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血に名を与えたこの世界で  作者: 錦 美和
境界線の内側

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12/20

第12話 腹と心が満たされかけた夜

3人は薄暗いラウンジで、冷蔵庫から取り出した飲み物を飲みながら会話を続けている。


「刀刃の家系血って何なんだ?」

「…。打刀うちがたな


虎汰はテーブルに置いてあるポテチに手を伸ばしながら返事をする。


「打刀ってなんだ?」


錫成はコーラを飲みながら虎汰に質問をする。


「ちょうどいいサイズの刀って思っといてくれれば問題ねぇよ。」


虎汰は手に取ったポテチをクルクルと回しながら眺めている。


「ふーん。っていうかポテチ食わねぇの?」

「……食ったことねぇもんは、ちょっとな」

「うっそ!刀刃ポテチ食ったことないの?!おぼっちゃまの中でもレベルが違いすぎるだろ!なぁ玻璃田!」

「あぁ、ポテチを食った事がないと言うやつは初めて見た。

…。もしかして刀刃。お前さっきのパーティで何も食べていなかったのって…」

「おう…」

「ええぇぇ?!お前さっきのパーティで何も食べなかったのか?!美味かったのに!!」


錫成はソファに胡座をかき、両膝に手を置いて驚いている。


「いや…もし口に合わなかったら鳴地先生に申し訳ねぇし…別にそんな腹減ってなかったから…」

「つったって今日の遅めの昼ごはん的な感じだったから、昼夜どっちも抜いてるみたいなもんだろ!食え!ポテチ食え!」


錫成は虎汰の腕をグイっと押し、ポテチを食べるよう促している。


「わ、分かったから離せ…」


虎汰は錫成の手をパッと払いのけ、手に持ったポテチを食べた。


「…。」

「どうだ?!美味いだろ!」


錫成はニコニコとした笑顔で虎汰を見ている。


「いや…。悪い…俺嫌いだコレ…」


虎汰は口に残ったポテチを緑茶で流し込んだ。

その場の空気が、一瞬だけ静まった。


「えぇぇぇぇええ!マジかよ!!」


うげぇと舌を出している虎汰を見て、錫成は驚いていた。


「…。和食なら食えるのか?」


玻璃田はあごに手を当て、考えながら虎汰に質問をした。


「あぁ、和食で食べられないもんはねぇな」

「そうか、…少し待っていろ。」


玻璃田は奥のちょっとしたキッチンスペースへ行き、何かを作り始めた。


「待たせたな。これでも食って腹を満たしておけ。」


玻璃田が戻ってくると、手には焼きうどんを持っていた。


「すっげー!玻璃田料理できんの?!俺も!俺も食べたい!」

「分かった。少し待ってろ。刀刃は腹が減っているだろう。先に食べていろ。」


玻璃田は虎汰の前に焼うどんを出し、再度キッチンへ戻っていった。


「良かったな刀刃!腹減ってんだろ?早く食えよ!」


錫成はニカッと笑いながら、焼うどんを食べるよう虎汰に進める。


「お…おう。」


虎汰はパキンと割り箸を割り、お皿を手に取った。


「いただきます。」


1口食べた虎汰は、あまりのおいしさに感動していた。


「うっっ…ま!!うめぇ!玻璃田!すっげぇうめぇよこれ!」

「マジで?!いいなー!俺も早く食いてー!」


焼うどんを食べながら、虎汰は今日一番の顔で笑っていた。


「ふーー…マジでおいしかった…玻璃田ありがとな」


虎汰はソファに深く座り、玻璃田へお礼を述べた。


「そんなに美味そうに食ってくれるとは思っていなかった。俺こそ嬉しい思いをさせてくれたことを感謝する。」


玻璃田は眉間にしわを寄せながら、ニコッと笑った。


「やー、今日一日で色んな面を見れて楽しかったぜー!2人共これからよろしくな!」


錫成は両手をそれぞれ虎汰と玻璃田の前に出し、2人はそれぞれ錫成の手を取って握手をした。


「…。おう。」

「あぁ、こちらこそよろしく頼む。」


焼うどんの食器を各々で片した後、3人はラウンジを出た。


「なぁなぁ、明日の朝飯って何喰うか2人共決めてたりすんのか?」


錫成がラウンジ前で、くるりと体の向きを変えて2人に話しかける。


「いや…。俺は特に何も…」

「あぁ、俺もまだ材料が何もないからな…特に何も決めていないが。」

「だったらさ、明日の朝飯一緒に学食へ食いに行かねーか?!」


錫成は目をらんらんと輝かせ、鼻息荒く提案した。


「…。分かった。」

「あぁ、それは良い案だな。」

「よっしゃ決まりー!それじゃあ明日朝7時に1階ロビー集合な!」


3人はラウンジ前で解散し、それぞれ自室に戻っていった。


虎汰は自分の部屋の前に立ち、術を唱える


「印血」


スマートフォンを起動すると、見慣れたアプリの中に1つ鍵のマークが書かれたアプリを見つけた。


「これが寮の鍵か…」


アプリを起動すると、「自室のドアノブへスマートフォンを当ててください」という文字が出てきた。

指示通りにスマートフォンをドアノブへ当てると、ガチャリという音が響き、ドアが開いた。


「すっげぇ…」


虎汰はスマートフォンをポケットにしまった。


バタン

虎汰は自室に入りドアを閉め、ズルズルとドアに寄りかかりながらしゃがみこんだ。


顔を手で覆い、大きくため息をつく。


「っはぁぁぁ…」


しばらく真っ暗な部屋の中、シンと静まり返った空気だけが漂っていた。


少し経った後、虎汰はユラユラと立ち上がり、部屋の電気をつけた。

電気をつけると、玄関からまっすぐに伸びた廊下がダウンライトで照らされている。


右側の壁には2つ、左側の壁には1つドアがあった。

虎汰は廊下をまっすぐ進み、一番奥のドアを開けた。


「広っ…」


ドアの先には大きなLDKが広がっている。

部屋の右側にはキッチンがあり、その奥にダイニングが続いていた。

部屋の中央にはソファとローテーブルがあり、壁には大きなテレビが掛かっており、

部屋の左奥には大きな窓がある。

その先にはバルコニーがあった。


虎汰は着ていた詰襟制服を脱ぎ、荷物と一緒にソファの上に置いた。


そのまま歩いて大きな窓を開くと、少しだけ温かい夜風がぶわっと部屋の中に入ってきた。


バルコニーに出ると川のせせらぎ音が聞こえ、その音に意識を向けるようにそっと目を閉じた。


(今日は色んなことがありすぎた…。学校で話しかけてくれる奴らが沢山いて、入学式に出て、人生で初めてポテチを食べて、同い年の奴に飯を作ってもらって…。)


今日の事を頭で思い出しながら、スッと目を開いた。

遠くの方の空が明るくなっており、あそこに学校があるんだろうと考えながら、バルコニーの手すりに肘をついて、しばらく物思いにふけっていた。


30分ほどバルコニーで頭の中を整理した後

虎汰は部屋に戻り、窓を閉めた。


「風呂入って寝るか…」


大きく体を上に伸ばしながら廊下へ向かう。


虎汰は廊下へ入ると、右側にあるドアを開いた。


「寝室…ベッドかぁ…」


虎汰は、はぁとため息をつきながらドアを閉めた。


「じゃあこっちは…」


反対側のドアを開けると1つはトイレ、もう1つは洗面所につながるドアだった。


「風呂はどこだ…」


虎汰は洗面所のドアに入り、壁に設置された洗面台に近づくと、背面に風呂場があるのを見つけた。

中は黒ベースの風呂場になっていた。


「せめぇ…」


よくあるタイプの風呂場だが、虎汰の家は5人ぐらいが伸び伸びと入れる浴槽だったため、

初めての一人暮らしの風呂場はとにかく狭く感じていた。


ブツブツと文句を言いながら、シャワーだけ浴びた虎汰は

寝間着の着物に着替えて寝支度を済ませ、寝室へ入った。


大きなベッドは、1人ぼっちであることがより強調される。


「つっかれたー…」


虎汰は朝6時に目覚まし時計をセットし、先ほど十薬から処方された薬を飲み、目を閉じると、意外なほどすぐに眠りへ落ちていった。


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