美咲の嫉妬
「同志昭夫、今日の演説は“国民の意識改革”だ!」
「え、またスケールでかくなってない!? 昨日は“エネルギー政策”だったよね!?」
「同志の言葉は、国を動かす力がある!」
「いや、俺の知識、Wikipediaベースだから!」
東大構内の中庭。今日も俺は“革命の星”として壇上に立っていた。
そして、いつものように美咲が隣にいる――はずだった。
「……あれ? 美咲さん、ちょっと距離遠くない?」
「別に!」
「え、玲子みたいな返し!?」
美咲は、いつもなら俺の隣でビラを配ってるのに、今日は少し離れた場所で腕組みしてる。
しかも、視線がチラチラと俺の後ろを見てる。
「……あ、真由か」
真由は今日もカメラ片手に俺に密着取材中。
「スクープ! “革命の星”、今日も輝いてるかも!」
「やめて! その見出し、アイドル雑誌っぽいから!」
真由は俺にぐいぐい近づいてくる。
「昭夫くんって、意外と照れるタイプだよね〜」
「いや、俺、転生者だから! 照れる余裕ないから!」
その様子を見ていた美咲が、ついに動いた。
「同志! ビラが足りないぞ!」
「え、今!? 俺、演説中なんだけど!?」
「今すぐ補充だ! 革命は待ってくれない!」
「いや、恋の革命が始まってる気がする!」
美咲は俺の腕をぐいっと引っ張る。
真由が「おや〜?」とニヤニヤしてる。
玲子は遠くから「くだらないわね」と言いながら、目がちょっと鋭い。
「……美咲さん、もしかして、嫉妬してる?」
「な、なにを言ってるんだ同志! 私は同志として、同志を守っているだけだ!」
「“同志”の密度が高い!」
「同志が他の女に囲まれていたら、革命の士気が下がるだろう!」
「それ、完全に私情じゃない!?」
美咲は顔を真っ赤にして、ビラを配るふりをしながら目をそらした。
俺は恋愛に鈍感なはずなのに、これはさすがにわかる。
「……美咲さん、俺のこと、どう思ってる?」
「同志として、信頼している!」
「それはわかってるけど!」
「同志として、尊敬している!」
「それもわかってるけど!」
「同志として……独占したい!」
「えっ!?」
「……あ、いや、同志として、だぞ!? 同志として!」
「“として”の圧、また来た!」
こうして俺は、美咲の嫉妬を目の当たりにした。
“同志”という言葉の裏に、確実に恋が混ざり始めている。
「……俺の昭和ライフ、恋の火種が燃え始めたな」




