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血に名を与えたこの世界で  作者: 錦 美和
入学式と境界線

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第5話 名前を名乗る資格

「俺のカバンが見えないのか。」


 青緑色の髪の毛をツーブロックにした目つきが鋭い青年は、虎汰にグイっと詰め寄る。


「悪かったよ」


 虎汰はそういい、机の上に置いた自分のカバンを取り立ち上がった。


「おい待て。」

「なんだよ。」


 青年は虎汰の肩をガシッと掴み、自分の方へ引き寄せた。


「お前の名前は。」

「は?」

「お前の名前は何だと聞いている。」

「それ聞いてどうすんだよ。」

「…。何を怒っている。これからクラスメイトとして7年一緒に生活をするんだ。名前を知るのは当たり前だろう。」

「お名前聞きたいときは自分からまず聞かなくっちゃ!

 私は雨宮霖!よろしくね~!」


 雨宮は青年の手を握り、勢いよくブンブンと振っている。


「確かにそうだな、雨宮さん。君の言う通りだ。

 すまない、俺から自己紹介をすべきだった。

 俺の名前は玻璃田はりた硝司しょうじ。よろしく頼む。」


 玻璃田は虎汰に手を出し、虎汰はその手を握り握手をした。


「俺も良く見ないまま席座って悪かったな。

 刀刃虎汰だ。」

「刀刃…?」


 玻璃田は片方の眉をあげながら、虎汰の名字を繰り返した。

 虎汰はズキッと心臓の奥が痛む感覚がした。


「刀刃か、()()()だな。」


 虎汰は握手をしている手に力が入った。


「そういえば玻璃田君ってなんでそんなに目付き悪いのー?」


 雨宮はグーッと眉間に力を入れ、玻璃田の真似をしている。


「ん?あぁ…すまない、目が悪くてな。

 気分を害させていたら申し訳ない。」


 先ほどまで寄っていた眉間の皴がなくなった玻璃田の表情はとても柔らかく、優しそうな青年の顔になった。


「眼鏡持ってねぇのか?」


 虎汰は不思議そうに玻璃田へ質問をした。


「あぁ、俺の家系では眼鏡が必要な場合、朱式術で作らなきゃならない。まだ上手く作れなくてな。だから仕方なく裸眼で生活しているんだ。」


 はぁとため息交じりに玻璃田は答えた。


「まぁなんだ、よく目付きで勘違いされてしまうが悪意はない。これからよろしく頼む。」

「あぁ、こちらこそよろしくな。」

「私も私もー!2人ともよろしくねーー!」


 3人が談笑している間に、バラバラと生徒が教室内に集まってきていた。


 全員同じ制服は来ているものの、髪色や髪型

 背丈にばらつきがあり、個性豊かな面々があっちこっちで談笑している。


 賑やかな教室に、大きな音が響いた。


 ガラガラガラ


 教室前方のドアを開け、鳴地が入ってくる。


「やぁ!みんなお待たせ!全員いるかなー?

 入学式の流れについて説明するから、みんな座って~」


 鳴地の指示を聞き、生徒は全員着席した。


「よし!じゃあまずは、悠久学舎へのご入学おめでとうございまーす!」


 教壇の前に立ち、生徒たちに向けて拍手を送っている。


「そしてこの後入学式があるわけですが、ざっと流れを説明するね!」


 黒板にカッカッと音を立てながら文字を書いていく。


「まずは開会のあいさつが入って、そのあとみんなで校歌を歌います!が!君たちはまだ知らないだろうから、こういう歌なんだな~と思いながら聞いておいてくれれば大丈夫!

 その次は僕がみんなの名前を1人ずつ呼ぶから、名前を呼ばれた子は元気に返事をして立ち上がってね!

 そのあとは校長先生からのお話があって、最後は新入生代表の挨拶!

 これは療ヶりょうがさき君が担当だね!よろしくねー!」


 鳴地は一番後ろの角の席に座る青年に向かって手を振り、眠そうな目をした青年も手を振り返している。


「よし!それじゃあみんな上着を着て、廊下に出てくれるかな?

 あ!雨宮さん!雨宮さんは制服がびしょ濡れだったから、新しいの借りてきたよ!

 遅くなっちゃってごめんね…一旦こっちに着替えてもらえるかな?」


 生徒たちは雨宮を残し、廊下へ出て整列をする。


 しばらくすると、着替え終わった雨宮が教室から出てきて、列に入った。


「はーい!それじゃあ体育館へ向かいまーす!みんなちゃんとついてきてねー!」


 鳴地と生徒たちが教室棟を出ると、先ほどまでガヤガヤとしていた賑やかな声はなく

 誰も歩いていなかった。


「先生ー!さっきまで歩いていた人達みんなどこ行っちゃったんですか?」


 雨宮が鳴地に質問をする。


「みんな君たちの入学式を見るために体育館にいるんだよ!

 全校生徒が見守る式だからね!頑張ってね!」


 虎汰は多くの人間に見られるという言葉を聞き、呼吸が少し早くなった。


 多くの人間に見られる…

 きっと()()()の血液型を持つ奴もいる…


 虎汰の頭の中は黒い言葉でどんどんと埋め尽くされていき

 徐々に歩く足の感覚が鈍くなっていく。


(まずい…倒れる…)


 虎汰は一瞬よろけたが、誰かに支えられ転倒を免れた。


「だいじょぶそ?具合悪い?」


 そこには170㎝程はあるであろう高身長の青年、クラスメイトの療ヶ裂が立っていた。


「わりぃ…大丈夫…」

「吸うことより吐くことを意識してみて。ほら、せーの

 ふーーー」


 療ヶ裂の掛け声に合わせ、虎汰は大きく息を吐いた。

 何度か繰り返し、虎汰の呼吸は安定した。


「もししんどそうだったら鳴地先生に言って、入学式欠席にしてもらえないか聞いてくることもできるけど、どする?」

「いや…大丈夫だ。悪いな、助かった。」

「そっかそっか、特に入学式の席順は決まってなさそうだったから、僕が君の隣に座ろうと思うんだけど。構わないかな?」

「あぁ…心配かけて悪いな。」

「全然気にしないで~僕の家系医型だから、具合悪そうな人を支えたり助けるのは当たり前な感覚なんだよね~」


 療ヶ裂はへらへらっと笑いながら虎汰の背中をポンポンと叩いた。


 しばらく歩くと、先ほど見た体育館の大きな扉の前に着いた。


「でかすぎんだろ…」


 あまりの大きさに虎汰は声が漏れる。


「よし!それじゃあここからが本番だよ!みんな気を引き締めてね!」


 鳴地の掛け声に、生徒たちは背筋が伸びる。


「それじゃあドア開けるね」


 ドアの取っ手部分についている機械に鳴地が指をかざすと、ゆっくりと両開きのドアが開き始めた。


 ドアが開ききると、体育館の中は外よりも明るく、そして3000人の収容が可能である体育館の席はすべて埋まり

 虎汰達目掛けて大歓声が沸き起こっている。


 虎汰はあまりにも壮大な光景に一歩後ずさりをしかけたが、足に力を入れ大きく息を吐いた。


『新入生!入場!!』

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