美味しくなかったわ。」

にこにこしながら渡夜は続ける。

「で、新しい修練現場の模索のために白羽の矢が立ったのが美夜ってわけ。」

「え?私?」

「一番適齢期なのは美夜なのよ、修練できずにずるずる年取った狸に行かせるわけにもいかないしねぇ。」

「けど、高校に折角受かったのに・・・。嫌よ、私。」

折角頑張って勉強したのだ、入学式前に退学とはあんまりだ、と美夜は涙目になって訴える。

「あらあら、また泣いちゃって・・・美夜は泣き虫ねぇ。けど、その点は大丈夫よ」

「え?」

「時間が流れが違うのよねぇ。この前、玉と守とで買い物行ったでしょう?あの間に下見してきたのだけども。」

母達が買い物に行ったのはほんの数時間だった覚えがある。お土産に変な魚と食べ物、酒を持ってきて盛大に宴会してたが・・・。

「かれこれ1ヶ月はあっちにいってたわ」

「1ヶ月!?」

がたがたと椅子を蹴飛ばして思わず立ち上がってしまった。はたと気付いてまた座る。

「そーよ、軽く世界を回っただけなんだけどね。まぁ、安全といえば安全だし、国語の勉強にもなるし。」

「???」

「明日になれば分かるから、とりあえずさっさと寝なさい。」

「はーい・・・。」

釈然としないまま自分の部屋に戻り、パジャマを着てとりあえず明日になれば分かるかな?と楽観しながら寝入った美夜だが。


そして寝てる間にすっ飛ばされた異世界。

ここから美夜の花嫁修業が始まる。

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