第18話 無詠唱の第一歩
スマートフォンを起動するだけ。
それだけのことが、無詠唱でできなければ帰れない。
虎汰達の顔が引きつる。
「それじゃあまずは、18歳未満の人が本当に無詠唱で朱式術って使えるの?
っていう疑問を払しょくするために、療ヶ裂君と十薬さんにスマートフォンを起動してもらおうかな!」
鳴地に言われ、2人は体操着のポケットからスマートフォンを取り出し、電源ボタンに親指を当てた。
本来ならここで「印血」と唱える。
それだけでスマートフォンは起動する。
だが――今日は、それが許されない。
ポーン
高い起動音とともに、画面が光る。
スマートフォンの画面を向けられた虎汰達はざわついた。
「はい!できることは証明されたのでみんなもやってみよー!」
鳴地は意気揚々と片手を高く上げた。
しかし体育館はシンと静まり返り、誰1人として動こうとする者はいなかった。
それもそのはずであり、今まで補助輪ありきで自転車に乗れていた人間が
突然一輪車でまっすぐ進めと言われているようなものだからである。
「まぁ、突然やってみよー!って言われても無理なのはわかっていたので、まずは血液型にチーム分けします!」
鳴地は笑顔のまま両手を打ち付けパチンと手を鳴らした。
「まずは地型チーム!古室さん、宝然さん、こっちへ!」
鳴地は自身の近くに古室と宝然を近づかせる。
「お待ちくださいませ!わたくし、石型ですわ…!」
宝然は慌てながら鳴地に自身の血液型の説明をする。
「ごめんごめん!宝然さんと同じ石型の血液型を持つ子は癸丑にはいないから、地型チームに入ってもらうよ!
この中では一番石型と近い血液型をしているからね」
「血液型が近い…んですか…?」
古室はなぜか申し訳なさそうに鳴地に質問をする。
「うん!でもその質問の答えは後で教えてあげるからちょっと待っててね!」
鳴地は2人を残し、他の生徒のところへ向かっていった。
「それじゃあ酵全さんと粉粒さん、菌誠君は3人とも食型だから同じチームでよろしくね!」
鳴地は3人を近づけた。
入学式から仲良くなっている3人は楽しそうに話し始めた。
「じゃあ次は雨宮さんと蠱邑さん!」
鳴地は2人の名前を呼んで手招きをする。
「2人で呪術型のチームだからね!仲良くしてね~」
「当たり前。我、優しい。素晴らしく。」
蠱邑は無表情のまま右目にピースを当てている。
「蠱邑ちゃんと一緒で嬉しー!」
雨宮は先ほどまで少し疲れた表情をしていたが、蠱邑と一緒のチームなのが嬉しかったのか、蠱邑に抱き着き喜んでいる。
「それじゃあ最後は精製チームだね、錫成君、玻璃田君、刀刃君!」
残りの3人が鳴地の元に駆け寄った。
「刀刃君は宝然さんと同じで、他に同じ血液型の子がいないから一番近い精製型チームに入ってもらうからよろしくね!」
「はい、わかりました。」
虎汰はこくんと頷いた。
「それじゃあそれぞれのチームに分かれたね!」
鳴地はチームごとにまとまっている生徒達に向かって話し始める。
「まず初めに、グループごとに術を使っている最中の血流を感じ取ってもらいます!」
鳴地は地型のグループに入り、手をあげた。
「グループの中で1人術を使用する人を決めてね。このチームでは僕が術を使います!」
赤いロングコートの袖をグイっとまくり上げ、両腕を宝然と古室の前に差し出した。
「今から始めるのは、あくまで血流を感じるというのが目的だから、朱式術を唱えた上で印血を使ってもらいたいんだけど、術を唱えていない残りの人は、術を唱えている人の手首に人差し指と中指を当てて、脈を感じ取ってね」
無詠唱で印血を唱えたのか、鳴地の指先からじわじわと血が滲み出始めた。
「血の出力は最弱で大丈夫。
この時の脈を読み取ったら目を閉じて集中して、自身の指先から血がどうやって体を巡っているのか読み取ってね。
最初は脈が大きく感じて分かりづらいかもしれないけれど、目を閉じて流れを掴めれば、みんなある場所へつながっていることが分かるようになるはずだから、まずはそこにたどり着けるよう頑張ってみよう!
そこにたどり着けたら、術を唱える人を交換して、全員が血流を読み取れたら手をあげて僕を呼んでね!
医型の2人は各チームを見て回ってもらうから、コツがつかめないとかあったら遠慮なく2人に聞いてみてね!
それじゃあ開始ー!」
鳴地の開始の合図とともに、各チームで誰が術を発動するか相談をし始め
体育館内がざわざわとし始めた。
虎汰のチームでも誰が術を発動するかという話が始まり、虎汰が手を小さく上げた。
「俺は2人は型がちげぇから、血流の参考にならねぇと思う。
だから錫成か玻璃田どっちかが術の発動をした方がいいかもしんねぇわ…」
虎汰は自分の掌を見つめ、握ったり開いたりしている。
「全然おっけー!そしたら俺が術発動するから任せろ!
小さい頃から術使い倒してるから、術の持続力なら誰にも負けねぇ自信がある!」
錫成は小柄な体で得意げにぴょこぴょこと跳ねている。
玻璃田は錫成の申し出に感謝をしつつ、質問を投げかける。
「助かる。術は片腕ずつの方がいいか?」
「いやいや!両腕いっちゃうよ~!」
錫成は肩に手を当てブンブンと腕を回している
「ほらよ!」
ずいっと錫成は虎汰と玻璃田の前に両腕を差し出し、
2人は人差し指と中指を錫成の手首に当てる。
「印血!」
錫成が笑顔で術を唱えると、錫成の手首に当てている虎汰の指先はうっすらと温かさを感じた。
―トクン トクン
指先に、確かな鼓動。
虎汰は目を閉じた。
―トクン トクン トットットットッ
血の流れに意識を沈めると、指先から血が流れる音が聞こえてくる。
闇の奥に、赤い靄が浮かぶ。
(これだ)
血ではない。
もうひとつの流れ。
――血力。
だが、それはまだ輪郭のない感覚だった。
手首の血管に血力が流れているのは分かったが、腕や胸まで流れている血力にたどり着かない。
虎汰の指と眉間に力が入る。
(どうすればいい)
視野の広げ方に苦戦している虎汰の肩に誰か両手を置いた。
「力抜いて、はいリラーックス。」
ふぅーーと息を吐くようにと男の声が指示を出す。
虎汰は目を閉じたままふぅーっと息を吐く。
少し間を置き、改めて指先に集中する。
すると、先ほどまではどんなに集中しても手首しか感じ取れなかった血力の流れが一気に広がり、全身を巡る流れが見える。
広がった視野から絞るように、血力の流れに集中する。
心臓から、血が放たれていく。
でも血力のスタート地点は違う。
もっと体の中央。
少し右寄り。
「……肝臓だ。」
虎汰はぷはっと大きく息を吐き目を開くと、背後に療ヶ裂が立っていた。
「やぁ、こたちー」




