第11話 にぎやかな夜、噛みしめた違和感
日が傾き始めた頃
癸丑が住む寮、川駕駅にある2号棟4階では、ワイワイと賑やかな時間が流れていた。
「鳴地先生~私ここに来る代わりに鳴地先生を引きずってでも研究室に連れてこいって層縁先生に言われてるんです~。
なので引きずってでも連れていかせてもらいますよ~」
途中から合流した岩城が鳴地の腰を肘でえいえいと突っついている。
「まぐまぐ!これ美味かった!」
「え?!ホント?!わーい!わっちゃんありがとー!」
裁時はお皿に食べ物を乗せて、岩城へ差し出している。
「わたくしの名前は宝然瑠璃!血液型は石型ですわ!よろしくお願いいたしますわ~!」
宝石を散りばめた髪飾りと、光を弾く藍色の三つ編みが印象的な少女が、虎汰の前に立っていた。
「お、おう。俺は刀刃。よろしくな。」
「迷子になられたと皆さん大騒ぎでしたので、しっかりお名前は覚えさせていただいておりますわ!こちらこそよろしくお願いいたしますわ!」
宝然は刀刃が差し出した手を握り、笑顔で握手をしながら、悪意なく虎汰の胸に小さな棘を残していった。
部屋のあちらこちらで話が盛り上がり、時刻は17時を指していた。
「はっ!もう帰らなきゃ!!」
岩城は時計を見るなりギョッとしている。
「そ、そうだね!僕も層縁先生に会いに行かなくちゃ…
みんなー!ちゅうもーく!」
鳴地は手を鳴らし、生徒の目線を集める。
「もうそろそろ僕とまぐちゃん、裁時さんは解散させてもらうけど
みんなは良い頃合い見計らって解散してね!
明日も朝から授業があるから遅刻しないように!」
「みんな今度は研究室紹介で会おうねー!」
「何か困ったことがあれば何でも私に聞け!じゃあなクソガキ共!」
3人は揃ってエレベーターへ向かっていった。
「おぉ、ちょっと待ちぃ!」
生徒たちの中をかき分けて、1人の青年が前へ飛び出した。
青年に続き、紫色の髪色をし、頭の下の方で2つのお団子を作っている女子も一緒に飛び出した。
「鳴地先生、綺麗な先輩おふた方、ちょっと個別で相談したいことがあるんで僕も一緒に下行かせてください!」
「う、うちも!」
岩城と裁時は「なんだこいつ…」と言わんばかりの苦い顔をしながら青年を見ている。
「そんな顔せんといてください!あぁ、自己紹介してなかったですね。僕の名前は絹織 綴。んでこっちが…」
「あっ、えっと…丹朱ちりです!」
「んじゃあ癸丑のみんな~僕ら先生達見送るついでに個別相談してくるから、お先に失礼させてもらうわぁ~」
関西弁の青年はケラケラと笑いながら、4人とエレベーターへ乗って下へ降りていった。
「賑やかな奴だったなぁ~」
一瞬静まり返った空気が、療ヶ裂の一言で元の空気に戻った。
他の生徒達もワイワイと会話を再開した。
「やぁ、こたちー。楽しんでるー?」
虎汰は1人で端っこに座っていた。
「そう見えるか?」
「見えない~」
アハハと笑う療ヶ裂の隣には、小さな少女が立っていた。
「あ、えっと、私、十薬 千草っていいます!療ヶ裂君と同じ医型です!よろしくお願いいたします!」
十薬の薄い若草色のツインテールがぽよんぽよんと揺れている。
「朝こたちー倒れそうになってたから、もしかして貧血系かな~と思ってちーちゃんに声かけたんだ~」
「は、はい!私一応自身で作成した薬じゃなければ、診療ができる医型の方と一緒にお薬を処方することができるので…!」
十薬が身に着けている白衣のようなマントをバサッと広げると
内側にはとんでもない数の錠剤が収納されていた。
「僕これでも一応診察できるからちょっと見せてよ~。手術とか大きい病気系は見れたとしても病院へ行ってもらうしかないけどね~
そんじゃこたちー、おてて貸ーして」
療ヶ裂は虎汰の前に座り、虎汰の両手を握る。
虎汰が療ヶ裂を見ていると、徐々に療ヶ裂の目が充血していった。
「お前…それって…」
「まぁまぁ、そんなことよりゆっくり息を吸って~吐いて~」
療ヶ裂の白目が赤色に染まり、しばらく虎汰を見続けた後
スッと目を閉じ、次に目を開いたときは充血も無くなっていた。
「うん、極度のストレスからくる体調不良だったみたいだね。若干貧血も出ているみたいだから、ちーちゃんにお薬出してもらおうかな。」
「は、はい!」
十薬は迷いなく、1つの小瓶を手に取り、中に入った薬を紙で包んで虎汰へ渡した。
「これは貧血に効くお薬です!今日と明日、朝昼晩飲んでくださいね!」
十薬はギュッと虎汰に薬を握らせた。
「あ、ありがとう…」
「んじゃあこたちー楽しんでね~」
療ヶ裂は十薬と一緒に生徒たちの輪に戻っていった。
虎汰は手に握った薬を見つめている。
「なにしてんの虎汰君!」
「…っ!!」
突然目の前に現れた雨宮に驚き、椅子から落ちかけた。
「なんだお前…」
ふぅと胸をなでおろし、雨宮を見ると
横には無表情でうっすらと紫がかった黒色の綺麗な長い髪の毛をし、頭頂部左右に三つ編みで作られた輪っかのある髪型をした少女が立っていた。
「さっきお友達になった!私と同じ呪術型の子ー!」
雨宮は少女の肩をぐいぐいと押しながら虎汰に近づける。
「あっ…えっと…よろしく…」
「よろしく。我、蠱邑。中国からの超新星。」
蠱邑は無表情のまま目元にピースを当てている。
「お、おう…よろしく…」
「お前、既に有名人。入学初日に迷い人。」
「うっ…」
「我、呪術型。がっつり呪う。怖がれ。」
蠱邑は手をお化けのように前に出し、ゆらゆらと揺らしている。
「蠱邑ちゃんそんなことしないって言ってたじゃん!」
雨宮がぺしっとツッコミのように、蠱邑の鎖骨当たりを叩く。
「冗談冗談。安心する。虎汰。」
蠱邑は虎汰に手を差し出し、虎汰はその手を握って握手をした。
ふと虎汰が部屋を見ると、生徒たちはバラバラと帰り始めていた。
「俺も帰るわ。」
虎汰はスッと立ち上がる。
「えぇー!もう帰っちゃうのー?!」
「霖。早い。明日。」
蠱邑は自身の腕時計を指差している。
「そっかー、じゃあ私達も変えろっかー」
ぶーぶーと言いながら、雨宮は虎汰と蠱邑に着いてエレベーターへ向かう。
エレベーターホールでは玻璃田ともう一人の少年が話し合いながら、エレベーターを待っていた。
ポーン
ちょうどエレベーターが到着し、5名はエレベーターに乗り込んだ。
3階へ到着し、エレベーターのドアが開き虎汰は降りる。
「虎汰君!また明日ねー!」
「再见」
雨宮はエレベーターの中から手を振り、虎汰は「じゃあな」と片手を振った。
エレベーターのドアが閉まり、3階のエレベーターホールには虎汰と玻璃田、銀髪の少年が残った。
「刀刃、すぐに部屋に帰る必要が無ければ3階ラウンジで少し話さないか?」
玻璃田に話しかけられ、部屋に戻ろうとしていた虎汰は足を止めて振り返った。
「おう…」
四階の大部屋とは違い、三階のラウンジは静かだった。
照明は落とされ、虎汰はようやく息ができる気がした。
「2人で話してたんじゃないか?邪魔するのも申し訳ねぇんだけど…」
虎汰は頬を指でポリポリとかいている。
「邪魔なわけがないだろう。俺が呼んだのに。」
玻璃田は鋭い目つきにより力が入った。
「玻璃田怖ぇよ!あ、俺錫成 缶々《かんかん》!挨拶まだだったよな!よろしくな!」
小柄な少年は足をプラプラとさせながらソファに座り、虎汰へ手を差し出した。
「あぁ、よろしく。俺は…」
「刀刃だろ!入学初日に学校内で迷子になるなんて面白いやつだな!」
虎汰は恥ずかしそうに落ち込んだ。
「俺の血液型は玻璃田とおんなじ精製型で、家系血は錫精製!」
「錫…?」
「刀刃は缶詰とか食わねぇか?桃の缶詰とかミカンの缶詰とか…」
「缶詰は食ったことねぇな…でも物は分かる。」
「っかー!おぼっちゃんかよおめぇは!」
「お前もおぼっちゃんだろ…」
「まぁ金属の一種と思っといてくれればいいさ!よろしくな!」
「金属…」
虎汰は金属という言葉を聞き、下唇を小さくキュッと噛んだ。




