第10話 癸丑、入寮
地下の出口を出ると、舗装された道が川沿いにゆるやかに伸びていた。
等間隔に立つ街灯が、その先まで続いている。
「これが…寮…?」
虎汰は景色を見ながら固まっている。
「川駕の寮は和寄りなモダンな寮で、落ち着くんだよなぁ~
私んところは和要素ねぇから、寂しいんだよな。」
裁時がついてこいと、少し行ったところで腕を振っている。
「お前らの寮は2号棟だってさ。1号棟はお前の2つ上の連中だったはずだ。朝は電車で顔合わせるかもな。」
「2つ上の先輩…」
「ま、朝学校行くとき電車で一緒になることもあるだろうから、そん時ゃちゃんと挨拶しろよ…なっ!!!」
裁時は勢いよく虎汰の背中を叩いた。
「いっでっっ!!」
「管理棟での仕返しじゃボケー!」
「謝ったじゃないっすか…!つっっ…!」
裁時はたったかと走っていき、虎汰も背中をさすりながら裁時を追いかけた。
2人は2号棟に到着し、寮を見上げている。
「でっか…」
黒を基調とした四階建ての建物が、川沿いにどっしりと建っていた。
外壁には縦に並ぶ木製のルーバーが設えられ、外からの視線をやわらかく遮っている。
2階と3階には個室があるのか、同じ大きさの窓が規則正しく並んでいる。
4階部分の角地には、ひときわ目を引く大きなガラス窓があった。
そこには何人かの人影が見えた。
「あ、もしかしてみんな3階にいるのかも…」
虎汰は指をさし、裁時は見上げながら「そうだな!」と言った。
足元に視線を落とすと、建物の周囲には小さな日本庭園が広がっていた。
虎汰と裁時は飛石を踏みながら寮の入口へ入っていった。
大きな扉は自動ドアになっており、中へ入ると大きなエントランスになっている。
入口手前付近には植栽が飾られ、フロントの大きなカウンターには1人の女性が立っていた。
「おっ…お帰りなさいませ!」
虎汰と裁時を見つけた女性はバタバタとカウンター横の扉を開けて出てきた。
「えっと刀刃様…ですよね!初めまして!
私、この寮のコンシェルジュをしています!田口と申します!よろしくお願いします!」
田口は2人に向かって90度のお辞儀をした。
「そ、そんな頭を下げないで欲しい…!」
虎汰は慌てながら田口に頭をあげるよう言った。
「えっと…お隣の方は…」
「私は裁時、こいつの付き添いでな。鳴地先生からなんか聞いてねぇの?」
「あっ!裁時様!はい!お伺いしております!」
田口は裁時に向かって、再び90度のお辞儀をした。
「いいっていいって!私ここの寮の人間でもないし!頭下げんなって!」
「それでは裁時様、刀刃様を連れてきていただきありがとうございました。ここからは私が3階まで案内させていただきますので…。」
田口は虎汰を連れて、奥のエレベーターホールへ向かおうとする。
「えー、ここで終わりぃ?私も行きてーんだけど」
「通行許可のない方はお入りいただけません。」
田口は先ほどとは打って変わって険しい顔でぴしゃりと言った。
「そだよなー。あ、じゃあ今から鳴地先生に連絡入れるからちょっと待っててくんね?」
裁時はポケットからスマホを取り出し、鳴地へ電話をかけた。
「おっけー、じゃあ待ってるわぁ」
ピッと電話を切り、スマホをポケットにしまい直した。
「もうすぐで鳴地先生降りてくっからちょっと待っててよ田口さん。」
「やー!ごめんね裁時さん!」
奥のエレベーターホールから鳴地がパタパタと走ってきた。
「刀刃君をここまで連れてきてくれてありがとー!
刀刃君!本当に心配したんだからね?!」
鳴地は虎汰に人差し指を向け、少し怒った顔をしている。
「す、すみませんでした…」
虎汰はしおしおと申し訳なさそうに謝った。
「それじゃあ裁時さん、刀刃君3階へ行こう!
田口さん、裁時さんに臨時入館証の発行をしてもらえる?」
「は、はい!すぐに!」
田口はカウンターへ走って行き、しばらくパソコンを触った後
再度走って何かをもって、戻ってきた。
「裁時様、こちら本日限りの入館証となります!使い方は…?」
「だいじょぶだいじょぶーサンキュー」
裁時は田口から入館証を受け取り、3人はエレベーターホールへ向かっていった。
「よし、刀刃君エレベーターの使い方を教えるね」
「それぐらい知ってます先生…」
「まぁまぁ!」
ポーンと高い音が響き、到着したエレベーターに3人が乗り込む。
「刀刃君が使えるのは2階と4階だけ。
女の子は3階と4階。ちゃんと覚えてね。
それでエレベーターの使い方なんだけど、行きたい階層のボタンを押すときに印血が必要になるからね!
さ!そしたら4階のボタンを押しながら印血を使ってみよう!」
鳴地にぐいぐいと押されながら、虎汰はエレベーターのボタンに振れた。
「印血!」
術を唱えると、4のボタンが白く光り、エレベーターが上に向かって動き出した。
「ちなみに、裁時さんが持ってる臨時パスは何階でも降りられるんだけど、原則先生からの許可が無いと臨時パスは発行されないからね!」
4階に到着すると、大きな談話室のようになっている。
ソファが部屋の中央に円を描くように並んでおり、冷蔵庫や電子レンジなども置いていた。
「わーー!虎汰君だーー!!」
雨宮がエレベーターから出てきた虎汰を見つけると、他の生徒達も虎汰の方に視線を移した。
「こたちー良かったー!はぐれた時どうしようかと思ったんだよ~」
療ヶ裂は刀刃の頭をぐりぐりとしている。
「無事なようで良かった。」
玻璃田は少し離れたところで、鋭い目つきを虎汰に向けている。
「はーい!みんなちゅうもーく!今回迷子になった虎汰君をここに連れてきてくれた先輩を紹介しまーす!」
虎汰は少し申し訳なさそうな顔をして、しゅんとしている。
裁時はニッと笑い、虎汰と鳴地の前に立つ。
「おう!クソガキども!私は裁時 判だ!覚えとけ!」
裁時は腕を組み、堂々と足を開いて立った。
生徒たちはパチパチと拍手をしている。
「裁時さんは悠久裁判所の裁判官を務められてるすごーい方だけど、裁時さんのお世話になるようなことはしないでねぇ~」
「おう!お前らと顔見知りになったが、裁判所では一切の忖度無しで判決を下す!精々、私の前に立つことにならないようにな!!」
カッカッカと腕を組んだまま、天井を見上げて笑っている。
「よし!それじゃあみんな揃ったことだし、裁時さんがもしよければこのまま癸丑入学おめでとうパーティーを始めようと思うんだけど、どう?
これから他にもまぐちゃんとか来るけど!」
「なに?!まぐまぐ来んのか?!そんなら残らねぇ理由はねぇだろ!」
「えー、それでは癸丑の担任としてご挨拶させていただきます!鳴地です!今日は本当にお疲れさまでした!
明日から色んなことを勉強するかと思いますが、ここにいる裁時先輩や、色んな人に助けてもらいながら、成長していってください!
入学おめでとう!かんぱーい!」
「「かんぱーい!!」」




