世界を敵に回して魂を売った村
美咲は熱いお茶を一気に飲み干した。
「お母さん!もう一杯!」
「一体美咲は何を自棄になっているの?」
母の問いに、美咲は泣き出しそうになった。
幼馴染の樹が10年ぶりに村へ帰ってきた。先刻まではそれが本当に嬉しかった。けれど、樹の目的はただの帰郷ではなかったのだ。彼は縋るように自分を見つめる美咲にこう告げた。
「俺は、狩らなきゃいけない。お前は逃げろ。」
最初はよく意味が分からなかった。でも考えてるうちに頭の中の不安が大きくなる。10年という期間は、果たして人間を変えずにいられるのだろうか。例えば、樹はもうとっくにあちら側の存在なのではないか…。美咲はそれでも樹に懇願する。
「お願い…いっちゃんは、いっちゃんでしょ…?」
樹は泣きそうな顔で主張を変えない。
「お前は、逃げろ。」
美咲は思い出したらまたお茶を飲み干していた。
「…お母さん、狩りって何?」
美咲は樹の言葉を思い出して母に尋ねた。
「狩り? ああ、奴らのゲームよ。どれだけ魂を採れたかで競うみたいね。」
…母は恐ろしいことをさらりと言ってのけた。
「それ!結構ヤバいんじゃ…!?」
「大丈夫よぅ、この村は。奴らと契約した唯一の村だもの。」
美咲には訳が分からなくなった。
狩りとか契約とか、奴らって一体何者なんだろう。美咲の疑問を察してか母が言う。
「簡単に言うとね、この村は世界を敵に回して魂を売った村なのよ。」
「いや、全っ然、分からないんだけど。」
すると母は笑って言う。
「それは美咲が、国語でマイナス100点取るようなおバカさんだからよ。」
最早、美咲に言い返す余地はなかった。




