第2話 かわいそう!
入学日という門出に似合わない土砂降りに、虎汰は少しばかりテレビの占いを恨んでいた。
おろしたてのマントまで汚し、今起きている不運の原因が目の前の少女だと理解すると
虎汰は名前を聞いただけでくるりと向きを変え、学校へ向かって歩き出した。
「えっえっえっ!!ちょっと待ってちょっと待って!!君の名前は?!私自己紹介したよ?!」
雨宮と名乗る少女は、歩く虎汰に駆け寄り、傘の中をのぞく。
「うるせぇ」
虎汰は傘を覗いてきた雨宮をギロリと睨みつけた。
「なんで怒ってるの?!転ばせたこと?!ごめんなさい!!
初めての外でテンション上がっちゃって…
ほ、ほら!今日って午前中は悠久学舎に入学する人以外、外出禁止じゃん…?
だから人見つけてテンション上がっちゃって!!」
雨宮は、青みがかった肩につくかつかないか程の長さの髪の毛を撫でるように、後頭部に手を当てている。
「初めて…?」
虎汰は外に出たことがないと言う雨宮を不思議がり、足を止めた。
「お前小学校、中学校は?」
くるりと向きを変え、雨宮の方を向く。
「行ってない…えへへ」
雨宮は少し困ったような顔をしながら笑っている。
「刀刃」
「え?」
「刀刃虎汰。俺の名前。」
虎汰は雨宮に自己紹介をし、ふんっと鼻を鳴らして向きを変え
スタスタと歩き始めた。
「虎汰君!わぁ!いい名前だね!」
雨宮はぱぁっと顔が晴れ、先を行く虎汰に駆け寄った。
ザァァァァァ
少しばかりではあるが、弱まった雨の中
虎汰と雨宮は並んで歩き、学校を目指す。
「これ、お前の朱式術なんだろ?」
虎汰は空を指差す。
「うん!大正解!」
雨宮は相も変わらず頭からつま先までびしょ濡れになりながら
笑顔で答えた。
(朱式術…自分の血液と、血力を使って使用する術…
俺の血力じゃ、こんな広範囲で術を発動するなんて無理だ。
レベルが違いすぎる…
俺はこんな奴がいる学校で本当にやっていけんのか?)
虎汰は笑顔の雨宮から視線をずらし、どこまでも続いている真っ黒な雨雲を見上げている。
「今まで生きてきて雨を朱式術で降らせるなんて聞いたことねぇんだけど。」
渋い顔をしながら空を見上げる。
「えーっとね…」
雨宮は雨に濡れて分からないが、額に汗をかいている。
少しうつむき考えたのち、パッと顔を上げた。
「さ、さっきも言ったけど私外出るの初めてだから!!」
顔を赤くした雨宮は「きゃー」と言いながら手で顔を覆い隠している。
「な…なんだよ…」
急な叫び声に圧倒され、半歩雨宮から遠ざかった。
「いや…ほらだってだって義務教育受けてないなんてめちゃくちゃ変な子って思われちゃうなって!!」
「別に変じゃねぇよ…そういう家もあんだろ。」
虎汰はそんなことかと大きくため息をつく。
「えぇえええ!?ほんとに?!よかったーー!」
雨宮は満面の笑みでジャンプして喜んでいる。
「忙しいやつだなお前…」
「そういえば虎汰君の血液型って何なの?」
今日の朝見た夢を思い出し、番傘を握る手に力が入る。
「どしたの虎汰君」
雨宮は傘の中をひょいっと覗くと、虎汰は下唇を噛んでいた。
「あっあっあっ!ごめんね!普通自分から言うべきだよね!
私の血液型は呪術型!家系血は雨乞!!」
雨宮は虎汰の前に躍り出て、雨が降る中万歳をしながら自身の血液型を伝えた。
「俺は…」
虎汰は言葉を少し詰まらせる。
「…刀型。家系血は……打刀…」
地面を見つめながら答えた。
「えぇえええぇぇえ?!!刀型ぁあ!?!?」
雨宮が突然大きな声を出し、虎汰はびくっとしながら雨宮を見た。
脳裏には今朝の夢だけではなく、今まで受けてきた様々な罵詈雑言がフラッシュバックし始める。
「気持ち悪ーい!」
「今の時代刀なんて持つ奴いねぇのにお高くとまりやがって」
「きったねぇ血!」
虎汰はぎゅっと目をつむり、雨宮からどんな言葉が飛び出しても
慣れいるから大丈夫と自分に言い聞かせる。
「今日占い最下位だった血液型じゃん!!」
雨宮の叫び声に虎汰は目を丸くしてキョトンとしている。
「かわいそう!!いいことあるといいね!」
満面の笑みで、虎汰に親指を立てている。
「それだけか…?」
「何が?」
「刀型についての感想それだけか…?」
虎汰は想像していなかった言葉をかけられて困惑している。
「それだけ…?んー、かっこいいね!刀作れるの?!」
自分に向けて攻められる言葉が飛んでこないことに混乱していた。
「そうか…」
混乱しつつも雨宮の言葉を一旦飲み込んだ。
「これからよろしくね!虎汰君!」
「あぁ…よろしくな…」




