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血に名を与えたこの世界で  作者: 錦 美和
境界線の内側

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第17話 ルールの外側

 虎汰は雨宮を残し、校舎から出てあたりをキョロキョロ見渡していると、1人の女性から声をかけられた。


「あれ?刀刃君?どしたのー?」

「岩城先輩。お疲れ様です。」

「やーやー!お疲れさまだよー!刀刃君1人?」

「あ、はい…

 急に岩城先輩に言う話じゃないかもしれないんですけど…」


 虎汰は申し訳なさそうに話し始めると、ニコニコしていた岩城の表情は心配そうな表情に変わった。


「さっき…雨宮が絹織に詰められて。

 それで、ちょっと……様子がおかしくて。

 水、探してました。」

「絹織がー?!」


 心配そうな表情をしていた岩城は、急にほっぺを膨らまして怒り始めた。


「絹織知ってるんですか?」

「知ってるも何も…」


 岩城は何かを言いかけて口をつぐんだ。


「んー…えっと…ほら君達の入学歓迎会の日覚えてる?」

「あ、そういえば」

「そうそう!その時話しかけに来たからよく覚えてるの!

 それにしても雨宮ちゃんに急に威圧的態度取るのは許せないね!」

「はい…雨宮はただ学校来る道に迷ったっていうだけなのに…」

「私からも今度強く言っておく!教えてくれてありがとうね!刀刃君!」


 岩城は虎汰の両手をがしっと掴み、ぐっと引き寄せた。


「教えてくれてありがとね!」


 その距離の近さに、虎汰の耳が一気に熱を持つ。


「あ、そういえば自販機だよね?そこの道曲がったとこにあるよ!

 一緒に行ってあげたいところなんだけど、また層縁先生に怒られそうな感じで急がなくちゃいけなくて…」

「あ、いえ!むしろお忙しいところ話聞いてくれてありがとうございました」

「うんうん!それじゃあまたね!授業頑張ってー!」


 岩城は虎汰に大きく手を振りながら、どこかへ行ってしまった。


 虎汰は岩城から教えてもらった自動販売機で水を買い、雨宮のところへ戻ると、雨宮は俯き、かすかに唇を動かしている。


「……まだ、足りない……」

 その声は、誰に向けられたものでもないようだった。


「雨宮、大丈夫か?」


「…。はっ!」


 虎汰が雨宮に話しかけると、いつもの表情でパッと顔をあげた。


「ごめん!めちゃくちゃ考え事しちゃってた…!わ!お水!ありがと~」


 雨宮は虎汰から水を受け取り、1口飲んだ。


「さっきのことか?」

「入学通知書、見せてもらえない家って……

 ……やっぱ“信用されてない”ってことだよね。」


 雨宮は「えへへ」と笑いながらも、表情は暗い。


「……そういう話じゃねぇだろ。

 いろんな家があるだけだ。」


 虎汰は雨宮の隣に並び、壁に寄りかかった。


「俺も“変な血”って言われてきた。

 周りと違うって、嫌だよな。

 でも、この学校にいるやつらは普通とは違う奴らばっかだろ。」


 虎汰は手をグーにし、雨宮に向けた。


「…。うん!!」


 雨宮は満面の笑みで虎汰の拳に自分の拳を当てた。


「えっへへ!ありがとう虎汰君!」


 少しの間休憩した後、2人は体育館へ向かった。


 2人が体育館に着くと、入学式の時とは違い

 反響する足音。


 がらんとした体育館の中央、

 ぽつんと置かれたホワイトボードの前に鳴地が立っていた。


 鳴地が途中で気が付き2人に手を振ると、ホワイトボード前に体育座りをしていた生徒達が一斉に虎汰達の方を向く。


「2人も大丈夫かい?」


 鳴地は2人に駆け寄ってきた。


「はい。俺は問題ないんですが…」


 虎汰は雨宮をチラッと見る。


「わっ、私も大丈夫!」


 雨宮は慌てた表情でわたわたとしている。


「そっか、それならよかった。もし途中で具合悪くなったら遠慮なく言ってね、それじゃあみんなのところに行こっか」


 2人は鳴地についていき、生徒たちの輪に入った。


「よし!それじゃあみんな揃ったところで、今日の授業について説明します!」


 鳴地は絵が描かれたホワイトボードを、手に持っているペンでコンコンと叩いた。


「それじゃあまず朱式術を使うにあたって必要な行動についてだけど…」


 自身の前に座る生徒達をぐるっと見渡す。


「はい、じゃあ宝然さん。朱式術を使うときには何をしますか?」


 笑顔で宝然にペンを向ける。


「何をする…ですか?えーっと…術を唱えるとかでしょうか…?」


 宝然は考えながら恐る恐る答えた。


「正解!」


 鳴地は笑顔で拍手をしている。


「それじゃあ術を唱えなくても良い人がいますが、どんな人でしょうか?

 それじゃあ…玻璃田君!」


 背筋をまっすぐと伸ばして体育座りをしていた玻璃田は、姿勢を崩すことなく単調に答えた。


()()()()()()()()()を終了した18歳以上の成人です。」


「正解!それじゃあそのまま玻璃田君にもう1個質問!どうして18歳を超えた成人以外は術を唱えて使用しなければならないのでしょうか?」


 玻璃田はきょとんとしながら答えた。


「それが()()()だからです。」


 玻璃田以外の生徒達も、一部の生徒を除き今更何を言っているのだろうという顔をしている。


「またまた大正解」


 鳴地は解答した内容をホワイトボードに書き並べていく。


「それじゃあ今答えてもらった内容だけど

 ①詠唱は必須。

 ②無詠唱は十八歳以上。

 ③理由は“ルール”。

 こんな感じだね。

 じゃあ、もし唱えずに朱式術を使ったらどうなるかな?

 古室君!」


 古室は小さな体をびくっとさせた。


「え…えっと…逮捕される…」

「正解!だけどもう1個!

 術はうまく発動…?」


 鳴地は古室に誘導するように質問を続ける


「できない…です!」

「大正解~!」


 鳴地はホワイトボードに文字を書いていく。


「④術を唱えずに使用した場合はうまく発動されず、尚且つ逮捕される…と…」


 カチッという音を体育館に響かせながら、ペンのふたをしめる。


「この四つ、全部覚えてきたと思うけど――」


 鳴地はにこりと笑った。


「この学校では、全部いりません!!」


 鳴地は書き終えた文字の上に、赤色のペンで大きくバツ印を書き、体育館がざわついた。


「先生!」


 ざわつく声の中、1人の少年が手をあげた。


「はい、錫成君どうぞ!」

「まぁ学校内だから特例でおっけーなのかなっていうのがなんとなーく分かるんですけど、そもそも成人を迎えていない人は血量や血力が足りないから、無詠唱じゃろくな術が唱えられないって親父からも聞いてたんですけど、そんなことないんですか?」

「いい質問だね錫成君!」


 鳴地は嬉しそうに説明を始めた。


「お父さんが言っていたことは嘘じゃないし、なんなら事実!

 僕たちの体の中に巡る血液と血力の量は年齢とともに増加していって、最終的に18歳のタイミングで人生最大の血液と血力の量を持てるというのがセオリーなんだ。

 でも、少ない血液と血力だったとしても、術そのものの精度をあげて、

より自身に流れる血液を正しく把握することができれば、たとえ18歳にならなかったとしても、無詠唱でクオリティの高い朱式術を使用することができるんだ。」


 鳴地の説明を聞きながら、虎汰は入学式が終わった後のパーティーで、療ヶ裂に診察された時のことを思い出していた。


(やっぱりあいつ…無詠唱で朱式術使ってたんだ…)


 虎汰は端っこで眠そうにあくびをしている療ヶ裂の方を見ている。


「と、いう訳でここからは無詠唱で術が唱えられるようになるための実践授業を行います!療ヶ裂君、十薬さん前へ!」


 鳴地の掛け声に合わせて2人は立ち上がり、生徒たちの前へ歩いて行った。

 鳴地は2人の肩にぽんと手を乗せ続ける。


「この2人にサポートで入ってもらいながら、今日は無詠唱で自身のスマートフォンを起動できた人から帰ってOKにします!

 早く起動できれば早く帰れるし、起動できなければ今日は寮には帰れません!」


 鳴地は満面の笑みを生徒達に向けた。

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