2 明かされた組織の裏事情
リンとガイが海の幸を心置きなく堪能していると、不意にテーブルに影が落ちた。
「よう、双子ども。相変わらず細ぇな、ちゃんと食ってるのか?」
見上げると、黄金の鬣を思わせる金髪を揺らした美丈夫が、太陽のような眩しい笑顔で二人を覗き込んできた。
「レオン!」
ガイが嬉しそうに尻尾を振る横で、リンが嫌そうに身を捩る。
「狭ぇよ、こっち座んな」
「おまえの方がガイより更に細いからな。こっちの方が空いてんだよ。嫌ならもっと鍛えろ」
悪びれもせず、リンの横に陣取ると、テーブルの上の料理にも遠慮なく手を伸ばす。挙げ句には通りかかった店員にオーダーの追加までしている。
その掌の武骨な傷跡の数々が、レオンが歴戦の拳士であることを物語っていた。
「勝手に追加すんな、何なんだよ。レオンのおごり?」
邪険に見えるが、どこかレオンを慕う空気が滲み出ているリンが、「奢れ」と言わんばかりにメニューを手に取る。
「仕方ねぇな、全部だしてやるよ。ま、経費で落ちるからな」
「マジで!?」と、喜んだのもつかの間、聞き捨てならない、レオンの言葉にリンとガイが食いついた。
「……経費だと? 待て、いま経費と言ったか!?」
アクアパッツァの魚の骨を口から吐き出し、リンが詰め寄る。
「俺らなんて、こないだのドラゴン討伐旅費すら『私的なピクニック』扱いで全額自腹だぞ! 悪徳骨董屋の算盤はどうなってんだ!」
「ずるくない?エレオノーラ様とオスカーの不当な差別だー」
ガイが不貞腐れると、レオンが合点がいったと、手を打った。
「あぁ!俺とお前らじゃ、金の出所が違うわ」
初耳だ。
首をかしげる二人に、レオンが改めて語ったのは組織の意外な裏事情であった。実に7年もの間、すっかり説明し忘れてたらしい。雑な組織である。
「俺とオスカーの雇い主は、嬢ちゃんじゃなくて、ヴァランシエール侯爵である、嬢ちゃんの母親のイゾルデ様なんだよ。俺らは嬢ちゃんの補佐ってとこだ」
『天球の灯』はエレオノーラの私的な組織である。侯爵であるイゾルデが、娘の趣味を黙認しているにすぎない。
「ええ!じゃあ、レオンだけギルドであんまり見かけないのはそのせいってこと?」
「まぁ、イゾルデ様の命令が優先ってこったな」
飄々と肩をすくめるレオンに二人は目を丸くした。
「そっちだと食ったもんも、経費で落ちるのか?そっちの方が良いじゃん」
リンが不満げに鼻をならすと、レオンは苦笑する。
「イゾルデ様は嬢ちゃんの三倍は恐ろしい方だぜ?」
リンとガイが顔を見合わせる。
……アレの、三倍。
沈痛な面持ちでまだ見ぬエレオノーラの母、イゾルデに二人は戦慄する。
「…やっぱ、今のままで良いわ」
「同感。アレより怖いの想像したくないよ」
その様子にレオンは豪快に笑った。
「嬢ちゃんだってイゾルデ様に比べたら子猫みたいなもんだ。お前ら全員、まだまだ修行中ってことだよ」
二人も薄々おかしいとは思っていたのだ。オスカーはともかく、レオンのエレオノーラに対する態度は、あまりにも軽すぎると。
まさか、雇用関係がなかったとは。
「だとしても、『嬢ちゃん』は、ねぇんじゃねえの?」
「それは、ほら。初めて会ったときは、嬢ちゃんもまだ十歳くらいだったからなぁ」
今更、変えられないなと、レオンはあっけらかんとしたものだった。
「つうわけで、俺がここに居るのは侯爵家からの命令ってこった、分かるか?」
急に低くなったレオンの声に、思わず二人は息を飲む。賑やかな店内で、この場所にだけわずかな緊張が走った。
しかし、すぐにその緊張をかき消すようにレオンは二人の頭をかき混ぜた。
「ま、お前らの仕事は俺の『お手伝い』だけどな」
こうして、リンとガイはレオンに連れられて、この港町を治めるネーレイド子爵の邸宅を訪ねるのだった。
それは、ネーレイド子爵から侯爵へともたらされた、ある厄介な事件の入り口でもあった。




