美咲との出会い
「同志! ビラが足りないぞ!」
朝からテンションMAXの声が、商店街に響き渡る。
赤いハチマキ、白いシャツ、そして情熱100%の目――それが美咲だった。
「……あのさ、美咲さん。俺、まだ転生3日目なんだけど?」
「関係ない! 革命に休暇はない!」
「いや、俺の人生に休暇がなかったから転生したんだけど!?」
俺は令和から昭和に転生した男、武井昭夫。未来知識を持ってるけど、今のところ使い道は「このあと高度経済成長が来る」くらい。
そんな俺が、なぜか学生運動の現場でビラ配りをしている。しかも、隣には熱血ヒロイン。
「同志、今日の演説、頼んだぞ!」
「また俺!? 昨日もやったじゃん!」
「同志の声には力がある! あの八百屋のおじさん、泣いてたぞ!」
「それ、玉ねぎのせいじゃない?」
美咲はとにかく一直線。情熱で世界を変えようとしてるタイプだ。
俺のことを「同志!」と呼び、完全に仲間認定している。いや、まだ俺、思想的には無所属なんだけど。
「……ていうか、なんで俺にそんなに懐いてるの?」
「同志の言葉には、未来を感じるんだ!」
「それ、たぶん未来人だからだよ」
「え?」
「いや、なんでもない」
うっかり未来知識バレしそうになった。危ない危ない。
でも、美咲の目は本気だった。俺の言葉を信じて、行動してくれている。
「同志、私たちの運動は、まだ小さい。でも、必ず大きなうねりになる!」
「……それ、どこかで聞いたことあるセリフだな」
「同志がいれば、私は信じられる!」
「……あのさ、美咲さん」
「なんだ?」
「俺、まだ君のこと、よく知らないんだけど」
「私もだ! でも、同志ってそういうもんだろ!」
「いや、せめて名前くらいは……」
「美咲だ!」
「知ってたけど、ありがとう」
この人、熱血すぎて情報が後回しになるタイプだな。
でも、なんだろう。ちょっとだけ、嬉しい。
「同志、今日は一緒に学内でビラを配ろう!」
「え、学内って……東大?」
「そうだ! 同志の母校だろう!」
「いや、俺、まだ入学した実感ないんだけど……」
こうして俺は、美咲とともに東大構内へ。
赤門をくぐると、そこにはすでに数人の学生たちが集まっていた。
「同志昭夫、来たか!」
「おお、同志美咲も!」
「……え、俺、もう“同志昭夫”って呼ばれてるの?」
「当然だ! 同志の演説は、すでに伝説になっている!」
「昨日の八百屋前のやつが!?」
「“玉ねぎの涙”と呼ばれている!」
「それ、絶対違う意味だろ!」
笑いながらも、俺は少しだけ誇らしかった。
この時代に来て、誰かに必要とされてる。それだけで、ちょっと救われる。
「同志、これからも一緒に戦ってくれるか?」
「……まあ、せっかく転生したしな」
「よし! じゃあ、まずはビラ100枚ノルマだ!」
「え、やっぱり体育会系!?」
こうして俺は、美咲とともに学生運動の現場に足を踏み入れた。
未来知識を持つ俺と、情熱で突き進む美咲――この出会いが、後に“昭和革命”と呼ばれる歴史改変の始まりになるとは、まだ誰も知らなかった。
「……俺の昭和ライフ、ますますカオスになってきたな」