第20話 血力の流れ
「もう1度行きますわーー!!」
宝然は三つ編みを揺らしながら、スマートフォンを握りしめた。
「が、がんばれ宝然さん…!」
その姿を古室はじっと見つめ応援している。
「ふんっ…ぐぐぐっ……っっっ……無理ですわーーーー!」
宝然はがっくりと肩を落としている。
「古室さんはすんなりと起動させていて凄いですわ…わたくしには無理な気しかしませんのに…」
はぁと大きくため息をついている。
「ぼ、僕、朱式術の強さでいうとすっごく弱いんだ…だからスマホを起動させるさせないっていうのは強さじゃないんだと思うんだ…」
古室はじっとスマホを見つめ、少しだけ親指に力を入れると
ポーンと音を鳴らし、スマートフォンの画面が明るくなった。
「ほら、ね」
少し恥ずかしそうに宝然に微笑んだ。
「凄いですわーーー!コツを教えて欲しいですわ!!」
宝然はぐいっと近づき、きらきらと輝く髪の毛を揺らしながら宝石のように光る瞳で見つめ、古室は少し顔が赤くなっている。
「え、えっとね…僕の地型と、宝然さんの石型は、血力が足から生み出されているから
足に意識を集中してしまうかもしれないけど、
血力が生まれる場所が足なだけで、術を発動するのは指先なんだ。
だからもっと全体を俯瞰してみるというか…
足から指先にかけて血力が流れるのをイメージしてみたら、もしかしたらうまくいくかも…!」
「俯瞰して見る…分かりましたわ!!」
宝然は静かにスマートフォンを握り、ゆっくりと目を閉じた。
ふーっと息を吐き、先ほどまで足に集中していた意識を足から指先へと広くしていく。
角ばった形の血力が、コロコロと転がるように足から指先へ向かって流れていく。
じわじわと指先に集まった血力を、親指から出力するようにそっと力を入れる。
ポーン
宝然が目を開くと、画面が起動したスマートフォンが手に納まっていた。
「で、できましたわーーーー!!」
宝然は三つ編みを大きく揺らしながらぴょんぴょんと跳ね、古室の両手を掴んだ。
「ありがとうございますわ!!古室さんのおかげで起動できましたわーーー!」
「ぼ、僕はアドバイスしただけで…おめでとう宝然さん!」
古室は恥ずかしそうに頭をかいていた。
「起動できんな!!」
「ぜ…全然うまくいかないね…」
「まずいっすよー!食型誰1人できてないっすーー!」
食型の3名、菌誠、酵全、粉粒は未だ1人もスマートフォンを起動することができず
頭を抱えていた。
わしわしと頭を掻きむしる粉粒の肩を1人の少女が突っついた。
「あ、あの…!お手伝いしに来ました…!」
「およ?」
粉粒が振り返ると、ツインテールをぽよぽよと揺らしながら、少し恥ずかしそうにしている十薬が立っていた。
「と、十薬千草です!みなさんのお手伝いが出来ればと思いまして…!あのっ…」
十薬はツインテールを両手で掴み、顔を隠した。
「おぉ!医型の!!それは助かる!!」
「ひょ…ひょぇぇぇ…」
菌誠はガタイの良さと身長の高さが相まって、壁のように十薬の前に立ちふさがった。
「け、建造…そんな急に立ち上がったら大きくてびっくりしちゃう…」
酵全がぐいぐいと菌誠の体操服を引っ張っている。
「おぉ!そうだな!すまん!がっはっは」
菌誠は大きな声で笑っている。
「みなさんは食型ですよね…?」
「そうっすー!」
「であれば…血力は胃から出るから…えっと…どこやったかな…」
十薬は肩から掛けた大きなカバンをガサガサと漁り始める。
「あ!あった!あの、もしよかったらこれ飲んでください!」
十薬はカバンから、白色の液体が入った小さな小瓶を3つ取り出した。
「おう!」
菌誠は小瓶を受け取るやいなや、即座にふたを開け飲み干した。
「け…建造?!」
突然渡された謎の小瓶を、何のためらいもなく飲み干した菌誠を見て酵全は目を丸くして驚いている。
「うむ、うまい!!」
「の…飲みやすいように牛乳の味に近づけてて…」
「色々ある中で牛乳の味ってまた面白いっすね!」
「穀実ちゃんも?!」
粉粒も液体を飲み干し、舌なめずりしながらおいしそうな顔をしている。
「だ、大丈夫です…!ちゃんとしたお薬で変な物じゃないです!!」
「有奈も飲んでみろ!面白いぞ!」
「えっ…えぇ…」
酵全はビクビクしながら十薬から小瓶を受け取り、液体を1口飲んだ。
舌に触れると、ほのかな甘みがふわっと広がった。
「お…おいしい…」
酵全は目をキラキラとさせながら、小瓶の液体を飲み干した。
「こ…これって…」
液体を飲み干して少しすると、先ほどまで感じていた血力の流れがより明確にはっきりと見えるようになった。
「このお薬は治療薬ではなく、血力の流れを可視化するためのものなんです…」
十薬はもじもじしながら続ける。
「自身の血力の流れをより鮮明に見てみたいって時にも使えるお薬で…
これは体に直接何か及ぼすものじゃないから、お医者さんの診察が無くても渡すことができるんです…!」
十薬は自身の両手を握りしめ、力説をした。
「うむ、なんとなく胃の中でモヤモヤしていた物が、はっきりと輪郭を帯びて感じるようになったな!」
「良かった…!え、えっと、それでそのモヤモヤが指に向かって流れるのをイメージするんだけど…
食型の人は指先より掌全体に血力を流すイメージの方が掴みやすいって言われてます…!
なので、印血は親指だけでも使えますが、掌全体で印血を使用するイメージで血力の流れを掴んでみてください…!」
「わかったっす!!」
3人は十薬に言われた通り、掌全体で印血を使用するイメージを頭で想像しながら、血力を流していく。
ポーン
「起動したな!!」
「き…起動した…!」
「なんでっすかーーー!!」
菌誠と酵全はスマートフォンを起動できたが、粉粒だけ起動できなかった。
「2人も先に帰らないで欲しいっすーー!付き合ってほしいっすーー!」
粉粒は酵全の足にしがみつき、べそべそと泣いている。
「だ、大丈夫だよ穀実ちゃん…!置いてったりしないよ!」
「当たり前だ!それにオレ達もまだコツを掴んだだけで、薬が無い状態での起動はできていないからな。十薬、この薬はあとどれくらい効果がある?」
「えっと…あと30分くらいで切れちゃいます…!」
「うむ!であれば30分後にまた改めてオレ達も無詠唱で印血が使えるか試さねばなるまい!」
菌誠は腕を組み大きな声で笑っている。
「30分っすね!!それまでにあたしも無詠唱で印血使えるように頑張るっす!!千草っち!ありがとうっすーー!!」
「お、お役に立てたみたいで良かったです!」
十薬はツインテールを揺らしながらニコッと微笑んだ。
「刀刃ちげぇって!!
だから!ぐわーーってなって、ごぉおーー!だ!!」
「だから分かんねぇつってんだろ!!」
「玻璃田はこの説明でできたじゃねーか!」
「知るか!!!!」




