10年前、王との対峙。そして
10年前、樹は鴉と呼ばれる黒尽くめの者たちに、ある島へ連れて行かれた。
「我々の存在を口にしたオマエを、生かしておく方法は一つだけだ。」
黒尽くめの者たちの中で、一番偉そうな者が樹に言った。
当時まだ幼かった彼は震え上がり、何でもするから殺さないでくれと叫んだ。
鴉の王が言う。
「ならば仲間になれ。でなければ死ね。」
吐き気がするほど身勝手な二択だった。それでも樹は生きることにしがみついた。
「仲間になるよ!だから殺さないで!お願い!」
今、振り返ればあの時に死んでしまった方がずっと楽だったなと樹は思っていた。今となっては鴉の仲間であり、不老不死の呪いで死ねない身体になっている。そして世界中の人々から嫌われる禍々しき存在となってしまった。
今回、王は卑しい笑みを浮かべながら、樹にこう言った。
「10年目の集大成だ。オマエが身も心も鴉になりきれたか、試させて貰うぞ。」
樹に告げられたのは、生まれた村の殲滅だった。
「あの村はオマエたちと契約を結んでいる筈だ!それを反故にするのか?!」
王は嘲り笑う。
「そう…我らに自ら犠牲を差し出すことで、あの村は平和を得た。あの村は自らを我らに売ったのだ…買った領地で何をしようと我らの自由ではないか」
樹は愕然とした。鴉はあの村が世界政府に反対されてまでした取引を、詭弁で反故にする気なのだ。
「…分かった。俺が、あの村を殲滅させればいいんだな?」
樹の言葉を聞くと、鴉の王はいっそう卑しく笑った。




