クリスマス・イヴ:聖夜祭・生命樹の護衛依頼にて
「明日はクリスマスだけど~ 皆さんにはもれなくお仕事があるから~♪」
12月23日 朝っぱらから、ギルドのロビーに連れてこられ、すっかり萎えている俺と、集められた、広いロビーの椅子にバラバラに座っている、同じく萎えた仲間たちに笑顔の空音さんから声がかかる。
はあぁ? と盛大に上がる不満の声。
「今回の依頼は、『生命樹』を悪魔から護衛することよ。」
いつもどうり、酒の回っていない鳴葉さんは冷静だ。
『生命樹』なんか元々『聖守』から守られてんじゃねーか! と異口同音、大いに不満の声。
因みに俺はよく知らないのだが、『聖守』とは、なんか、悪魔の侵攻から逃れられた、数少ない『生命樹』が魔力を絞って作った結界のことらしい。
「じゃあ、詳しい依頼内容を読み上げるわよ。
『to ベルリディング地方最大勢力ギルド ルーザンマードル市部さまへ。
今年のクリスマスは、750年に一度の【エデン】確立の年ですね。 ベルリディング地方には、【エデン】に植えられた、【生命樹】のうち一本、【ティファレト】が仮住しています。 今年の【エデン】確立では、【生命樹】の聖心の一部が精霊として具現化する様子です。 具現化するまでの【聖心合成】の間、一時的に【聖守】の力が弱くなるので、【ティファレト】にできた、【禁断の木の実】の魔力に呼び寄せられた悪魔、魔物から【ティファレト】を守って下さい。
byエデン管理人 アリス』
以上です。 気を引き締めて望むように。」
「折角、聖夜祭あるのに」
「弟が風邪をひいて…」
「ブラザーが風邪をひいて…」
「まだ255ミリ主砲のメンテナンスが…」
「聖夜は黒いお嬢ちゃんと一緒に…」
思い思いにブーブー不満を言う面々を気にも止めずに言う鳴葉さん。
俺まだ仕事一回もしたことないのに初っぱなから悪魔とか…マジかよ…最初はキノコ採りとかでいいんだけどなぁ…
背伸びをして、依頼状を覗き込み「んっ?」となにかに気付いた様子の「空音さんのポンチョを着ているため、手を広げるとモモンガのようにも見える『ユー』」が口を開く。
「にゃぁ、この下にちっちゃく書いてある『精霊化した【生命樹】からのお礼の【聖夜の贈り物】が恒例となっております(非読)』って…って、にゃ… こ、これ読み上げちゃいけないやつかな…?ゴメン、聞かなかった事にしてっ!」
贈り物という単語が上がった瞬間 「うおぉぉぉっ!!」と歓声が上がる。
ていうかなんでユーが幹部の列に混ざって喋ってんだ。 しかもなんで誰もツッコまねーんだ
「はぁ… ユー、これはメンバーの集中力保持のための機密事項でしょう… 皆! 今のことは周りには話しちゃ駄目だからね!」
溜め息混じりにあきれ声で呼び掛ける鳴葉さん。
もちろん歓声は止まらない
「盛り上がってるところで重大な連絡事項が一つあるわ」
鳴葉さんの呼び掛けに「ざわっ」と一瞬場が静まる。
重大な連絡事項… なんだろ? ゴクリ…
「今回の依頼は人員確保のため、はぁ… 空音も戦闘に参加するわ 皆生きて帰るように」
へ? 空音さんってギルドマネージャーじゃないの?
うぉぉぉおっ!! とさっきよりも大きな歓声が上がり
「非道竜王空音復活か!? マジかよ!」
「今回はどんな技見せてくれんだぁっ!?」
「ひゃっほぅ!! 楽しみだねぇ!! 今回もキメてくれよ?」
「聖夜は空音さんと一緒だっ!!」
歓声の中で集まったメンバーが口々に言う。
はぁ…と溜め息をつく鳴葉さん。 「空音だっていつも非道なわけじゃないよ~ フフフッ」と目だけが妖しく笑った空音さん。 怖…
「まぁいいわ… 依頼期間は明日の午前0時から午後9時までよ。 もう一度言う。気を引き締めて望むように」
うぉぉぉおっ!! 上がる歓声
俺のルーザンマードルにきて最初の『聖夜』は、750年に一度の特別な『精霊の聖夜』だった。
さて、俺の初仕事、対するのは悪魔だ
気を引き締めていこう!