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血に名を与えたこの世界で  作者: 錦 美和
境界線の内側

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第15話 淘汰

「まず初めに、お前らの血液型についてだ。順繰りに左前から自分の血液型を言っていけ。」


層縁は左最前に座っている玻璃田を指差した。


「精製型です。」


玻璃田は簡潔に言い、視線を正面に戻した。


「俺も精製型ー!」


錫成が軽く手を挙げる。


「わたくしは石型ですわ!」


宝然は背筋を伸ばしたまま、誇るように名乗った。


「次。」


層縁は次の列の最前に座る雨宮と目を合わせる。


「呪術型ー!」

「刀型。」


2列目最後列の古室は、層縁から目を逸らせずにいた。


「地型です…!」


声はわずかに上ずっている。


「次。」

「食型っすー!」

「わ…私も食型…」

「オレも食型だ!」

「我。呪術型。」


「次。」

「う…うちは織型です!」

「僕もちりちゃんとおんなじ織型~」

「わ…私は医型です…!」

「僕も医型~」


全員が血液型を言い終わると、層縁は鼻から大きく息を吐いた。


「このクラスの中だけでも、同じ血液型の奴らが複数いたな。

ちなみに俺は地型で古室と同じだ。」


層縁は古室と目を合わせ、古室は緊張から背筋がまっすぐに伸びる。


「さて、この血液型は何年前から存在するか。蠱邑。」

「中国4000年の歴史。」


蠱邑は、姿勢を崩さぬまま右手を前に出し、ピースをした。


「だが…」

「でも…。」


層縁がしゃべるのを遮るように蠱邑が続ける。


「長い歴史大枠の血液型だけ。血统シュエントンシュエ

お前ら言う家系血は無限。

血、種類、歴史長短――さまざま。」


層縁は蠱邑の回答を聞き、少しばかり口角が上がった。


「良い解答だ蠱邑。お前らがさっき言った血液型は蠱邑が言った通り長い歴史を持っている。

蠱邑は4000年と言ったが、大枠の血液型自体は人類が産まれた時から存在している。

ただし、家系血は別だ。

その時代その時代で新たな文化や物が産まれる時、新たな家系血が産まれるとされている。

ここ最近は新しい家系血は見つかってないがな。」


層縁は黒板に寄りかかり、腕を組む。


「つまりお前らの血液型は時代や文化を代表する価値ある血液型ということになる。」


鋭い目つきで生徒達を睨んだ。


「だからお前らは守られるべき対象としてこの悠久学舎に入ったわけだが…

楽しい朱式術を使った授業だけやってればいいわけじゃねぇ。

お前らにとっては、聞きたくない歴史も正しく知らなければならない。

それは家系血を持って産まれたお前らの()()だ。」


教室の空気が、重く沈んだ。


虎汰達は層縁の低く響く声に背筋が凍る。

ただただまっすぐ前を見ながら、層縁の声に耳を傾ける。


「お前らが中学までに叩きこまれてきた日本の歴史があるはずだ。

刀刃。」


層縁から名前を呼ばれた虎汰はびくっと体を強張らせた。


「お前の血液型に近しい血液型で、()()()()()()()があるな。」


虎汰は喉を鳴らし、唾を飲み込む。

指先がじっとりと湿っているのが分かった。


「さ…侍型…。」

「そうだ。侍型の血液型を持つ侍は、明治時代に淘汰された。侍型は武闘系ゆえ、流派ごとに家系血を持つ特殊な血液型だった。かつては、相当数が存在していた。

だが今は一部、剣道の師範として職に就いている者を除けば、ほぼ消えた。

200万人近くいた侍が数十人まで減ったということだ。」


教室の空気が、ピンと張りつめた。


「これがどういうことか分かるか、絹織。」


層縁はぼけーっと外を見ていた絹織を名指しし、びくっとした絹織が答える。


「その時代や文化が変われば、当たり前やった血液型でも大枠から消えるっちゅーことでしょか」

「その通りだ。

ちなみに侍型の血液保持者もこの学校には以前までいたそうだ。

だが、時代背景含めて保全対象から外れ、現在は学校内に侍型の血液型を持つ()()はいない。

…。古室。」


層縁は手をあげた古室を指さした。


「生徒はいない…ということは生徒ではない形でいるということですか…?」

「鋭いな。」


層縁は一拍置いた。


「……あぁ、いる。」


クラスが一瞬ざわついた。


「だが――誰がその血液型をもって何をしているかは言えん。お前らも知る必要はない。」


その後も授業は続いた。

家系血保持者の世界人口比。

血液型誕生の時代背景。

同型保持者の世界規模の人数。

だが虎汰の頭に入ってきたのは、そのどれでもなかった。


ゴーンゴーンゴーン


「もう終わりか。」


授業終了の合図である鐘の音が、大きく鳴り響いている。


「今日の授業はここまでとする。遅刻した5名は明日までに自分の家系血の歴史についてまとめたレポート3枚持ってこい。持ってこなかったら成績はなくなると思え。以上。」


層縁はそう言い残すと、足早に教室を出た。


「まじかよーー!」

「まじっすかーー!」


錫成と粉粒の声が教室に響き渡った。


「次の授業は朱式術の授業だってー!早く体育館行こうよ虎汰君!」


雨宮の明るい声が響く。


だが虎汰の耳には、まだ“淘汰”という言葉が残響していた。


虎汰は体操着の入った袋を持ち、教室を出ようとしている。


「お前体操着は?」

「体操着?」


雨宮は「何それ?」という表情をしている。


「スマートフォンの時間割見てねぇのか…?今日の授業に必要な持ち物とか書いてあったろ。

印血。」


虎汰はスマートフォンを起動し、雨宮に画面を見せる。


「ほら。」


表示された画面には、時間割の横に持ち物が書かれた表が表示されている。


「えぇぇえ何それ知らない!持ち物見れるの?!」


雨宮は虎汰のスマホをガシッと掴む。


「体操着持ってきてないよぉー!」


雨宮がショックを受けていると、後ろから1人の少女が声をかけてきた


「なぁなぁ雨宮さん、体操着忘れたんやったら私の貸したげよっか?」

「えっと…丹朱さん…だっけ?」

「わっ!覚えててくれたん?嬉しいわぁ!」


紫色の艶やかな髪色をした少女は、後頭部下の方にまとめられている2つのお団子を揺らしながら喜んでいる。


「なんやちりちゃん、体操着2着も持ってたん?」


後ろから虎汰と同じくらいの背丈の青年が話しかけてくる。


「あ、絹織。も~うちのことは気にせんと先行ってて言うたやんか」

「ええやんけ別に。おっ、虎汰君やんな、ちゃんと挨拶するんは初めましてやな。僕は絹織きぬおり つづり。よろしゅーな。」


絹織は虎汰と握手を交わした。


「お前学校にアクセサリーとか着けてきてんのかよ。」


虎汰は握手した絹織の右腕に、ミサンガが付いているのを見つけた。


「めざとい子やなぁ。」


絹織は一瞬だけ、笑っていない目で虎汰を見た。


「ええやんか~。先生には内緒にしたってな?」


絹織はニカッと笑いながら、ミサンガを袖で隠す。

その指先の動きは、妙に慣れていた。


「なんか胡散臭いやつ…」

「虎汰君聞こえてるよ?!なんでそんな酷いこと言うん?!」


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