Wikipediaで読んだだけなんだけど
「同志昭夫、次は“国際情勢”について語ってくれ!」
「え、急にスケールでかくない!?」
東大構内の講義室。俺は今日も“革命の星”として演説を求められていた。
学生たちの期待は高まる一方。昨日は教育、今日は経済、そして今日は――国際情勢。
「同志なら、米ソ関係も語れるはずだ!」
「いや、俺、文系だよ!? しかも、Wikipediaで読んだだけだよ!?」
「Wikipediaって何だ?」
「未来の百科事典!」
「すごい! 未来の知識だ!」
「いや、だから浅いんだってば!」
俺の未来知識は、あくまで一般人レベル。
専門家でもないし、論文読んだわけでもない。
なのに、周囲は俺を“預言者”として扱ってくる。
「同志昭夫、アメリカとソ連がキューバを巡って緊張してるらしいが、どう思う?」
「えーと……核戦争寸前だったけど、ケネディが踏みとどまった……はず」
「はず!?」
「いや、そこまで詳しく書いてなかったんだよ!」
「でも、その“はず”に未来がある!」
「未来、雑すぎない!?」
玲子が腕を組んで、冷静に言った。
「あなたの知識、やっぱり不完全ね」
「うん、自分でもそう思う」
「でも、それを認めるのは、少しだけ信頼できる」
「それ、褒めてる?」
「別に……」
「また“別に”!」
美咲が横から割り込んでくる。
「同志の言葉は、たとえ浅くても、情熱がある!」
「いや、情熱で国際問題は解決しないよ!?」
真由がカメラを構えながらニヤニヤしてる。
「スクープ! “Wikipedia革命”、ついに限界かも!」
「やめて! その見出し、炎上するから!」
アナは静かに言った。
「任務だから、情報の精度は重要よ」
「それ、俺に言わないで!」
俺は、未来知識の限界を痛感していた。
Wikipediaで読んだだけの知識では、世界を動かすには足りない。
でも――
「同志昭夫、次は“エネルギー政策”について語ってくれ!」
「えーと……太陽光、すごいよ」
「おおおおおお!!」
なんでそれで盛り上がるの!?
こうして俺は、浅い知識で深い期待を背負い続けることになった。
“革命の星”の中身は、Wikipediaだった――それでも、昭和は動いている。
「……俺の昭和ライフ、そろそろ限界が見えてきたな」




