黒電話と白黒テレビに驚いた日
「……これ、どうやってかけるんだっけ?」
俺は黒電話の前で固まっていた。ダイヤル式。指を突っ込んで回すやつ。令和生まれの俺には、もはや謎の儀式だ。
「えーと、まず受話器を取って……あれ、ツーって鳴ってる。これが“話中”じゃないのか?」
昭和の通信技術、難易度高すぎる。
昨日、目覚めたら昭和だった俺。転生したら学生運動のカリスマ候補だった件はさておき、まずは生活に慣れないと話にならない。
「テレビ……テレビはどこだ?」
部屋の隅に鎮座していたのは、木枠の箱型テレビ。しかも白黒。画面が小さい。しかも、映ってるのは演歌歌手が真顔で歌ってる映像。
「カラーじゃないのかよ! っていうか、リモコンは!? え、まさか……手動!?」
チャンネルを変えようとしたら、ガチャガチャ回すタイプだった。昭和、筋トレ仕様かよ。
「……これが“昭和レトロ”ってやつか。令和の俺には、ただの不便だぞ」
冷蔵庫を開ければ氷が溶けかけてるし、洗濯機は手動脱水。風呂は薪で沸かすスタイル。文明退化にもほどがある。
「未来知識、使いたいけど……スマホもネットもないんじゃ、ただの物知りじゃね?」
Wikipediaで読んだ歴史の知識はある。だが、実用性は微妙。せめて電子辞書くらい欲しい。
そんな俺の苦悩をよそに、玄関がドンドンと叩かれた。
「同志! 起きているか!」
また来たよ、美咲。昨日の赤ハチマキ女子。熱血すぎて、朝からテンションが昭和の特撮ヒーロー並み。
「おはようございます……って、まだ6時じゃん!」
「革命に寝坊は許されない!」
「革命って、朝練あるの!?」
美咲は今日も元気だった。ビラ配りの準備だとかで、俺を連れ出そうとする。
「ちょっと待って、美咲さん。俺、まだ昭和の生活に慣れてなくて……」
「慣れる前に、慣れさせる! それが革命だ!」
「いや、革命ってそんな体育会系だったっけ!?」
商店街を歩けば、八百屋のおじさんが「今日は大根が安いよ!」と叫び、駄菓子屋では子どもたちがベーゴマで遊んでる。
「……昭和、情報量が多すぎる」
美咲はビラを配りながら、通行人に熱く語っていた。
「この国の未来は、我々の手で変えられるんだ!」
「……俺はその“未来”を知ってるけどな」
だが、言えない。言ったら預言者扱いされる。いや、もうされかけてるけど。
「同志、今日の演説、頼んだぞ!」
「え、俺が!? まだ転生2日目なんだけど!?」
「大丈夫だ! 同志ならできる!」
「根拠が熱血すぎる!」
こうして俺は、黒電話と白黒テレビに驚きながら、昭和の街でビラを配り、演説をすることになった。
未来知識? 使う暇もない。
「……俺の昭和ライフ、ハードモードすぎる」