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血に名を与えたこの世界で  作者: 錦 美和
入学式と境界線

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8/20

第8話 予定外の乗り換え

 虎汰達は鳴地について教室棟を後にする。


 入学式へ向かう途中誰もいなかった道には、沢山の人が歩いていた。


「よっ!癸丑~!」

「入学おめでと~」


 ところどころから、自分たちに向けた言葉が飛ぶ。


 手を振り返す者もいれば、恥ずかしそうに俯く者もいた。


「すっごい人~!朝一緒に来た時よりも人多いね!ね!虎汰君!」

「そうだな。」

「これからどんな人と出会えるのかな~わっくわくだなぁ~」


 雨宮がくるくると回りながら歩いていると、1人の女性とぶつかった


「あいたぁっ!」


 雨宮は尻もちをつき、ぶつかった女性が慌てて手を差し伸べてきた


「わー!ごめんね!全然前見てなくって!怪我無い?!」


 女性は溶岩のような真っ赤な髪色をし、髪型はロングのウルフカットで美しくカッコよさもありながら、前髪には可愛らしい手作りのヘアピンをつけている。


「ほわぁぁ…綺麗な人ぉー」


 雨宮はうっとりしながら女性の手を取り立ち上がった。


 前を歩いていた鳴地が慌てて女性に駆け寄った。


「まぐちゃんゴメンね!怪我はないかい?!」

「わぁー!鳴地先生お久しぶりじゃないですかー!

 全然です!むしろ私がよそ見して歩いててぶつかっちゃいまして」


 女性は少し申し訳なさそうな顔をしている。


「癸丑の子たちですよね!

 こんにちは!私はみんなの6つ上のクラス、丁未ひのとひつじ岩城(いわしろ) 真弘まぐっていいます!よろしくね!」


 岩城は長い髪の毛を風に揺らしながらニコッと微笑み、癸丑の生徒何人かの心を射抜いた。


「まぐちゃんこれから授業?」

「いえ!これから研究室で朱式術で生成したマグマの二酸化ケイ素の数値と粘性の比較をしようと思ってるんです。

 鳴地先生も久しぶりに研究室に顔出してくださいよ~」

「最近忙しくてねぇ。でも近々おじゃまさせてもらおうかな!」


 鳴地と岩城が話しているところに、1人の生徒が声をかけた。


「あの…研究室ってもしかして地底血学の授業をされている層縁そうえん先生の研究室ですか…?」

「お!何々?うちの研究室興味あるの?!」

「はい!あの、えっと僕、古室(こむろ)といいます!層縁先生に小さいころから憧れてまして…」


 少年はもじもじとしながら岩城に話しかける。


「えー!いいじゃんいいじゃーん!ぜひ来てよー!」


 スパァンッ


 突然大きな音が響き、岩城の頭が誰かにひっぱたかれた。


「どこほっつき歩いてやがる。」


 咥え煙草に全身真っ黒な40代前半とみられる男が岩城の後ろに立っている。


「いたぁーい!」


 岩城が頭頂部を両手で抑えながら泣き叫ぶ。


「研究結果を一緒に見てほしいとかほざくから仕方なしに研究室で待っててやったというのに、一向に研究室に現れないというのはどういう了見だてめぇ。」

「あ、層縁先生こんにちはー」


 鳴地が層縁に挨拶をするが、層縁は鳴地に鋭い目線を送る。


「おう。鳴地、この後生徒ら寮に送るんだろ?それが終わったら俺の研究室へ来い。」

「はい。」


 層縁はニヤッとした不気味な笑顔で鳴地の肩をポンと叩く。

 鳴地は顔から滝のような汗を流している。


「よぉ癸丑共。お前らの授業では歴史を担当する層縁だ。

 俺の授業に遅刻するような馬鹿はきっちりしごいてやるから覚悟しろ。

 んじゃ、馬鹿が邪魔したな。」


 ずるずると左手で岩城を引きずり、層縁は右手をひらひらとさせながらどこかへ行ってしまった。

 生徒たちはぽかんとした表情でいる。


「むろっちあんな怖い先生の研究室行くの~?」


 療ヶ裂が古室の肩をツンツンと突っついている。


「う…うん!」


 古室は少し強張った顔はしているものの、しっかりとした返事をした。


「そ、それじゃあ改めて寮へ向かおうか!」


 鳴地はハンカチで汗を拭きながら、寮へ向かって歩き始めた。


 生徒たちがしばらく歩くと、虎汰と雨宮が入学式前、鳴地に案内してもらった「悠久学舎」と書かれた看板が乗った建物が見えてきた。


「あ!朝見たやつー!」


 雨宮は建物を指差し、大きな声で叫んだ。


「そうそう!あそこは管理棟っていう名前なんだけど、実際の用途としては駅舎が主な建物だよ。

 これからみんなには電車に乗って寮まで向かってもらいます!」


 学校の敷地内で電車に乗るというあまりの施設の規模の大きさに、生徒たちはざわついている。


「それじゃあ、ここから先は人も増えてくるから迷子にならないようちゃんとついてきてねー!」


 駅舎の中に入ると、端が見えない程の大空間があり、複数のホームと電車が並んでいる。


 多くの人が行きかい、発車ベルやアナウンス、人が歩く足音等様々な音が響いている。


「はーい!それじゃあみんな端に寄ってー!」


 鳴地は大きな声を出し、手を振りながら生徒達を駅舎の端へ移動させる。


「駅舎入って真正面に見えるホームは10番線!

 君たちが使うホームは3番線だから、入口入ったら左側へ進むんだよー!」


 鳴地が大きな声で生徒たちに説明をしていると、分厚い革でできたエプロンと手袋をした、

 低身長でふくよかな体系の女性がぽてぽてと歩いて近づいてきた。


「そしてこれからみんな電車に乗るとき迷ったりすることがあると思うけど、もし迷ったらこの方に聞けばすぐ分かるからねー!」

「癸丑のみんなこんにちは!あたしゃこの管理棟で列車の往来を管理している鉄路っていうんだ!よろしくねぇ!」


 鉄路はぽぉんと大きなお腹を叩きながら自己紹介をする。


「ここは悠久学舎の心臓部分と言っても過言じゃない!

 この学園内()()()()()と繋がっているんだ!

 あんた達が行きたいところに悩んだら、なんでもあたしに聞きな!いつでもここにいるからねぇ!」


 鉄路はあっはっはと声高々に笑っている。


「寮行きの列車に乗るんだったら、あと10分で出るからね

 3番線まではちょいと歩くから急ぎな!」


 鳴地と生徒たちは鉄路に挨拶をし、3番線に向かう。


「すっげぇ…」


 虎汰は3番線を目指しながら、目に映る景色に圧倒されていた。


 大きなアーチを描いた天井は、ガラス板が沢山はめ込まれており、

 その天井を支えるための大きな柱が何本も地面へ向かって伸びている。


 そんな大きな駅舎内にはスーツを来た人や、詰襟制服を着た人、ここが学校の中ということを忘れる程の様々な人が入り乱れている。


 9番線、8番線と徐々に番号が小さくなっていくのを横目で見ながら3番線を目指している途中、虎汰の胸の奥に、言葉にならないざわつきが生まれた。


 虎汰の視界に白髪の青年が入った。


「っっっっ!!!」

「いてっ、こたちーどした?」


 突然足を止めた虎汰に療ヶ裂がぶつかった。


「悪い、ちょっとどいてくれ」


 虎汰は療ヶ裂を押しのけ、白髪の青年目掛けて走り始めた。


「おい!こたちー!どこいくんだよ!」


 療ヶ裂の叫び声も届かず、虎汰は人波に消えていった。


(俺は…俺はまだ…納得してねぇ…嘘だったって言われた方がまだ信じられる…)


 虎汰は息を切らしながら人をかき分け、白髪の青年がいる場所へ抜けた。


「っっ…はぁ…はぁっ…っ…もうっ…もう逃がさねぇぞあけび!!!!」

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