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3 断崖の影と真珠の主

 白亜の桟橋が、陽光を弾いて眩しく光る。


 だが、レオンが二人を連れて向かったのは、その賑わいとは真逆の方向ーー町を背後から抱きしめるようにそそり立つ、巨大な断崖絶壁の方だった。


「おい、レオン。そっちは行き止まりだろ? 屋敷に行くならあっちの緩い坂道じゃないのかよ」


 リンの指摘を鼻で笑い、レオンは切り立った岩壁の隙間にある、古びた巨石の門へと足を向けた。


「表の道は観光客用だ。俺たちはこっちの『裏口』から失礼するんだよ」


 レオンが門に刻まれた魔導印に掌をかざすと、地響きと共に巨大な岩盤が滑るように開いた。


 その先に広がっていた光景に、ガイが息を呑む。


「……なに、これ。ここ、町の中なの?」


 そこは、断崖をくり抜いて作られた巨大な天然のドックだった。


 外海からは見えず、表の港の華やかさも届かない。潮騒が反響し、焦げた木材の匂いが漂う。そこに満ちているのは、暴力の残滓だけだ。


「うわ……ボロボロじゃん」


 リンが目を細めて見上げた先には、数隻の大型帆船が横付けされていた。


 強固な樫の木で作られた船体は無惨に砕け、巨大な拳で打ち抜かれたような大穴がいくつも開いている。


 ドクロの旗は引き裂かれ、見るも無惨な「残骸」となって、ドックの隅に積み上げられていた。


「『沈黙の海蛇サイレント・リヴァイアサン』の先遣隊だ。昨日、ちょっとそこで拾ってな。子爵に引き渡すまでここに放り込んである」


「『拾った』っていうボロボロ加減じゃねぇだろ……」


 リンは呆れたように、レオンの分厚い拳を横目で見た。


『沈黙の海蛇』――この海域で名の知れた海賊団だ。


 この男が仕事をした後は、いつもこの有り様だ。海の魔物、深淵海魔怪(クラーケン)だって、もっと繊細に破壊するだろう。


 ドックの奥には、滑車とロープを用いた頑丈な昇降機があった。それに乗り込み、一気に高度を上げると、ようやく視界が開ける。


 断崖の頂に建つのは、白壁が美しいネーレイド子爵の邸宅。


 それは、表の港を一望し、かつ、この「裏の戦場」を常に監視する、まさにこの海域の『盾』そのものの佇まいだった。


「レオン様、お待ちしておりました」


 昇降機を降りたところで出迎えたのは、整った身なりをしながらも、どこか海風の鋭さを纏った執事だった。


「おう。子爵は中にいるか?」


「はい。ですが……例の件で、少々…」


 執事の言葉に、レオンの表情から余裕が消える。


 リンとガイも、屋敷の奥から漂ってくる、ただならぬ「焦燥」の気配を感じ取った。


「事件か?」


 リンが短く問うと、レオンは黙って頷き、長い廊下を大股で歩き始めた。


 案内された応接室の扉が開くと、そこには美しい海の意匠が施された調度品に囲まれて、一人の男が頭を抱えて座っていた。


 彼こそが、この碧海領を治めるネーレイド子爵。


 そして、その傍らには不安げに兄の服を握りしめている、小さな――少女がいた。


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