玲子との論戦
「あなたの案、やっぱり甘いわね」
またそれか。俺は東大の講義室で、玲子と向かい合っていた。
議題は「学生運動と政治の接点」。俺が提案した“統一協議会”の運営方針について、玲子が容赦なくツッコミを入れてくる。
「甘いって……俺、もう砂糖抜いてるつもりなんだけど」
「その例え、論理性ゼロよ」
「例え話って、昭和では通じないの!?」
玲子は今日も冷静だった。官僚の娘らしく、論理と現実主義の塊。
でも最近、俺との議論にちょっと熱が入ってきてる気がする。目が、少しだけ楽しそうだ。
「あなたの“未来知識”とやら、確かに面白い。でも、それを根拠に政策を語るのは危険よ」
「でも、未来で起きることを知ってるなら、予防できるじゃん?」
「予防には現実的な根拠が必要なの。あなたの“Wikipedia”は、出典としては弱すぎる」
「令和ではみんな使ってるんだよ!」
「令和って何よ」
「……未来」
「やっぱり未来人じゃない!」
この流れ、何回目だよ。
「じゃあ、玲子さんはどう思う? 学生運動は、政治にどう関わるべき?」
「理想論ではなく、現実的な影響力を持つべき。政策提言、議員との連携、そして……情報戦」
「情報戦って、昭和にあるの!?」
「あるわ。新聞、ラジオ、噂話。すべてが武器になる」
「それ、ちょっと怖い!」
玲子は机に資料を広げながら、俺に詰め寄る。
「あなたの案、理想的すぎる。でも、そこに現実を加えれば、可能性はある」
「それって……協力してくれるってこと?」
「別に……あなたのためじゃない。運動のためよ」
「出た、“別に”!」
玲子は目をそらしながら、資料を俺に差し出した。
「これ、父の知人から得た情報。教育政策の内部資料よ。使えるかもしれない」
「え、マジで!? それ、官僚ルートじゃん!」
「……あなた、意外と素直に喜ぶのね」
「いや、だってすごいじゃん!」
玲子は少しだけ笑った。ほんの一瞬、ツンがデレに変わった気がした。
「あなた、面白いわ。論理は甘いけど、発想は鋭い。……だから、議論する価値がある」
「それ、褒めてる?」
「別に……」
「また“別に”!」
こうして俺は、玲子との論戦を通じて、少しだけ距離を縮めた。
思想は違う。でも、互いに認め合う何かが、そこにはあった。
「……俺の昭和ライフ、ツンデレとの知的バトルが始まったな」




