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幻獣ぱれっと!  作者: 橘 猫音
旅立ち(顔見世的なとかいっちゃダメ)
13/26

クリスマス:邪の『ゲームオーバー』

「うわ…」


前線にての戦闘の参加に指定された俺が、「ユー」「空音さん」と共に移動した先は


二人の隊長(ガキ)と悪魔たちによって、既に血塗の戦場と化していた。所々には、頭の無い悪魔、胴体の焼けただれた悪魔、また、半身しか無い悪魔など、様々な死に様の悪魔の死体が転がっている。


「のんびり眺めてないで早く戦闘にっ!」


唖然と眺めていると、『死神』から声がかかる。闘えと言われても…


俺はある程度なら魔法は使える。剣術も多少は身に付けている。だが、だからと言って俺に戦闘技術がある訳じゃない。


取り敢えずは、戦場から少し離れた所で、ユーと身を伏せる事にするか。


「ユー、取り敢えず離れるぞ。」


死体をみて顔色がすっかり悪くなり、少々怯え、無言で頷いたユーの手をつかみ、10メートル程離れた所の木の後ろに隠れ、戦況を伺う。


『死神』『マシン』『悪魔』入り交じった戦場は、なんていうか、とてもカオスだ。


そういえば、空音さんの姿が見えないが…


ふと周りを見渡し、すぐ隣の木の影に見つけた空音さんは


…悪魔の女性とキスをしていた。


「えっ…?」


思わず出る声、早鳴りを始める心臓。俺が思う事は一つ


『こんな時にGLガールズラヴ?』


唖然。普段に見る光景なら、普通に興奮して鼻息を荒らげていた所だっただろう。だがここは戦場だ。


「んッ…」


悪魔の女性と空音さんの口から声が漏れる。


次の瞬間


ぶわっ!と音を立てて、悪魔の女性の穴という穴から、火が吹き出る。


目を閉じてキスをしていた空音さんの目がニヤリと妖しく笑う。


ぐったりと腕をうなだれ、目を見開いたままの悪魔の女性の腰から手を離し、口を離すと、悪魔の女性は崩れ落ち、口から煙を吐く。


ぐったりと倒れた女性はもうぴくりとも動かない。


「ふぅ~… あ…シュウ、見てた?」


こちらに気付いた空音さんが口を袖で拭い、バツが悪そうに口を開く。


「はぁ…見てましたよ。口から炎注いだんですか?見れば見るほど邪道ですね。エグイですよ。」


いやはや…ゴメンゴメン と空音さん。


「それはともかくなんだけど、今から私さ… あいつ殺りにいこうと思うんだよね。」


目を細めた空音さんの親指の先には、紫のローブを着た、男性が見える。だが、あれは友軍ではないのか?


「え、空音さん? あれって友軍の人じゃないですか。」


そう言うと、あちゃぁ…と空音さん。


「シュウ、ちょっと我慢してね… 汝にふりかかる呪いの糸をほどきたまえ、カラクリム。」


キュイィィとガラスを釘で引っ掻いたような音が頭の中に響く。


「くぁぁッ…!!」


声が漏れる。足に力が入らない…ガクリと膝をつく。


頭に響く、嫌な音が消え、立ち上がった先に見えたローブの男は、俺の目には、悪魔の指揮官として命令を下す、悪魔としての姿が映った。


「どう?まだあいつが仲間に見える?」


ちょっと心配したようすの空音さんから声をかけられる。


「…いいえ。でも…なんで…?」


うんうん と空音さんは目を閉じて頷き


「きっと森全体に呪文がかかってたんだね~。 まぁ簡単な例を上げると『普通、ゴーストが人間には見えない』って感じかな。」


成る程、悪魔が殺されても指揮官が殺されないならなんとかなるって訳か。


「ところで空音さんはなんで敵だって解ったんですか?」


「いや~、空音はさっき鳴葉からカラクリム食らったからね~」


成る程、あのときに竜化の呪と一緒に解けた訳か。


「でも、あんなのどーやって殺すんですか? 凄く強そうですけど…」


実際肉弾戦においては空音さんのほうが圧倒的に強いだろう。だが、あきらかに魔法において相手は熟練している様子だ。


「それはね~… ゴニョゴニョ…ごにょり…」


成る程、この作戦ならいけそうだ。


俺の命は保証されては居ないが、空音さんが上手くやれば死なずにすむ。今回は空音さんを信じることにする。


一人にしないで…と半泣きのユーを「絶対だいじょうぶだから」となだめて、戦場にでる。


小型ナイフをとりだし、刃先を『ローブの男』に向け、小声で唱える


「氷柱の映える氷原よ、一度我に力を移し、矢先の花を貫きたまえ。カウル!」


ナイフの先から氷柱が数本発生し、『ローブの男』に向かって垂直に跳ぶ。


木の前で戦場を眺めている『ローブの男』はこちらを見ていない。


このまま飛べば男に氷柱が刺さり、貫通するだろう。


だが、氷柱は男の30センチほど前で止まり、空中で砕ける。


「やっぱりな…」


予想通りだ。やはり相手の周りには防護結界が張られている(これで仕留められればラッキーと思っていたのは秘密だ)。


「お前か。」


体がふわりと浮く。まぁ浮くといっても、首を締め上げられるような感じなのだが。


冷静に主観話をしている今も…実は相当苦しい。


「なぜ解った」


感情のこもっていない声で男が言う。首が絞まっているので声は勿論でない。


「くぁッ…!!」


声が漏れる


「何故かは解らぬが、取り合えず殺す。」


大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ…


自分に言い聞かせるも…意識は薄れる一方…


失敗か…? 空音さんを信じたのが間違いだったか…


薄れゆく意識のなかで、そんなことを考えていると


ドスッ…男の方から音がして、浮いていた体が不意に地面に落ちる。


「空音さん!」


殺ったか! 顔をあげると、そこには想像とは全く違う姿の空音さんがいた。


俺の目には『男の背中を貫通した剣を持つ空音さん』が写る予定だった。


少なくとも、そういう予定だった。


だが、実際俺の目に写った空音さんは『木にもたれ掛かり、地面に座り込み、首元に杖を当てられている、苦しそうな顔の空音さん』だった。


「空音さっ…ぐぁっ!!」


俺が言うや否や、体が浮く。


「両方殺す。まずはお前からだ。」


『お前』とはどうやら俺のことらしい。


大気圧が首だけにかかったかのように、首がしまる。


苦しい。俺はまだ死にたくない。でも、思いだけで死ななくていいなら、皆やってる。


嗚呼、死んだ。


『ジ・エンド』

『ゲームオーバー』

『人生終了のお知らせ』


地面に体が落ち、力泣く崩れ落ちる。


「『ジ・エンド』

『ゲームオーバー』

『人生終了のお知らせ』 …くくくッ

『おお勇者よ、死んでしまうとは情けない』」


俺が最後に聞いた言葉はこれだった。


「『アジ・ダハーカ』お前、女を泣かせるのが趣味なのか?良い趣味してるじゃねぇか(笑)」


…え? どうやら俺はまだ生きているらしい。


『ローブの男』の方から聞こえる声。だが、その声はどこかで聞いたことのある… 少々幼い『男児』の声だった。

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