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地獄にて

 神嶋樹は地獄に立っていた。

 見渡すと辺りは真っ赤に燃えているが、熱は感じない。

 樹の身体の周囲を冷たい焔が包んでいるようだ。


『俺は…死んだのか?』


 不老不死は…幻想だったのか…。


 美咲は、助かっただろうか。

 村は、どうなっただろう。




『よう少年!』

 背後に高い霊力を感じて振り返った。

 美咲の母親だった。

 巫女装束を纏っているが、所々擦りきれている。

 ずっと、戦っていたのだろう。


『さっきの質問の答えね、あんたはまだ死んでない。鴉の恐ろしいところはね、

身体能力と繁殖力の高さよ。そして繁殖して生まれた新しい鴉に寄生する事で、

永劫に近い時を生きる。』

『…質問っていうか独り言だったんだけどな。…つまり俺は、王の、次の肉体だと?』

 美咲の母は樹にデコピンしながら首を横に降る。

『とっくに寿命がきてるのに、王はあんたを受け皿にはしなかった。恐らく別の目的がある筈よ。』

 

 一呼吸おいてから美咲の母は樹の襟首を掴んで乱暴に訊ねる。

『…で、いっくんはどうしたいのかしら。ヘタレを返上したいなら、手伝いなさい。』

『俺は…救いたいんだ、美咲も王も、助けたい。』

 美咲の母はその答えを聞くと樹の襟首を掴んでズルズルと引っ張って行った。



『この石が、王の核。』

 美咲の母の言葉に樹は目を見開く。

『この石は…』

 小さくて丸い、淡い光を纏った石だった。

 それは樹に上書きされたイツキの記憶メモリーの中にある石ころだった。

 それによるとイツキが幼い鴉の子供に贈った物だ。


『この石を…砕くのか?』

『砕けないわ。少なくとも私には。地獄に封じ込める事しかできない。』

 美咲の母は、樹を見ながら一言。

『いっくんは、王に連れて行かれて鴉になったと思ってるのかしら?』


 樹はその問いに怪訝な顔をする。美咲の母は構わずに言葉を続ける。


『元々いっくんには鴉の血が混じってるのよ。』

 イツキは目を見開く。

『私は鴉退治で名を馳せた巫女よ?あんまり甘く見ないで。』

 樹は混乱した。

『そんな事…』

 ある筈ない…そう言いかけて口を閉じた。


 幼い頃に王が持っていた写真をみた事がある。

 そこには今の自分の姿と瓜二つの青年と、幼き王が映っていた。

『イツキが…鴉だということを隠してあの村で暮らしていた…?』

 樹が、美咲の母に問う。美咲の母は頷く。

『鴉は元来、人間になつかないわ。イツキは恐らく鴉の血を引く者。人間の恋人

との間に子を成し、その血はいっくんに続いてる。』




(イツキ…ねぇイツキ。僕の声、聴こえてる?)

 王の声が響く。

(イツキ…お願いだ、僕の仇を討ってくれ。)

(世界を、僕らの憎しみで満たしてくれ…。)


 王は、地獄ではまるで幼い子供のようだった。




(あんな日は、生涯に一度で充分だ…お前も僕も世界政府に殺されたんだぞ。僕はもう二度と殺されたくない。)

鴉の王は一樹に手を差し出す。


『俺は神嶋一樹だ…あんたが求めてるイツキじゃないよ。』


(イツキ…また僕を独りにするのか…お願いだ、僕を必要としてくれ…イツキ。呪

われた僕の名を呼んでくれた、無二の盟友よ…。)


『俺はあんたをずっと恨んでた。恐怖で手を差し伸べる事もしなかった。ごめん。』

 樹が王に語りかける。

『あれは俺たちの生きてていい世界じゃないんだ。…哀れな鴉の王よ、一緒に闇に還ろう。』





『狩りの目的は、イツキとの絆を取り戻す為だったのね?』

 美咲の母が王に問う。

『巫女よ。世界を呪うほど憎んだ日があるか。僕はあの日が正にそうだった。イツキに心臓を射られた日。イツキが正気で僕を売ることなどあり得ぬ!…世界政府に嵌められたのだろう。だから僕は世界を許さぬ。憎んで、呪って、滅ぼすと決めたのだ。』

王はそう吐き捨てて、その身に流れる時間を止めた。事実上、「封印」された事

になる。




美咲の母は鴉の王の最期に涙を流しながらも顔を上げて呟いた。

『世界はこんなにも醜くて美しい…私は愛しているわ、世界を。』


(例え、もう戻れない世界でも…。)



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