鴉の王、その誕生。
かつてこの村にはイツキという青年がいた。
青年は怪我をしている鴉の子供を助ける。
鴉の子供は青年によくなつき、畑仕事などを手伝っていた。
しかし迷信深かったその時代。
鴉は不吉な者とされ、不幸を招くとされていた。
噂を聞き付けた世界政府の使者が、その村を訪れた。
鴉の子供と仲良くする青年を目の当たりにする。
イツキは捕らえられ、投獄された。
拷問にかけられ、やがて獄死する。
鴉の子供は戻る者のない家でイツキを待ち続けた。
『鴉よ、私だ、イツキだ。どうか戸を開けておくれ。』
疑う事を知らぬ幼き鴉が戸を開けた瞬間。
『!?』
塩で浄められた弓矢に胸を射抜かれた。
『騙したな、人間…イツキが僕を売ったのか…。』
『鴉に生まれた事を呪うんだな。お前も友達のところに行けて本望だろうよ。』
この日より、鴉の魂は地獄に拘束される。
現世の時の流れに左右されることもなく、ただひたすらに憎しみと孤独だけが積
み重なっていく。
現世で僅かな季節が過ぎた頃。
イツキの恋人がイツキの子を成した。
その子が子を成し、そのまた子が子を成した。
幾代か続き、神嶋樹が生まれた。
奇しくもイツキの生き写しのような姿だった。
そしてイツキと同じ血の匂いを地獄から鴉の子が感じ取っていた。
恐らく神嶋樹はイツキの生まれ変わりだったのかも知れない。
『神嶋樹…イツキと同じ匂いがする…彼は、何者なんだろう…』
幼い魂は王と名乗り、樹を幽閉するべく動き出す。
樹の記憶メモリーにイツキの記憶を上書きする。
(ねぇイツキ、一緒に復讐しようよ…人間を、一人残らず狩るんだ。)




