序章:俺が今から始める事は
見ていて気分を害すな…
幼い女の子にムチを振るい、田を耕させているのだろうか? 労働を強いらせている30代後半の男が、俺の家の窓から見える。
息を切らしながら、田を耕す麻布の服の少女の頭には『犬ミミ』が付いている
察するに彼女はメフィストの『転生人種』だろう
三分割された世界のうち、俺が住む『ココ』北ファイセクト大陸には、『魔物』がいる
魔物と言っても多くの人が想像するだろう、ス◯イムやド◯キー(◯には同じ言葉が入る)みたいな人を襲うようなことしか頭にない野蛮な生物のことではない。
『幻獣』と呼べば思い浮かぶだろうか?
そう、古からの神話に出てくる『ユニコーン』とか『ペガサス』とかそういう類いの動物だ。
幻獣は変異種も含め、約1360種以上の種族がいる。
幻獣たちは決して人の手の加わった土地には決して踏み込まない。これは古くからの人間と幻獣の、暗黙の了解だった。
そう、幻獣たちは決して踏み込まない。
だが、1360種もの幻獣とは別に分類される、人間に害を与える獣、そう、それこそス◯イムやド◯キーのような獣、『境獣』がいる。
境獣は幻獣たちのおよそ三分の一ていどの480種程度の種族しか居ないが、大きな魔力、物理的な力を持つ境獣は一匹でも人間の大きな驚異になる。
幻獣も境獣も勿論『獣』だ。どちらも人間とは姿も言葉(多くの獣は鳴き声、テレパシーである。また、ワルキューレなど一部例外もいる)も違う。
君には「なら何故さっきの犬ミミ少女は人間の少女の姿をしていたのだろう」という疑問が残るだろう。
詳しく話せば長くなるだろうから、手短に話していこうと思う。
十数年前に、ロイルマナレスト大学幻獣学部の教授、ウェルト=ダイルが、境獣を殺さずに安全化する為の方法として『境獣転生』の方陣を完成させた。
『境獣転生』ていうのは、まぁなんだ、簡単に言うと「境獣を人間にする」っていう概念の呪文だ。
まぁ長年の研究で境獣の魔力や力学的エネルギー、容姿の特長を完全に封印することは出来ないことは解ったらしいが。
手順も簡単に説明しようと思う。
まずは境獣を弱らせて、なんらかの方法で転生方陣の中心に誘導、移動(ヴァジュラなど一部の容姿を変更する境獣の場合は対象を中心に方陣を書く場合もある)させる。
その後拘束魔法を唱え、境獣を拘束し、転生魔術を唱え、方陣からドーム形に白い光が出て、暫く鳴き声や喘ぎ声、他にも色々聞こえるが、3分後には光も消え、方陣の中心には人間が倒れている、と そんな感じだ。
この方法で「人」になった境獣は魔力に限界があり、一定ベクトルのエネルギーを越えると、動けなくなってしまう。つまり、人間に逆らうことができない、人間より弱く見られる彼らは劣性人種とみなされ、大抵は奴隷として労働を強いられる。
そこで色んな大陸のお偉いさんが考えたわけだ
「転生人種は力も強くて、労働に使えるな、でも転生にはリスクが大きい。どうにか簡単に確保出来ないか?」
ってね
んで此処からがご都合主義本番な展開だ。
某年のある日、親とはぐれ、町に迷い込んだ子供のクリウス(熊に似た幻獣)がパニックになり、暴れている所に転生術士が通りかかって転生魔術をかけたら、くまのフードコートを着た女の子が出来た。っていうニュースが流れた。
そんな事件があったもんで大陸間協議なんかがあって、激論の末、森に立ち入って幻獣も人間にして奴隷にしまおうって計画が出来た。
そんなこんなで…いまの現状がある。
嗚呼、考えただけでイライラする。
まぁなんていうか、幻獣学部卒の俺が動かない訳にはいかないだろうって事で、ちょっとばかり行動にでることにした。
そう、保護団体に入る事にした。
今チャッちぃな、って思ったろ?
チャッちくなんかないぞ。俺が入る幻獣保護団体は
『転生人種入団可能』の特殊ギルドだ。
おっと、もうこんな時間か、ギルドのある町までの出発は明日。
詳しくは明日歩きながら話す事にしよう。