第12話 腹と心が満たされかけた夜
3人は薄暗いラウンジで、冷蔵庫から取り出した飲み物を飲みながら会話を続けている。
「刀刃の家系血って何なんだ?」
「…。打刀」
虎汰はテーブルに置いてあるポテチに手を伸ばしながら返事をする。
「打刀ってなんだ?」
錫成はコーラを飲みながら虎汰に質問をする。
「ちょうどいいサイズの刀って思っといてくれれば問題ねぇよ。」
虎汰は手に取ったポテチをクルクルと回しながら眺めている。
「ふーん。っていうかポテチ食わねぇの?」
「……食ったことねぇもんは、ちょっとな」
「うっそ!刀刃ポテチ食ったことないの?!おぼっちゃまの中でもレベルが違いすぎるだろ!なぁ玻璃田!」
「あぁ、ポテチを食った事がないと言うやつは初めて見た。
…。もしかして刀刃。お前さっきのパーティで何も食べていなかったのって…」
「おう…」
「ええぇぇ?!お前さっきのパーティで何も食べなかったのか?!美味かったのに!!」
錫成はソファに胡座をかき、両膝に手を置いて驚いている。
「いや…もし口に合わなかったら鳴地先生に申し訳ねぇし…別にそんな腹減ってなかったから…」
「つったって今日の遅めの昼ごはん的な感じだったから、昼夜どっちも抜いてるみたいなもんだろ!食え!ポテチ食え!」
錫成は虎汰の腕をグイっと押し、ポテチを食べるよう促している。
「わ、分かったから離せ…」
虎汰は錫成の手をパッと払いのけ、手に持ったポテチを食べた。
「…。」
「どうだ?!美味いだろ!」
錫成はニコニコとした笑顔で虎汰を見ている。
「いや…。悪い…俺嫌いだコレ…」
虎汰は口に残ったポテチを緑茶で流し込んだ。
その場の空気が、一瞬だけ静まった。
「えぇぇぇぇええ!マジかよ!!」
うげぇと舌を出している虎汰を見て、錫成は驚いていた。
「…。和食なら食えるのか?」
玻璃田はあごに手を当て、考えながら虎汰に質問をした。
「あぁ、和食で食べられないもんはねぇな」
「そうか、…少し待っていろ。」
玻璃田は奥のちょっとしたキッチンスペースへ行き、何かを作り始めた。
「待たせたな。これでも食って腹を満たしておけ。」
玻璃田が戻ってくると、手には焼きうどんを持っていた。
「すっげー!玻璃田料理できんの?!俺も!俺も食べたい!」
「分かった。少し待ってろ。刀刃は腹が減っているだろう。先に食べていろ。」
玻璃田は虎汰の前に焼うどんを出し、再度キッチンへ戻っていった。
「良かったな刀刃!腹減ってんだろ?早く食えよ!」
錫成はニカッと笑いながら、焼うどんを食べるよう虎汰に進める。
「お…おう。」
虎汰はパキンと割り箸を割り、お皿を手に取った。
「いただきます。」
1口食べた虎汰は、あまりのおいしさに感動していた。
「うっっ…ま!!うめぇ!玻璃田!すっげぇうめぇよこれ!」
「マジで?!いいなー!俺も早く食いてー!」
焼うどんを食べながら、虎汰は今日一番の顔で笑っていた。
「ふーー…マジでおいしかった…玻璃田ありがとな」
虎汰はソファに深く座り、玻璃田へお礼を述べた。
「そんなに美味そうに食ってくれるとは思っていなかった。俺こそ嬉しい思いをさせてくれたことを感謝する。」
玻璃田は眉間にしわを寄せながら、ニコッと笑った。
「やー、今日一日で色んな面を見れて楽しかったぜー!2人共これからよろしくな!」
錫成は両手をそれぞれ虎汰と玻璃田の前に出し、2人はそれぞれ錫成の手を取って握手をした。
「…。おう。」
「あぁ、こちらこそよろしく頼む。」
焼うどんの食器を各々で片した後、3人はラウンジを出た。
「なぁなぁ、明日の朝飯って何喰うか2人共決めてたりすんのか?」
錫成がラウンジ前で、くるりと体の向きを変えて2人に話しかける。
「いや…。俺は特に何も…」
「あぁ、俺もまだ材料が何もないからな…特に何も決めていないが。」
「だったらさ、明日の朝飯一緒に学食へ食いに行かねーか?!」
錫成は目をらんらんと輝かせ、鼻息荒く提案した。
「…。分かった。」
「あぁ、それは良い案だな。」
「よっしゃ決まりー!それじゃあ明日朝7時に1階ロビー集合な!」
3人はラウンジ前で解散し、それぞれ自室に戻っていった。
虎汰は自分の部屋の前に立ち、術を唱える
「印血」
スマートフォンを起動すると、見慣れたアプリの中に1つ鍵のマークが書かれたアプリを見つけた。
「これが寮の鍵か…」
アプリを起動すると、「自室のドアノブへスマートフォンを当ててください」という文字が出てきた。
指示通りにスマートフォンをドアノブへ当てると、ガチャリという音が響き、ドアが開いた。
「すっげぇ…」
虎汰はスマートフォンをポケットにしまった。
バタン
虎汰は自室に入りドアを閉め、ズルズルとドアに寄りかかりながらしゃがみこんだ。
顔を手で覆い、大きくため息をつく。
「っはぁぁぁ…」
しばらく真っ暗な部屋の中、シンと静まり返った空気だけが漂っていた。
少し経った後、虎汰はユラユラと立ち上がり、部屋の電気をつけた。
電気をつけると、玄関からまっすぐに伸びた廊下がダウンライトで照らされている。
右側の壁には2つ、左側の壁には1つドアがあった。
虎汰は廊下をまっすぐ進み、一番奥のドアを開けた。
「広っ…」
ドアの先には大きなLDKが広がっている。
部屋の右側にはキッチンがあり、その奥にダイニングが続いていた。
部屋の中央にはソファとローテーブルがあり、壁には大きなテレビが掛かっており、
部屋の左奥には大きな窓がある。
その先にはバルコニーがあった。
虎汰は着ていた詰襟制服を脱ぎ、荷物と一緒にソファの上に置いた。
そのまま歩いて大きな窓を開くと、少しだけ温かい夜風がぶわっと部屋の中に入ってきた。
バルコニーに出ると川のせせらぎ音が聞こえ、その音に意識を向けるようにそっと目を閉じた。
(今日は色んなことがありすぎた…。学校で話しかけてくれる奴らが沢山いて、入学式に出て、人生で初めてポテチを食べて、同い年の奴に飯を作ってもらって…。)
今日の事を頭で思い出しながら、スッと目を開いた。
遠くの方の空が明るくなっており、あそこに学校があるんだろうと考えながら、バルコニーの手すりに肘をついて、しばらく物思いに耽っていた。
30分ほどバルコニーで頭の中を整理した後
虎汰は部屋に戻り、窓を閉めた。
「風呂入って寝るか…」
大きく体を上に伸ばしながら廊下へ向かう。
虎汰は廊下へ入ると、右側にあるドアを開いた。
「寝室…ベッドかぁ…」
虎汰は、はぁとため息をつきながらドアを閉めた。
「じゃあこっちは…」
反対側のドアを開けると1つはトイレ、もう1つは洗面所につながるドアだった。
「風呂はどこだ…」
虎汰は洗面所のドアに入り、壁に設置された洗面台に近づくと、背面に風呂場があるのを見つけた。
中は黒ベースの風呂場になっていた。
「せめぇ…」
よくあるタイプの風呂場だが、虎汰の家は5人ぐらいが伸び伸びと入れる浴槽だったため、
初めての一人暮らしの風呂場はとにかく狭く感じていた。
ブツブツと文句を言いながら、シャワーだけ浴びた虎汰は
寝間着の着物に着替えて寝支度を済ませ、寝室へ入った。
大きなベッドは、1人ぼっちであることがより強調される。
「つっかれたー…」
虎汰は朝6時に目覚まし時計をセットし、先ほど十薬から処方された薬を飲み、目を閉じると、意外なほどすぐに眠りへ落ちていった。




