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血に名を与えたこの世界で  作者: 錦 美和
入学式と境界線

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第4話 境界線を越えて

 大きな扉を超えた先には、ただただ広い平野が続いていた。


 この塀で囲まれているエリアは正方形なんだ。

 というのが分かるほど、扉の先には何もなく、ぐるっと四角く囲まれた塀だけが目に入る。


「校舎は…?」


 虎汰は開いた口が塞がらないでいると、雨宮と話していた男が虎汰に話しかけてきた。


「こんにちは!君は虎汰君だね!」


 自分と同じくらいの背丈の男性が虎汰の前に立ち、手を差し出してきた。


「はい…刀刃虎汰です…」


 おずおずと右手を差し出し、男性と握手を交わす。


「僕は鳴地なるち揺斗ゆうと、君たちの担任だよ!

 どうぞよろしくね」


 握手をしながらニコッと虎汰に微笑んだ。


「よろしくお願いします。」


「よし!それじゃあここで話すのもなんだから、とりあえず校舎に向かおうか!」

「あの…鳴地先生…」


 虎汰はどこか申し訳なさそうに鳴地に話しかけた。


「なんだい?」

「その…校舎に向かうって言っても、ここ何もないんですけど…」


 3人は四角く囲まれた塀の中にある、ただの平野をぐるりと見渡す。


()()にはね!大丈夫、ちゃんと連れて行ってあげるからさ!」


 ニコニコとした笑顔のまま、鳴地は赤いコートのポケットから1台のスマートフォンを取り出した。


「それじゃあお願いします~」


 ピッと電話の電源を切った瞬間、虎汰は1回だけ瞬きをした。

 その瞬き1回で、背中側にあったはずの大きな扉は消え、その代わり石でできた大きな門が聳え立っていた。


 門の奥ではガヤガヤと人が行きかっている。


「なっ…」

「えぇぇぇ!なにこれすっごーーーい!!」

「さぁ、今日から君たちが勉強する悠久学舎だよ。ようこそ!」


 2人は鳴地の後を追うように門をくぐり、敷地内に入る。


 門の中には、早朝にもかかわらず虎汰達と同じ詰襟制服を着た少年少女や

 白衣を着ている者、鳴地と同じ赤いロングコートを身に着けた者など、様々な服装をした人が歩いていた。


「あっ…あの、今のって」


 虎汰は後ろを振り返りつつ、鳴地に話しかける。


「何もない平野だったはずの場所に校舎が現れたことかい?」

「うーん…でもどちらかというと、鉄の扉があった場所に校舎が出てきたから、町が学校に変わったー!って感じだった!」

「おっ、いい視点だね。その通りだよ雨宮さん。

 塀より外側は外部、内側は校舎っていう風に塀が境界線になっているだろう?

 ()()()()()()好き放題できる人がこの学校にはいてね。

 その人にさっき電話でお願いして、君たちがいたあの敷地と校舎の門の前にある敷地をひっくり返したのさ。凄いよねぇ」

「何それ凄い!!境界線ならなんでも?!」

「うん、なんでも」


 はしゃぐ雨宮にニコッと鳴地が微笑んでいる。


「それじゃあざっとだけど、悠久学舎の建物について説明するね」


 眼前には大小さまざまな建物が並んでいる。

 基本的にはすべて木造で瓦屋根を乗せた日本らしい建物だ。


 虎汰の家も純和風な家であるため、どことなく見慣れた風景にほっとしている。


「まず、門をくぐり抜けて真正面にあるこの大きな建物は教室棟

 みんなが授業を受ける時に使うよ。

 普通の教室だけじゃなくて、音楽室とか化学室とか

 そういう特殊な教室も沢山あるから、場所を覚えられるように頑張ってね」


 3人は教室棟を後にし、門を入って右側へ進んでいく。


「あっちの奥にあるのが体育館。ここから少し距離があるからそんなに大きく見えないかもだけど、収容人数は3000人と中々な規模の体育館なんだ。

 今日、この後君たちが出る入学式はあそこでやるからね。」

「3000人…鳴地先生、この学校って生徒は何人いるんですか…?」

「うーん。生徒っていう概念が少しばかり難しいから何とも言えないけれど

 授業を受ける対象年齢の、15歳から21歳までの子は君達合わせて大体100人ちょっとかなぁ…

 この学校にいるのは生徒と呼ばれる子たちだけじゃなくて、血液型に関する研究をしている研究員や僕達みたいな先生、他にもこの敷地内で生計を立てている人も沢山いるから、そういう人たちを全部ひっくるめると、3000人どころじゃないんだけどね~。

 ただまぁ、体育館は休日スポーツの試合とかに使われたりするから

 そういう用途も含めて収容人数は3000人って感じかな!」


「この中で生活している人がいるの?!えっえっ外は?!私たちがいたところには行かないっていう人もいるの?!」

「そうだね、ここで生まれてここで死んでいく人もいるよ。

 そういったことも含めて、君たちはたくさんの事をここで学んでいってね!」


 虎汰は雨宮と鳴地が話している間、自分の父の事を思い出した。


「あの…刀刃蛍慈(けいじ)って知ってますか?

 俺の父親で、ここで働いていることは知っているんですが

 何をしているのか知らなくて…1年に1度しか会えていないので、もし父がいるなら話したいなと…思いまして…」


 虎汰は話しながら段々と目線が下に落ちていく。


「あ…いや、何でもないです。」


「知ってるよ。大丈夫、虎汰君も雨宮さんもきっと近々会うことになるから、それまでのお楽しみってことにしておこう!」


 鳴地はぽんぽんと虎汰の肩を叩いた。


「よし!それじゃあ次行ってみよう!」


 3人は教室棟の前まで戻り、門から入って今度は左側へ向かう。


 まっすぐ歩いていると、右手の奥側に「悠久学舎」と書かれた看板が乗った建物が見える。


「あそこの建物は管理棟。分かりやすく言うと駅舎だね。今後毎日使うことになるから、嫌でも場所は覚えると思うけど、とりあえず紹介ってことで!

 それと、駅舎からちょっと離れた場所にあるのは食堂とコンビニ。

 基本24時間365日やってるけど、寮にはキッチンついてるから、元気があったら自炊してみてね!」


 3人は駅舎を目視し、そのまま教室棟へ戻り大きな扉をくぐって中へ入っていく。


「君達は1年生だから、教室は1階だよ。」


 教室棟の扉を抜けてすぐの教室の前で3人は立ち止まった。


「基本的にはこの教室で授業を受けてもらうからね。

 それじゃあ中に入ろうか」


 ガラガラガラ


 鳴地が教室のドアを開けると、14個の机と椅子が並び

 大きな黒板と教卓が置いてあるいたって普通の教室が広がっていた。


「わぁーー!すごーーい!これが教室ーーーー!」


 雨宮はバタバタと教室の中を走り回っている。


「先生!私の席はー?!」

「元気いっぱいだね!席は決まってないから好きなところに座っていいよ」

「やったーー!」

「それじゃあ入学式は9時からだけど、8時半にまた僕がここに戻ってきて、式の流れについて説明するから

 それまでには教室に戻ってきておいてね、じゃあ僕は他の子たちのお迎えがあるから一旦失礼するね。」


 鳴地はヒラヒラと手を振り、教室を出ていった。


「ねぇねぇどこに座る?!どこに座るー?!」


 雨宮は初めて見る机と椅子に興奮が収まらない様子だ。


「別にどこでもいいだろ…。」


 虎汰は近くにあった椅子に座り、荷物を机の上に置いた。


「ん…?」


 虎汰は自分が座った机の横に誰かのカバンがかかっているのを見つけた。


「そこは俺の席だ。カバンが掛けてあるのが見えないのか。」


 声がした教室のドアをふと見ると、青緑色の髪の毛をツーブロックにした目つきが鋭い青年が立っていた。


「あぁ??」

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